書いてあること
- 主な読者:「ほめる」のが苦手、「ほめ下手」なリーダー(経営者・部下を持つ上司)
- 課題:叱られた経験がほとんどない若手社員と良好な関係を築きたい
- 解決策:本連載を通じて「ほめる」ことができるリーダーになる。今回は、ほめることの本質は、「相手ではなく自分が変わることである」ことを知り、その上で効果的な「ほめ方」のポイントを解説
1 「ほめる」。その前に知っていただきたいこと
今回は、いよいよ「ほめる」ポイントについてお伝えしていきます。
「ほめる」とは、価値を発見して伝えること。ほめる達人とは、価値発見の達人でもあるのです。ですから、ほめる達人=「ほめ達」からすると、ほめるべき点がない人はいません。ほめられない=自分がほめるところを見つけられないだけ、ということになります。
その上で、皆さんに「ほめる」ことを実践する際に心しておいていただきたいことがあります。これからお伝えすることが、腹落ちしていないと、ほめ言葉が生臭く伝わります。逆に、このことをしっかり理解しておけば、どのようなほめ方をしても大丈夫です。
それは、
- 「ほめる」ことを、相手をコントロールすることには使わない
ということです。
皆さんご存知のように、人を変えることはできません。人は自ら気づき、変わることはあっても、人を変えることはできないのです。人には、影響を与えることしかできません。
では、「ほめる」ことによって、どんな良い結果が生まれるのか。それは、「ほめる」ことができると自分自身の心が整いだすのです。自分の心が整って、自分の心に余裕ができる。自分の心に余裕ができることによって、相手との関係性が変わりだすのです。「ほめる」は人の為ならず、回り回って我が身の幸せ。
「ほめる」ことは、自己完結なのです。「ほめる」ことで自分の心が整うことこそが、最大のメリットといえます。
2 効果的なほめ方
『「ほめる」ことを相手のコントロールには使わない』という点は理解していただけたと思います。とはいえ、それでも相手の心に届くほめ方のほうがいいですよね。
では、心に届く「ほめる」基本ポイントとは何なのか。これは「ほめる」と「おだてる」の違いでもあります。次に紹介する4つのポイントを押さえてください。
1.事実が入っている
- 例:「気持ちのいい挨拶だね!」
相手からすると、確かに自分は挨拶をしているので納得感があります。事実が入っているのが「ほめる」、事実が入っていないのがおべんちゃらです。
2.その事実の貢献を伝える
- 例:「気持ちのいい挨拶だね!」「なんだか朝から元気をもらえたよ!」
相手からすると、自分の挨拶が相手に貢献できたのだと実感できます。
3.第三者の声を使う
- 例:「部長も言ってたよ、〇〇さんの挨拶、いいよねって」
これはオプションです。相手からすると、「『部長も』ということは、本当に認められているのだな」と思います。
4.主観でほめ切る
- 例:相手
「いやいや、そんなことないですよ。普通の挨拶ですよ」 - あなた
「いや、少なくとも私は、〇〇さんの挨拶から元気もらっています。気持ちのいい挨拶だと思いますよ」
これは、もし相手が、ほめ言葉を受け止めようとしない時の最後のとどめです。ですから、主観でほめ切れないことは、言ってはいけない。心にもないことは、言ってはいけないということです。
3 さらに「ほめる」際の注意点
「ほめる」際の注意点として知っておいていただきたいことがあります。これは「ほめられない!」という理由をなくすポイントでもあります。
1.他者と比べない
「ほめる」ことの反対は、誰かと比べること。
優秀な人と比べたり、自分の過去と比べてしまうと、なかなか部下や後輩のことがほめられなくなります。比べるべきは、他人との比較ではなく、過去のその人です。半年前、1年前のその人の能力と比べてほんの少しでも、変化や成長があれば、そこに意識を向けて言葉にして伝えてあげる。誰かと比べ、水平にほめるのではなく、彼・彼女の過去の状態との変化を見つけて、時間軸の垂直で比べほめてあげる。これが大切です。
2.ほめ惜しみをしない
これまで数多くの失敗を重ねてきた。失敗10連発。今回、なぜか結果を出した、その時に「ほめる」、これが大切です。失敗10回に対して、成功が1回、マイナス10に対してプラスが1。差し引き、まだマイナス9だと思ってほめ惜しみをすると、次に「ほめる」チャンスは中々やってこないかもしれません。ほんの小さな結果でも、結果を出した時にほめ惜しみせずに「ほめる!」。これも重要です。
3.たまたまこそ、ほめる!
