書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
- 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです
1 企業の【存在意義】を定め、全社で共有浸透していくに当たって
シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第9回です。
“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。では「どうすれば身に付けられるのか」について、今回もさらに掘り下げてお話ししていきましょう。
全社員が持てる“経営的視点”の観点として、ご提示している3点
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】
前回、第8回からは、「3)会社の【存在意義】」についてお話ししています。
会社の【存在意義】の状態には5段階ある。まず、そもそも定められているか、いないか。定められている場合は「定められているもののトップの本気の言葉ではない」といった由々しきケースを除いては、「社内での共有浸透度」の高さが問題であるということでした。
「社内での共有浸透度」の高さでいえることは…
(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。
(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。
同時に、会社の【存在意義】を定めて社内に共有浸透させていければ、全社員が“経営的視点”を持てるようになるのです。
今回は、企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していくに当たって、「企業の【存在意義】の正体とは何か」について触れていきます。
2 「創業200年以上の企業数」で世界ベスト3はどの国?
いきなりクイズです。「創業200年以上の企業数」で世界ベスト3はどの国でしょうか? 以下の表を見ながら考えてみてください。もちろんすでに表に出ている国は違いますよ。
表の右下から遡ると、10位まで2桁が続きます。9位のスイスで3桁になり、4位の英国と次の3位までは徐々に増えていますね。ところが2位はいきなり3位の約5倍、そして1位はさらに2倍とダントツの1位なのが分かります。さあ、予想してみてください。答えは↓の下に…
↓
↓
↓
答えは、3位 フランス、2位 ドイツ、1位 日本 でした。いくつ正解できましたか? 周囲を海に囲まれた島国ゆえに国自体が守られてきた歴史はありながらも(英国もそうです)、日本はダントツ世界一の“老舗大国”なのです(*)。
日本、いえ世界最古の企業として知られるのは578年の飛鳥時代に創業した株式会社金剛組。聖徳太子が百済から招聘した宮大工によって始まった社寺を専門に建築する会社です。数々の苦難も乗り越えて今日まで1400年以上、2006年には髙松コンストラクショングループの傘下に入って存続しています。
「創業200年以上の企業数」からさらに絞って「創業250年以上」とすると、対象企業の3分の2が日本企業となるそうです。逆に少し緩めて「創業100年以上」とすると、日本に2万社以上も存在するそうです。(3万7000社以上との調査もあります)
47都道府県、つまりは約50で割ると400社、東京や京都などは多いとしても皆さんの住む都道府県にもそれくらい存在するのです。私は講演会で会社が「創業100年以上」の方いますかと挙手いただくのですが、毎回1割前後いらっしゃってとても身近な存在なのだと感じます。
100年でも十分に長い年月です。その間には少なくとも数人の経営者がバトンを引き継いでいます。経営者に近い立場を経験された方ならお分かりでしょうが、経営にとって危機と呼べる状況は10年に一度くらい訪れます。そしてその数回に一度は存続を左右するような致命的な危機なのです。
それでも時の経営者を中心に、全社が力を合わせて死に物狂いで乗り越えてきたからこそ、100年、200年企業の今があります。
さて、日本に長寿企業が多いとお話しすると、「日本企業は存続ばかりを優先させているから生産性が低いのだ」「利益を拡大させられない会社や事業は、生かしてくれる会社に早く売った方がいい」といった声が聞こえてきそうです。
3 「100年企業」は、顧客や社会から【存在意義】を認められたから永続した
老舗企業の中には存続を最優先にしてきた企業もあるでしょうが、それで100年、200年と会社を維持できるほど経営は簡単ではありません。ではなぜ日本にそれを可能にした企業が多いのでしょうか。
「創業100年以上」の企業を調べてみると8割近く(77.6%)に「家訓・社是・社訓」が存在し、多くの企業がそれを大切に守ってきていたのだと分かったそうです(**)。
