書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
- 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです
1 「3)会社の【存在意義】」は、誰もがイメージしやすい“経営的視点”
シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第8回です。今回は途中にクイズ形式を盛り込んでみましたので、ぜひトライしてみてください。
社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と求められるまでもなく、 “経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。
それ自体は何となく分かっているつもりでも、「どうすれば身に付けられるか分からない」「分かったところで自分の役割や目の前の日常業務に追われて、取り組める時間も自信もない」といったあたりが本音ではないでしょうか。
そうした声にお応えするべく、
全社員が持てる“経営的視点”の観点として、
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】 の3つをご紹介しています。
第5回では「1)会社の【成長】」について、第6、7回では2)「会社の【組織力】」について詳述しました。これらは“頭では理解できるけれど、視点の切り替えをかなり意識しないと経営的視点を持つのが難しい”と感じられたかもしれません。
今回からお話しする「3)会社の【存在意義】」は、多くの人にとってはそれほど強く意識しなくてもすぐに持てる視点です。一方で、それを「どのように実行すればよいのか」「そもそも共有できているのか」といった点が課題となってくるでしょう。
2 あなたの会社における「会社の【存在意義】」の状態は?
「会社の【存在意義】」とは何でしょう。最近よく耳にする「パーパス(経営)」がこれに当たるのですが、【存在意義】や「企業目的」は企業理念の一部でもあります。
「企業理念」と「パーパス」の関係、他にも「バリュー」や「ビジョン」といった英語の概念と、日本に昔からある概念との関係は分かりづらいですよね。この辺は私の専門分野ですので、またの機会に誰にも分かりやすい形に整理してお伝えしたいと思います。
ここでは「企業理念」や「パーパス」といった言葉にこだわる必要はありません。「社是」でも「綱領」でも「フィロソフィー」でも構いません。あなたの会社では、会社の【存在意義】を定めているでしょうか。それは全社で共有されているでしょうか。
各社の状態は、以下の5つのケースのどれかに当てはまると思います。
A. 会社の【存在意義】が定められていて、全社で共有されている
B. 会社の【存在意義】が定められているが、十分に共有されていない
C. 会社の【存在意義】が定められているが、絵に描いた餅
D. 会社の【存在意義】が定められているが、トップの本気の言葉ではない
E. そもそも会社の【存在意義】が定められていない
D.のケースは私に言わせれば犯罪です。本気で思ってもいないのに、さも自身の信念であるかのように掲げて、周囲を欺いているわけです。働いていればうすうす気付けるでしょうが、入社するまでは分からないでしょう。社員は転職するまでもんもんと過ごさざるをえません。まして顧客や社会は、不祥事として発覚しない限り実態を知る機会がないのです。
極端な例を挙げれば、トップは地球環境どころか地域の環境汚染すら心の中では屁(へ)とも思っておらず、悪影響を垂れ流しているのに、【存在意義】として「環境に優しい企業」とホームページに書いてある会社です。信じた顧客は事実を知らずに同社の製品を買ってしまい、意に反して環境汚染に加担してしまっているかもしれません。
E.には、会社のトップが会社の【存在意義】を意識している場合と、していない場合があり得ます。
前者には明文化こそしていないものの、実は社員全員が共有している事例があります。例えば一人ひとりが商品の品質にとことんこだわっているといったケース。老舗企業に多いのですが、トップや上司が常日ごろから口頭で「品質に妥協するな」と伝え、背中を見せてきているはずです。
後者は、トップが会社の【存在意義】を定めて共有することの重要性に気付いていないのでしょう。
A.からC.までは、トップが本気の会社の【存在意義】が定められていながらも、その共有の度合いが違うケースです。
3 「会社の【存在意義】」の共有・実行が、 “経営的視点”につながる
「会社の【存在意義】」が明文化されていたとして、その分かりやすさにもよりますが、多くの社員にとってはそれほど強く意識しなくても、すぐに持てる視点ではないかと思います。もちろんその【存在意義】に自身が共感できればという前提ではありますが。
もし共感できないのであれば、違う会社への転職を考えたほうがよいかもしれません。トップが【存在意義】に本気であれば、それに共感し、仕事を通して実行することを求められるからです。共感できないのに、毎日行動を求められるのは、精神的に苦痛でしかないでしょう。
さて、本題に戻ります。「会社の【存在意義】」を意識すれば、“経営的視点”を持つことにつながるというお話です。ここからはおのおのの伏せ字部分にどんな言葉が入るか想像しながら読んでみてください。答えは直後の「→」の後にあります。
(1)社員一人ひとりが実行した1.[〇〇〇〇]に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は2.[〇〇]し、3.[〇〇]していく。
→伏せ字は1.[存在意義]、2.[永続]、3.[発展]です。
【存在意義】として「素材の良さを活かした安全でおいしいお菓子を届ける」を掲げる和菓子店があったとしましょう。【存在意義】を定めたのはトップである社長かもしれませんが、実際にお菓子を作り、届けられるのは現場の社員です。
一人ひとりが日々の仕事を通してこの【存在意義】を共有し、実行していけば、【存在意義】はお菓子の形となって、共感して購入したお客様は喜んでくださるでしょう。
お菓子との出合いが初めてで、偶然であっても、【存在意義】にひとたび共感したお客様は利用し続けてくださるはずです。もちろん同じような【存在意義】を掲げて追究している競合他社があるかもしれません。そこはどちらがより突き詰められるかの真剣勝負です。
でも、恐らくお客様の側からすれば、「素材の良さを活かした安全でおいしいお菓子を届ける」と【存在意義】を掲げる和菓子店が2つ3つと増えたところで、むしろ大歓迎でしょう。競争によって各店の価値はさらに高まり、どのお店も手放せない存在になれるはずです。
共感するお客様に【存在意義】を感じ続けていただければ、自然と売り上げも上がりますし、正当な利益も認めてもらえるでしょう。さらには熱烈なファンとなって、企業から頼まれなくても口コミで良さを広めてくれるはずです。無理などしなくとも会社は永続し、発展していけるのです。
4 【存在意義】は社員全員で作るものだからこそ、“経営的視点”となる
(2)逆に社員の一人でも [〇〇〇〇]を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。
→伏せ字は先ほどの1.と同じ [存在意義]です。
「素材の良さを活かした安全でおいしいお菓子を届ける」と【存在意義】を掲げていた会社が、賞味期限や消費期限を偽装していたと分かったらどうでしょう。あるいは、その日に限って素材の保管状態が良くなかったために、品質の悪いお菓子を販売していたらどうでしょう。
いずれの場合も、お客様は「素材の良さを活かす」や「安全」といった【存在意義】を信じられなくなるでしょう。誰の責任でしょうか。
一義的には、トップである社長が本気の【存在意義】を、社員に伝えきれていなかったのが原因です。しかしながら先ほども申し上げた通り、実際にお菓子を作り、届けられるのは現場の社員です。
社員の誰かが「素材の良さを活かす」や「安全」や「おいしい」のどれかで手を抜いたり、こだわりを捨ててしまったりしたらどうでしょう。社員の一人でも【存在意義】を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなってしまうのです。
トップの社長も現場の一社員も同じレベルで【存在意義】を共有し、実行していかなければなりません。【存在意義】は社員全員で作り上げるものであり、その意味で、一人ひとりが「会社の【存在意義】」を意識できれば、全員が同じように “経営的視点”を持てるのです。
第8回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も引き続き「3)会社の【存在意義】」について、さらに掘り下げてお話しします。
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以上(2023年2月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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