今年7月、従業員が制服に着替える時間などに賃金を支払っていなかったとして、カフェを運営する大手飲食チェーンが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがニュースで報じられました。本稿では、そもそもの前提となる労働時間の考え方について厚生労働省のガイドラインをもとに概説すると共に、本題に関するリーディングケースをご紹介します。

1 労働時間の考え方

平成29年に「労働時間の適正な把握のための使用者向けのガイドライン」が厚生労働省により策定されました。同ガイドラインによれば労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと」をいい、次の考え方が示されています。

<労働時間の考え方>

労働時間の考え方

(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)

冒頭の事案では、更衣室での制服への着替えや店舗への移動などの時間が、労働時間にあたると労働基準監督署は認定し、相当する過去2年分の未払い賃金を支払うよう、運営会社に是正勧告が出されたと報じられています。

2 リーディングケース

厚生労働省による「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、三菱重工業長崎造船所事件(平成12年3月9日、最高裁第一小法廷判決)で示された判断基準をもとに策定されています。

この事件では、従業員の始業・終業について、①所定の始業時刻に作業場で実作業を開始できるようにしておくこと、②始業時刻に間に合うように作業服などを装着し、作業場に到着すること、③終業時刻に作業場にいることなどで管理を行っており、所定労働時間以外に行った時間について、割増賃金を求めた訴訟が提起されました。そして最高裁は、労働基準法の労働時間について、次の通り判断しています。

<判断理由 抜粋>

最高一小、平12.3.9判決

三菱重工業長崎造船所事件(最高一小、平12.3.9判決)

3 さいごに

本稿で挙げた着替えなどの準備時間のほか、仮眠時間や待機時間といった実作業を行っていない時間も、指揮命令下にあれば「労働時間」と認定される可能性があります。

労働時間に関する認識を正しく理解し、終業後は速やかに退社させる、許可なく残業をする従業員には残業禁止命令を発するなどの管理ができているか、今一度会社の現状を確認してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2022年7月29日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

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