「家訓・社是・社訓」を整理・分類してみると、共通するいくつかのキーワードが見えてきたそうです。それはカ=感謝、キ=勤勉、ク=工夫、ケ=倹約、コ=貢献の5つ。企業によってこの中のどれか、あるいはいくつか、また優先順位は異なっています。もちろんこれら以外のキーワードも含めて、老舗各社の経営者と従業員、後継者が商売において何を大切に守ってきたかが分かります。
お客様や取引先、地域や社会は、各社と長年付き合う中で、各社が大切にしている価値観を信じて互いに支え合ってきたのでしょう。そこには各社が「私たちはどんな存在でありたいか」を明確にし、関係者(ステイクホルダー)に対して大切に守ってきた【存在意義】があったのです。
存続は目的ではなく、【存在意義】を追求してきた“結果”であったと言えるのではないでしょうか。
「企業は誰のものか?」の質問への答えは、米国に代表される資本主義の本流では、まがうかたなく「株主」とされてきました。経済学の教科書にもそう書いてあります。
先ほど触れた「利益を拡大させられない会社や事業は、生かしてくれる会社に早く売った方がいい」との声は、企業の持ち主である株主に対しては実に誠実な答えです。私もM&Aは選択肢の一つに入れておくべきと考えますし、それによって顧客や社会にとっての【存在意義】が失われないのであればよい選択だとさえ思います。
忘れてはいけないのは、企業も人もその【存在意義】を認めるのは自身ではなく、関わっている周囲の人たちであること。お客様が継続的に購入して利益をもたらしてくれて、地域や社会からも積極的に受け入れられてこそ、企業として存在し続けられるのです。
4 各社がその【存在意義】を追求していけば、日本も世界もよくなっていく
SDGsやESGといった言葉が世界的に受け入れられるようになって、ビジネスの流れが変わってきました。
ご存じのようにSDGsとは2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの「持続可能な開発目標」、ESGは「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)」の頭文字です。企業にはESGの3つや、SDGsの健康・教育・女性活躍・平等・地球環境といった17の目標を意識しながら、“持続的であること”が強く求められています。
米国の株主資本主義にも変化が表れました。
2018年、世界最大の資産運用会社といわれる米ブラックロック社のCEOが年次書簡で「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません」と述べました。
2019年には米国主要企業の経営者をメンバーとする団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、「企業は顧客への価値の提供、従業員の能力開発への取り組み、サプライヤーとの公平で倫理的な関係の構築、地域社会への貢献、そして最後に株主に対する長期的利益の提供を行う」と発表しました。株主への配慮が“最後に”置かれています。
時を前後して、企業の【存在意義】を問う「パーパス経営」という言葉が知られ、大手企業を中心に新たにパーパスを定める機運が生まれています。
企業としての【存在意義】を問い、何代にも渡って守りながら“存在”し続けてきた日本の老舗企業からすれば、今さら感は否めません。たとえば元々は株主資本主義の企業から投資をしてもらうにしても、急激なかじ取りの変更に対して、どこまで信じてよいのやらといぶかりたくもなります。
一方で日本の老舗企業は、出資者である株主あっての企業である事実を忘れてはいけません。【存在意義】を大切にしながらも、もっと生産性を上げ、もっと利益を上げるべく心血を注ぐべきでしょう。もっと利益が上がれば、従業員や経営者、地域や社会にも還元できます。ひいては日本経済、世界経済にも貢献できます。
株主のため、とはいえ日本の99%は中小企業で、その多くは経営者=株主のケースが多いでしょう。経営者と株主のダブルで利益をむさぼるよりも、従業員、顧客、取引先、地域や社会などそれ以外の関係者(ステークホルダー)に利益を分配した方が、会社は永続できることでしょう。
以上今回は、“経営的視点”を身に付けていくのに当たって、「企業の【存在意義】の正体とは何か」について解説してみました。
第9回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も引き続き「3)会社の【存在意義】」についてお話しします。
【参考文献】
(*)「三代、100年潰れない会社のルール : 超長寿の秘訣はファミリービジネス」(後藤俊夫(著)、プレジデント社、2009年7月)
(**)「百年続く企業の条件 : 老舗は変化を恐れない」(帝国データバンク史料館・産業調査部(編)、朝日新聞出版、2009年9月)
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以上(2023年3月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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