1 「いつでもつながれる時代」だからこそ注意が必要!
2 会社:働き方のルールをきちんと作る!
3 上司:勤務時間外には原則連絡せず、する場合も配慮を!
4 部下:急ぎの連絡については、可能な限り協力を!
1 「いつでもつながれる時代」だからこそ注意が必要!
皆さんは「つながらない権利」という言葉をご存じですか?
プライベートの時間(勤務時間外)では、社員は会社からの仕事に関する連絡(電話・メール・チャットなど)への対応を断ることができるという権利
のことです。フランスで2016年に法制化されたのをきっかけに、他のヨーロッパ諸国でもこのつながらない権利が広がっています。国によっては、勤務時間外の連絡そのものを禁止していて、違反すると会社に罰金が科される場合もあるほどです。
日本では法制化には至っていませんが、
テレワークなどで働き方が自由になった一方、仕事とプライベートの境界があいまいになり、社員が「常に仕事につながれた状態」になりやすい環境
ができています。そんな中で、つながらない権利をめぐって上司と部下が対立することもしばしば。両者の主張はこんなカンジでしょう。
(上司)プライベートといっても、業務上どうしても連絡しないといけないときだってあるだろう! そっちは勤務時間外でもこっちは仕事しているんだ! 少しは融通を利かせてくれないと困る!
(部下)勤務時間外なんだから、業務から解放されるのが当たり前! こっちは休みたいし、趣味だって楽しみたいのに、当然のように連絡しないでほしい! 勤務時間中は真面目に働いているんだからいいでしょ!
つながらない権利は、基本的には部下寄りの考え方に立ちますが、会社からすると上司の主張も一理あるかもしれません。どちらの主張も汲んだ「バランスの取れたつながらない権利」を実現するにはどうすればいいのか、そのためには「会社」「上司」「部下」それぞれが以降で紹介するポイントを押さえることが大切です。
2 会社:働き方のルールをきちんと作る!
1)「原則、勤務時間外には連絡しない。ただし、急ぎの案件などは別」が基本
まずは、会社が働き方のルールをきちんと作りましょう。就業規則等に、つながらない権利の規定を設けている会社は少数派かもしれませんが、例えば日本労働組合総連合会(以下「連合」)が次のような規定例を紹介しています。
【規定例】
第〇条(つながらない権利(勤務時間外の連絡))
1 会社は勤務時間外の従業員に対し、緊急性が高い場合を除き、電話、メール、その他の方法で連絡等を行わない。
2 従業員は、勤務時間外の別の従業員に対し、電話、メール、その他の方法で連絡をしてはならない。ただし、緊急性の高いものはこの限りではない。
3 勤務時間外の従業員は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡について、応対する必要はない。
4 会社は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡に応対しなかった従業員に対して、人事評価等において不利益な取扱いをしない。
(出所:連合「【重点分野-2】テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」)
ざっくりポイントをまとめると、
会社は原則として、勤務時間外には社員に連絡しないが、急ぎの案件などでは連絡することがある。ただし、社員が応対しなくても、人事評価等で不利益な取扱いはしない
です。
2)連絡手段についてはもう少し細かいルールを
連絡手段については、必要に応じてもう少し細かいルールを決めておくのもよいでしょう。例えば、
- 普段、業務で使用するチャットツールについては、勤務時間外では通知をオフにすることを推奨し、社員が安心してプライベートを過ごせるよう配慮する
- その上で、どうしても急ぎ連絡を取らなければならない場合は、あらかじめ「急ぎの連絡手段(携帯電話への連絡など)」を決めておき、そちらに連絡する
といった具合に、連絡手段を使い分けるようにすると、メリハリが付けやすいかもしれません。あるいは、チャットツールなどについて、深夜・早朝・休日などの時間帯にはアクセス制限をかける仕組みを整えると、上司が部下に悪気なく連絡してしまうのを防ぐことができます。
3)社外への伝達も忘れずに!
社員のプライベートを守るためには、取引先などに自社の営業時間をきちんと伝えておきましょう。例えば、自社のウェブサイトや問い合わせフォームに
「弊社の営業時間は平日9時~18時です。土日祝日は休業日のため、お問い合わせには翌営業日に対応いたします」
といった表記をすることが考えられます。
この他、システム面を工夫して、休暇中の社員への電話を会社に転送したり、時間外に届いたメールを自動削除して再送を求めたりする機能を導入している会社もあります。こうした機能がある場合は、あらかじめ取引先などに説明し、理解を得るようにしましょう。
3 上司:勤務時間外には原則連絡せず、する場合も配慮を!
1)「原則、勤務時間外には連絡しない」というのが鉄則
上司の中には、「自分が若い頃は、夜中や休日に上司から連絡を受けても対応していた」という人がいるかもしれませんが、今の時代、それは通用しません。本来、プライベートの時間は体を休めたり、趣味を楽しんだりするためのものであり、上司から連絡が来るのが当たり前になると、部下は安心して休むことができません。厳しいようですが、
「原則、勤務時間外には連絡しない」というのが鉄則。しなければならないのだとしたら、それは自身のマネジメントに問題がある
ぐらいに思っておいたほうがいいでしょう。
2)「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有する
とはいえ、1)のように教科書通りにもいかないのがビジネスなので、どうしても部下に連絡をしなければならない場合に備え、「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有しておきましょう。
- 基本は「部下にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
- 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない
です。休日などに、「翌営業日の対応で間に合うが、忘れないうちに部下に連絡しておきたいので……」とチャットだけを送る上司もいるでしょうが、
上司が即日返信を求めていなくても、部下のほうはいざ連絡を受けると、「自分も早く返信しなければ」と圧を感じることがある
ので、避けたほうが無難です。
また、連絡する場合は次のポイントを意識すると、部下も対応しやすいでしょう。
- 要点を簡潔に伝える
- 急ぎかどうかを明確にする
- 深夜や早朝など、対応が難しい時間帯は避ける
3)稼働した時間の労働時間管理はしっかりと!
勤務時間外に部下に何らかの作業を依頼する場合、部下が稼働した時間は労働時間になります。当然、稼働した時間分の賃金は必要ですし、状況によっては時間外・休日労働の割増賃金も支払わなければなりませんから、労働時間管理はしっかり行いましょう。
4 部下:急ぎの連絡については、可能な限り協力を!
1)正当な業務命令であれば、基本的には従う
部下にとっては「勤務時間外はなるべく会社から連絡を受けたくない」ものですし、ここまでお話しした通り、つながらない権利は最大限尊重されるべきものでしょう。
一方、ほとんどの会社は就業規則等で「36協定に基づき、社員に時間外・休日労働を命じることがある」などの規定を設けています。
部下のほうも正当な業務命令であれば、基本的にはそれに従う義務がある
ので、その点は認識しておきましょう。とはいえ、休日などに急に連絡を受けて即座に対応するのが難しいケースもあるので、その場合は上司に
「今すぐは無理ですが、○時以降なら対応できます」
などと返事して、落としどころを探りましょう。
2)上司のつながらない権利にも配慮を!
また、ここまでは「上司が勤務中」「部下が勤務時間外」という前提で話をしてきましたが、逆のパターンで「部下が勤務中」「上司が勤務時間外」というケースもあります。その場合は当然、部下のほうも上司のつながらない権利に配慮をする必要があります。第3章で紹介した通り、
- 基本は「上司にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
- 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない
です(上司から「今日は先に挙がるけど、○時に業務の報告をしてほしい」などと頼まれた場合は別です)。
以上(2025年4月作成)
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画像:ChatGPT