書いてあること

  • 主な読者:副業する社員の【社会保険】のルールについて知りたい経営者
  • 課題:自社と副業先のどちらで社会保険に加入し、保険料は誰が負担するのか?
  • 解決策:要件を満たせば複数の会社で加入。社会保険料は報酬などに基づいて案分される

1 副業社員の社会保険はどうなる?

副業社員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)のルールは複雑です。例えば、自社と副業先のどちらで加入するのか、保険料負担はどうなるのかなどが気になります。あるいは、副業社員が私傷病で休業する場合、傷病手当金(健康保険)の申請手続きも気になるところです。

この記事では、副業特有の社会保険のルールを取り上げます。ポイントは、次の4点です。

  • 社会保険は複数の会社で加入するケースがある
  • 社会保険料は自社と副業先の報酬に応じて案分される
  • 賞与保険料も賞与の支給月が同じであれば案分される
  • 傷病手当金の申請には自社と副業先の両方が携わる

なお、この記事では、健康保険の保険者は自社・副業先ともに全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)とし、社会保険料を計算する場合、2022年度の保険料額表(東京都)を使用します。

2 社会保険は複数の会社で加入するケースがある

日雇いなどの例外を除き、次の3つのいずれかに該当する社員は、必ず社会保険に加入します。

  • 正社員(常用雇用労働者)
  • 週の所定労働時間と月の所定労働日数の両方が、正社員の4分の3以上のパートなど
  • 2.に該当しないが、週の所定労働時間が20時間以上、賃金の月額が8万8000円以上、学生でないなど所定の要件を満たすパートなど(特定適用事業所に勤務している場合)

また、法人に使用され報酬を受ける役員も、社会保険に加入することになります。

社員や役員(以下「社員等」)が自社と副業先それぞれで加入要件を満たす場合、

社員等は複数の会社で社会保険に加入

します。自社で社会保険に加入している社員等が、さらに副業先で社会保険に加入する場合、副業先は社員等が加入要件に該当してから5日以内に、被保険者資格の取得手続きを行います。

また、社員等本人は、資格取得から10日以内に、複数の会社の中から「主たる事業所」を1社選択し、選択した会社の所轄年金事務所に届け出ます。この際、全ての会社の健康保険被保険者証を被扶養者分も含めて返却します。

その後、

新しい健康保険被保険者証(「主たる事業所」として選択した会社の名称が記載され、被保険者番号が変更されたもの)が発行され、選択した会社に送付

されます。

3 社会保険料は自社と副業先の報酬に応じて案分される

社員等が自社と副業先の両方で社会保険の被保険者になると、

自社と副業先の報酬の合計を基に「標準報酬月額」が決定され、報酬の額に応じて案分された保険料を、それぞれの会社が支払う

ことになります。標準報酬月額とは、報酬を一定の金額幅で等級別に区分したものです。

図表1は自社が月額22万円、副業先が月額10万円の報酬を支払う場合の標準報酬月額のイメージです。

画像1

協会けんぽの2022年度の保険料額表(東京都)により、標準報酬月額は32万円になります。健康保険料率は9.81%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率は18.3%なので、自社と副業先の保険料負担は、各社の報酬(月額)に応じて次のように案分されます。

  • 自社の保険料負担(社員等の自己負担分を除く)
    健康保険料:(32万×9.81%×1/2)×22万/32万=10791円
    厚生年金保険料:(32万×18.3%×1/2)×22万/32万=2万130円
  • 副業先の保険料負担(社員等の自己負担分を除く)
    健康保険料:(32万×9.81%×1/2)×10万/32万=4905円
    厚生年金保険料:(32万×18.3%×1/2)×10万/32万=9万150円

標準報酬月額が決定・変更されるのは、主に次の3つのタイミングです。

  • 資格取得時決定:被保険者資格を取得したとき(雇用開始など)
  • 定時決定:4月から6月までの報酬月額に基づいて毎年9月から適用
  • 随時改定:被保険者の報酬に大幅な変更があったとき(昇給・降給など)

例えば、社員等が副業先で昇給した場合(随時改定の場合)、副業先が報酬月額の変更手続きを行います。その後、自社と副業先に新しい標準報酬月額が通知されるので、その内容に基づいて保険料を納付します。資格取得時決定と定時決定の場合も、大まかな流れは同じです。

また、社員等が副業先を退職するなどして、その社会保険の被保険者でなくなった場合、副業先がそこから5日以内に資格喪失の手続きを行います。この場合も、新しい標準報酬月額が自社に送付されるので、その内容に基づいて保険料を納付します。

4 賞与保険料も賞与の支給月が同じであれば案分される

自社と副業先が社員等に賞与(役員賞与を含む)を支払う場合、

支給月が同月であれば、自社と副業先の賞与額の合計を基に「標準賞与額」が決定され、賞与額の金額に応じて案分された保険料を、それぞれの会社が支払う

ことになります。標準賞与額とは、賞与総額から1000円未満を切り捨てた金額です。

図表2は自社が26万円、副業先が12万円の賞与を支給する場合の標準賞与額のイメージです。

画像2

標準賞与額は38万円になります。第3章の図表1のケースと同じく、健康保険料率は9.81%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率は18.3%なので、自社と副業先の保険料負担は、各社の賞与額に応じて次のように案分されます。

  • 自社の保険料負担(社員等の自己負担分を除く)
    健康保険料:(38万×9.81%×1/2)×26万/38万=1万2753円
    厚生年金保険料:(38万×18.3%×1/2)×26万/38万=2万3790円
  • 副業先の保険料負担(社員等の自己負担分を除く)
    健康保険料:(38万×9.81%×1/2)×12万/38万=5886円
    厚生年金保険料:(38万×18.3%×1/2)×12万/38万=1万980円

実務では、自社と副業先がそれぞれの賞与の支給状況を、賞与支給日から5日以内に、第2章で紹介した本業先の所轄年金事務所に届け出ます。その後、自社と副業先に標準賞与額が通知されるので、その内容に基づいて保険料を納付します。

なお、自社と副業先で賞与の支払月が異なる場合、標準賞与額は合算されず、その月に賞与を支給した会社にのみ保険料が請求されます。

5 傷病手当金の申請には自社と副業先の両方が携わる

傷病手当金とは、

社員等が私傷病による療養で働くことができず、休業が連続3日以上となった場合、4日目以降から支給される健康保険の給付

です。1日当たりの支給額は、原則として

支給開始日以前直近12カ月間における各月の標準報酬月額の平均÷30×2/3

で計算されます。社員等が自社と副業先の両方で被保険者になる場合、標準報酬月額は第3章で紹介した通り、自社と副業先の報酬の合計を基に決定されます。

傷病手当金は、所定の申請書に必要事項を記入して、協会けんぽに提出することで支給されます。申請書は4枚つづりで、

1枚目:被保険者情報や傷病手当金の振込先(社員等本人が記入)
2枚目:傷病の状況や休業中の報酬の有無(社員等本人が記入)
3枚目:勤務状況や報酬の支払い状況などの証明(会社が記入)
4枚目:療養担当者の意見(主治医などが記入)

という構成になっています。ただし、社員等が副業している場合、

3枚目については、自社と副業先が1枚ずつ記入する必要がある

ので、注意してください(つまり、申請書は計5枚必要)。実務上、社員等本人が自社と副業先からそれぞれ3枚目を受け取り、5枚まとめて協会けんぽに提出することになるでしょう。この場合、申請書の提出先は第2章で紹介した「主たる事業所」を管轄する協会けんぽの都道府県支部になります。

以上(2022年3月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:pixabay

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