1 人材採用における「自社の魅力」について
前回は、「マネーボール理論」をご紹介して、「戦わない人材採用」を実現するためには自社オリジナルの「人材要件」が必要なことについてお伝えしました。人材要件について考えてみていただけましたか?なかなか一人では難しいかも知れませんので、複数名で意見交換しながら作りあげていくことをお勧めします。
さて、採用について経営者さんとお話しさせていただく際に、「自社の魅力」についてお聞きすると、「うちにはそんな魅力はないよ」とお答えいただくことがあります。自社は、不人気業種であり若者に響く魅力が無い(少ない)と思われている方が、思った以上に多くいらっしゃいます。本当にそうでしょうか?今、働いている方は何かしらの魅力を感じて働かれているのではないでしょうか?
例えば、2024年問題の対象とされている建設業や運送業などは、一般的に「きつい」「危険」「低賃金」などのイメージから若者から敬遠される傾向があります。一方で、いずれの業種も社会インフラを支える重要な仕事であり、社会貢献度が高くやりがいのある仕事という側面もありますので、そのようなところに魅力を感じる若者も必ずいるはずです。
今回は、このような観点から「いかにして自社が欲しい人材に自社の魅力を届けるか」について掘り下げていきたいと思います。
2 「自社の魅力」の発見・整理
あらためて、「自社の魅力」とは何でしょうか?先ほどの経営者さんのように、パッとは思い浮かばない、という方もいらっしゃるでしょうし、ある程度はポンポンと思い浮かぶ方もいるかも知れません。思い付きでも良いので、できるだけ多く書き出してみてください。ある程度書き出せたら、この「自社の魅力」整理表を参考にして整理してみましょう。
【「自社の魅力」整理表】
出所:インスワーク社会保険労務士法人監修
ただ、そんなにたくさんは書けないという方がほとんどではないででしょうか? 実はそれが普通であって、いきなり聞かれてもそう多くは思いつきません。なぜなら、この記事を読まれている方の多くはベテランの経営者さんやご担当者さんだと思いますので、現状が「当たり前」だと思っているからです。
例えば、マイカー通勤可能で駐車場が勤務場所と隣接しているような環境は、ご自身にとっては「当たり前」であっても、通勤に電車やバスなどの公共交通機関を使いストレスを感じている方からすると大きな魅力ということになるでしょうし、洗練された事務所スペースで自由な服装で働けるといったことも、そうでない環境で働いている方からすると憧れに近い魅力ということになります。
それでも、すべて自分で考えるというのは難しいと思いますので、ここは社員さんの力も借りてアンケートを取ってみてはいかがでしょうか?上記整理表をもとにしてアンケートを作成し、社員さんに回答をお願いしてみてください。新卒入社の社員さんであれば入社動機、転職されてきた社員さんについては前職との差が魅力発見のカギとなります。また、アンケートだけでは書ききれないこともあると思いますので、主だった社員さんには時間を取ってもらってヒアリングすることをお勧めします。多分、皆さんが思いもつかない魅力が発見できるはずです。
それらをまとめて整理表で整理できれば「自社の魅力」の発見・整理の完成です。
3 「自社の魅力」の効果的な届け方
「自社の魅力」の発見・整理ができたとして、たくさん魅力があったとしても求職者に届かなければ人材採用においては意味がありません。ハローワークや求人サイトの求人票、自社HPなどにおいて、自社の魅力を余すところなくしっかりと伝えていくことが重要です。
ただし、単に「何でもかんでも書けば良い」ということではなく、「いかに効果的に届けるか」という観点がより重要で、ここでのポイントは二つあります。一つ目は「具体的かつストーリーとして伝える」ということです。ストーリーとは、実在する社員さんに事実ベースで物語的に語っていただくことです。ストーリーは誰かにとっての「事実」であって唯一無二なので、優劣ではなくなります。「他社と比較してどちらが優れているか」ではなく、「比較は難しいが自分にはこちらの方が合っている」という基準で選んでいただくわけです。好き嫌いに近い感覚です。ここでも「戦わない人材採用」を意識しています。
具体的には、若手人材は就職(転職)先を決める際に「自己成長できるかどうか」という点を重視する傾向にあります。これに対し会社から求職者に向けて「当社では人材育成を重視し、成長できる環境を用意しています」と伝えるよりも、実在の社員さんのコメントとして「自分がいかにしてこの会社で成長できたか」を自社の魅力と合わせて語ってもらった方が、他社との比較にさらされることなく、より効果的に伝えることができます。
二つ目は、「相手を知る」ということです。これは前回の「人材要件」にもかかわってくるところですが、自社の人材要件で定めたターゲットに対し響く(刺さる)と考えられる自社の魅力を重点的にアピールする、ということです。
例えば、ターゲット人材を「未経験でも良いのでとにかく若い人材」とするのか、逆に「年齢層は高くても良いので即戦力として使える人材」とするのかによって、アピールする自社の魅力が変わってきます。以下のとおり、学生が就職先を決定する理由は「自らの成長が期待できる」や「福利厚生や手当が充実している」が最重要となっていますので、これらに対して応えられる「自社の魅力」に重点を置いてアピールします。
出所:株式会社リクルート 就職みらい研究所 就職プロセス調査(2024年卒)
一方で、年齢層が高くなるにつれて、「自己成長」や「処遇」という点よりも「社会貢献」や「やりがい」の方が重視される傾向にありますので、「年齢層は高くても即戦力」をターゲット人材とした場合は、そのような点について応えることができる「自社の魅力」を重点的にアピールしていくことが重要です。
こうすることによって、他社と「戦わない人材採用」を実現しつつ、自社の「人材要件」にマッチした求職者に「自社の魅力」を効果的に届けることが可能になるのです。
以上(2024年9月作成)
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画像:Paylessimages-Adobe Stock