書いてあること

  • 主な読者:再雇用制度を採用している会社の経営者
  • 課題:再雇用後の高齢社員が、定年前との働き方のギャップでやる気を失ってしまう
  • 解決策:会社が高齢社員に期待する役割を明確に伝え、人事考課に落とし込む

1 なぜ、再雇用した高齢社員がやる気を失ってしまうのか?

日本人の健康寿命は、2019年時点で男性が72.68歳、女性が75.38歳といわれます。2022年時点で、日本の会社の72.3%は「60歳」を定年に設定していますが、この数値だけを見ると、多くの高齢社員は、定年後も健康に働ける状態にあるといえます(厚生労働省「令和4年厚生労働白書」「令和4年就労条件総合調査」)。

一方、肉体的には健康でありながら、会社から求められる働き方と自身の希望との折り合いがつかず、やる気を失ってしまう高齢社員が少なくありません。日本の会社の多くは、定年後も高齢社員を雇用する場合、

再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)

により、「嘱託」などの非正規社員として雇い直しますが、一部の会社では次のような理由から、高齢社員が仕事にやりがいを感じられないという問題が発生しています。

  • 契約が1年単位など有期契約になるのが一般的で、それゆえ重要な仕事を任せにくい
  • 社会・労働保険の給付があるからと、賃金を引き下げることが当たり前になっている
  • 再雇用に伴い、高齢社員のかつての部下が上司になり、関係がギクシャクしてしまう

きちんと戦力として活躍できるはずの高齢社員がやる気を失ってしまうのは、もったいないことです。そこで、この記事では「人事考課」の観点から、高齢社員にやる気を持って仕事をしてもらうためのポイントを3つ紹介します。

  • 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める
  • 期待する役割などに応じて人事考課表を作る
  • 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

2 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める

高齢社員の雇用形態が正社員から非正規社員になると、会社の労務管理の方針も本人に期待する役割も、定年前とは変わってきます。

もちろん、高齢社員も自分のポジションが定年前と違うことはある程度分かっていますが、会社の方針や期待を100%理解しているわけではないので、何の説明もないと、労使間で図表1のような認識のギャップが生じ、やる気を失ってしまいます。

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こうしたギャップを埋めるには、まず高齢社員を再雇用するタイミングで、

会社が期待する役割、賃金の支給額の根拠、再雇用後の指揮系統などについて説明

をする必要があります。例えば、期待する役割であれば、「定年前と同じ業務を担当してもらうけど、ベテランとしての経験を活かし、若手に仕事のノウハウを継承していってほしい」といった具合に、会社側の要望を明確に伝えます。

一方、高齢社員の希望する働き方についてもヒアリングし、場合によっては働き方の見直しを検討します。例えば、高齢社員が「定年前と同じように、バリバリ働きたい」と希望していて、それに見合った実力が今でも発揮できるなら、後進の指導を他の人に任せて、定年前と同じように働いてもらうという選択もあり得るかもしれません。

3 期待する役割などに応じて人事考課表を作る

高齢社員の人事考課を行う際、「正社員と同じ人事考課表を使っている」という会社は少なくないかもしれません。ですが、定年前後で会社の期待する役割などが変わってくるのであれば、人事考課表もそれに応じたものを用意しないと、評価がちぐはぐになってしまいます。

例えば、後進の指導という役割に重きを置く場合、図表2のように「指導・動機づけ」「統率・監督」などの項目で、その働きを評価できる人事考課表にしておきます。また、「成果」の項目などは、定年後にノルマなどの責任がなくなる場合、必要に応じて削除あるいは修正します。

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逆に、定年前と同じように働く高齢社員の場合であれば、正社員と同じ人事考課表を用いても差し支えないでしょう。

4 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

再雇用制度では、再雇用後に1年ごとなどの一定周期で契約を更新するのが一般的です。更新については、本人の体調や意欲などを考慮しつつ判断しますが、人事考課の結果も重要な要素です。高齢社員もこのことを分かっているので、自身の評価にはかなり敏感になります。

そういった意味で、高齢社員の人事考課は、

決して甘くは付けないが、ある程度の納得感を与えられるものである

必要があります。例えば、年下の上司が考課者になると、考課結果によっては、高齢社員が「自分よりも経験が浅いくせに、何を言っているんだ!」と反抗してくるかもしれません。もちろん、上司が安易に考課結果を覆すのはNGですので、評価に納得感を持たせたいのであれば、

一次考課者は年下の上司にしつつも、二次考課者については経営者など、高齢社員が話を受け入れやすい人物を配置する

などの形で対応するとよいでしょう。

また、第2章の図表1で紹介したような、期待する役割などについての認識のギャップが労使間で解消できていないために、人事考課が納得のいくものになっていないケースもあります。これは改善する必要がありますので、図表3の「評価フォローシート」などを使って、高齢社員本人に、人事考課にどの程度納得できているかをコメントしてもらうとよいでしょう。

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以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pixabay

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