書いてあること
- 主な読者:副業する社員の【労働時間管理】のルールについて知りたい経営者
- 課題:できれば副業社員の残業代は負担したくない
- 解決策:原則として、残業代は労働契約の締結が遅いほうで発生する
1 副業社員の労働時間はどう管理する?
働き方改革が進み、いよいよ中小企業でも社員の「副業」を認めるケースが増えてきています。本業がおろそかになる、副業先に社員を引き抜かれてしまうなどといったネガティブなイメージよりも、人手不足の解消や社員のスキルアップなど前向きな捉え方が浸透しつつあるのです。
一方、副業には通常と異なる労務管理のルールがあるので、この記事では基本となる労働時間管理を取り上げます。ポイントは次の3点です。
- 自社と副業先での労働時間は通算される
- 残業代の支払い義務は「労働契約の締結時期」で判断する
- 副業先での実労働時間は必ずしも把握しなくてもよい
なお、副業特有の労務管理のルールについて詳しく知りたい場合、次のURLの厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)も併せてご確認ください。
■厚生労働省「副業・兼業」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
2 自社と副業先で労働時間を通算
労働基準法(以下「労基法」)では、事業場(就業場所)が異なる場合、その労働時間を通算して規定を適用します。例えば、
自社で8時間、副業先で4時間働いたら、12時間(8時間+4時間)働いた
ことになります。このルールが適用されるのは「労基法上、労働時間規制が適用される社員」なので、次に該当する場合は通算されません。
- 労基法が適用されないケース:フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事など
- 労基法は適用されるが労働時間制度が適用されない場合:農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度の対象者など
3 残業代の負担は「労働契約の締結時期」で判断
労働時間を通算する場合、気になるのは、
自社と副業先のどちらが残業代を支払うのか
ですが、これは労働契約の締結時期で判断します。簡単に言うと、
自社が副業先よりも早く社員と労働契約を締結していれば、副業先で時間外労働が発生する(逆の場合は、自社で時間外労働が発生する)
ことになります。
図表1は、1日の所定労働時間(就業規則に定める労働時間)が8時間の社員が、新たに副業先と1日の所定労働時間が4時間の労働契約を締結したイメージです。
このように言うと、自社のほうが先に社員を雇っている限り、自社では時間外労働が発生しないように思うかもしれませんが、例外があります。それは、
自社と副業先の所定労働時間を通算した時間が、法定労働時間に達することを知りながら労働時間を延長した場合、自社で時間外労働が発生する
というものです。
図表2は自社と副業先の所定労働時間が共に1日4時間の社員が、自社で5時間、副業先で5時間働いた場合のイメージです。
自社と副業先の所定労働時間は通算8時間(4時間+4時間)で、すでに法定労働時間(原則として、1日8時間、週40時間)に達しています。そのことを知っていて、社員の労働時間を延長した場合、自社で1時間(5時間-4時間)、副業先で1時間(5時間-4時間)の時間外労働が発生します。
4 副業先での実労働時間は必ずしも把握しなくてよい
最後に、「自社(副業先)は、副業先(自社)での実労働時間を把握する必要はあるのか」を説明します。結論から言うと、過重労働や残業代の未払いを防ぐため、本来は自社も副業先も互いの実労働時間を把握する必要があるとされています(方法は社員からの自己申告など)。とはいえ、これだと労務管理上の負担が大きいため、ガイドラインでは、
自社と副業先がそれぞれ時間外労働の上限を設定し、社員がその範囲内で働く場合、互いの実労働時間を把握しなくてもよいとされています。この運用方法を「管理モデル」
といいます。具体的には、
労働時間を通算した際に、時間外労働(休日労働を含む)が単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内となるよう、自社と副業先がそれぞれ時間外労働の上限を設定
します。なお、この単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内というのは、労基法で定められている時間外労働の上限です。
例えば、図表3は所定労働時間が共に1日4時間の自社と副業先が、1日単位・1カ月単位(20日稼働)でそれぞれ時間外労働の上限を設定する場合のイメージです。
社員の時間外労働の上限は1カ月単位で通算60時間(3時間×20日)です。社員がこの上限を守って6カ月間働く場合、時間外労働は通算で単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内に収まるので、自社と副業先は互いの実労働時間を把握しなくてもよいということです。
ただし、当然のことながら、それぞれの会社の時間外労働の上限については、事前に社員を通じて共有しておかないと、管理モデルが正しく機能しません。
なお、36協定(労基法第36条に基づく労使協定)の時間数については、通算されません。図表3の場合、自社は1カ月単位で40時間(2時間×20日)、副業先は1カ月単位で20時間(2時間×20日)という時間数が、それぞれの会社の36協定に違反しなければ問題ないということです。
以上(2022年3月)
(監修 弁護士 田島直明)
pj00460
画像:photo-ac