3つ目は、「ほめ惜しみをしない」と重なる部分もあるのですが、これを知って実践されると、皆さん、その効果に驚かれます。
いつも提出期限ギリギリに書類を提出する部下が、今回は早めに提出した。その時に何と言うかです。
ついつい、「おっ! 珍しいな、明日は雪でも降るんじゃないか」なんて言ってしまいませんか。
たまたま、きちんとしたことができた。たまたま、上手くいった。たまたまかもしれないけれども、結果が出た時に、「珍しいな」と言わずに、「さすが!」あるいは「意識できるようになってきたね!」とほめてあげる。これが大切なのです。たまたまをほめていると、不思議なぐらい、そのたまたまの頻度が上がっていきます。ぜひ、実践してみてください。
4 ほめ達の口癖「ほめ達3S」とは
ほめる達人が使っている口癖があります。これを使うと誰もがほめる達人になってしまうと言う口癖、それは、「ほめ達3S」です。
Sで始まる3つの言葉なのですが、おそらく皆さん、自然と使っている言葉だと思います。
それは、
- すごい!
- さすが!
- 素晴らしい!
これを口にするだけで、ほめる達人になってしまいます。皆さん、すごいです! お忙しい中、時間を作ってこの記事を読まれて、さらにここまで読み進められている、さすが! この記事をご購読されている読者の皆さん、その学びの姿勢が、本当に! 素晴らしいです!
と、私は心の底からそう思って、お伝えしているのですが、例えばこのように使うのです。
さらに相手へのインパクトを大きくするには、ささやくように、独り言のように言うと効果絶大になります。
また「ほめ達3S」ではないのですが、相手にアドバイスをしたい時に、相手が皆さんのアドバイスの続きを聞きたくて仕方がなくなるという言葉があります。子育てでも使える魔法の言葉です。
それは、「惜しい……」です。「惜しい……」と言われた方は、自分はもう8割は完成している。自分は認められている。完成に向けて、あともう少しであり、残り2割に向けてすぐに実践できる効果的なアドバイスが続くという安心感があるのです。本当は、「惜しい!」ではなくて、「残念!」な状態であっても、「惜しい!」で一つずつ直してもらう。人が一度に直せるのは一つずつなのですから。
5 人が大好きな言葉とは
人が大好きな言葉があります。その一つは、自分のものなのに、自分以外の人が最も使うもの。それは何でしょうか? 答えは自分の名前です。「君(きみ)」と呼ばれるより、「〇〇さん」と呼ばれたいものなのです。
ですから、会話の中に相手の名前を織り込みながら話してみてはいかがでしょうか。ちなみに皆さんは、部下の名前、全員、漢字フルネームで書くことができますか。名前の由来などはご存知でしょうか。相手の名前に関心を寄せるということは、相手の存在そのものに関心を寄せるということなのです。少し意識してみてはいかがでしょうか。
さらに、人が大好きな言葉で、普段私たちが無意識に使っている言葉があります。今後、皆さんにはぜひ、意識して使っていただきたい言葉です。これまでの連載でも触れてきましたが、それは、「ありがとう」です。
人は、ただ、ほめられたいのではないのです。自分が誰かの役に立っているということを知りたい! 感謝されたい! そういう気持ちが非常に強いのです。
ですから、単なる「ありがとう」ではなく、〇〇してくれて、ありがとう!と、事実+「ありがとう」。これが最高のほめ言葉です。
そして、「ありがとう」を言う機会を増やすヒントがあります。それは「ありがとう」の反対を考えること。「ありがとう」の反対は、「当たり前」です。
- 家族がいて、当たり前、自分の世話をしてくれて、当たり前。
- 仕事はあって、当たり前。
- お客様はいて、当たり前。
- 目標数字は達成されて、当たり前。
- 社員や部下は出社して、当たり前。
- 自分や家族は健康で、当たり前。
当たり前だと思った瞬間に感謝がなくなってしまうのです。当たり前の中に、価値を見つけ、言葉として届ける、これが「ほめる」ということなのです。人は、当たり前だと考えていたことが当たり前でなくなった時にしか、その価値を見つけられないもの。
今、当たり前だと思っていることに、気づき、言葉を届けてみませんか。
それこそが、究極のほめ言葉です。
以上(2020年4月)
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