書いてあること

  • 主な読者:取引先から「ハラスメント」を指摘された場合の対応を知りたい人
  • 課題:社内のハラスメントは対策していたが、社外については対応が漏れていた
  • 解決策:社内のハラスメントと基本は同じ。ただし、取引先との丁寧な連携を忘れない

1 対策が漏れがちな取引先へのハラスメント

ハラスメントは社内だけの問題ではないし、こちらが被害者になるとも限りません。例えば、自社の社員が取引先の社員などにハラスメントをしてしまったら、その相手との取引が停止する恐れがあることはもちろん、噂が広がることで、業界内での会社の信用も地に落ちます。

にもかかわらず、多くの会社では、社外のハラスメントへの対策が漏れがちです。そこで、この記事では、社外のハラスメントへの対応について紹介します。基本は社内の場合と同じですが、社外の場合、

取引先と丁寧に連携を取りながら対応を進める必要

があります。例えば、取引先の社員を事情聴取する場合、必ず取引先の担当部署の承諾を得なければなりません。基本的な対応の流れは次の通りです。

  1. 事実確認:ハラスメントの事実があったか否かを確認する
  2. 取引先へのフォロー:事実があった場合、謝罪など必要なフォローをする
  3. 行為者に対する措置:必要に応じて配置転換や懲戒処分などの措置を講じる
  4. 再発防止に向けた措置:ハラスメント研修などの再発防止措置を講じる

また、法令上、セクハラ(セクシュアルハラスメント)については、自社の社員が取引先の社員に対してハラスメントを行った疑いがあって、これについて取引先から事実確認や再発防止などに関する必要な協力を求められた場合、これに応じる努力義務があります。

加えて、セクハラとパワハラ(パワーハラスメント)については、自社の社員と役員が取引先の社員に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施など必要な配慮をする努力義務があります。

2 事実確認

1)事情聴取

事実確認では、関係者(被害者・行為者・目撃者など)への事情聴取を行います。社外のハラスメントの場合、被害者と目撃者は基本的に社外の人間ですから、聴取を行うには取引先の担当部署の承諾が必要です。また、取引先の担当部署が立ち会いを希望する場合は応じます。

事情聴取の内容は、録音するのがベストですが、難しい場合は聴取の内容を書面(供述録取書)にまとめ、その内容を供述者に確認してもらい、内容に間違いがなければ署名をしてもらうことが大切です。そうすることで「言った、言わない」の問題を回避できます。

行為者の当時の言動(実際に何と言ったかなど)は、できるだけ具体的に聞き取ります。実際に体験した者でなければ語れない内容ほど、信用できるからです。

行為者に事情聴取をする場合、「言い訳は聞きたくない」などと対応せず、本人の言い分も十分に聴くことが大切です。弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがあるからです。

ハラスメントに関する事情を知っている行為者以外の社員が自社にいる場合、行為者や被害者が接触する前にできるだけ早く事情を聴取します。ただし、プライバシーにも配慮が必要(特にセクハラ事案)ですので、事情聴取のために必要な範囲を超えて、行為者や被害者の情報(ハラスメントの詳細な状況、行為者や被害者の性的嗜好など)を開示することは控えるべきです。

行為者の事情聴取の結果について、取引先が開示を求めてきた場合は応じます。これは、事実確認の他、被害者がメンタルヘルス不調になった場合の休職措置などにも利用されます。

2)客観的証拠の収集

メールやライン、録音、携帯電話の発着信履歴などの客観的な証拠(物証)を集めておくことは重要です。行為者や被害者の供述(人証)が信用できるか検討する上で、供述の内容と客観的な証拠が矛盾している場合、慎重な検討が必要になります。

客観的な証拠を集める際は、自社のサーバー内にある行為者のメールのデータは保存しておき、行為者にも当時の客観的な証拠があれば提出するよう求めます。また、取引先が客観的な証拠を持っている場合、開示してもらうよう依頼します。

証拠は事情聴取の前に収集するのが望ましいですが、事情聴取まで時間がない場合などは、事情聴取の後も(聴取内容を踏まえて)積極的に証拠の収集を続ける必要があります。

3)確認した事実関係の認定と評価

事情聴取が終わったら、「ハラスメントの事実があったか否か」を認定します。被害者と行為者の言い分が食い違ったり、客観的な証拠がなかったりして認定が難しい場合は、専門家(弁護士)に相談します。

事実関係の認定をしたら、認定した行為者の言動が、社内のハラスメントの基準などに照らして悪質なのか、それともそこまで悪質とは言えないのかを判断します。

3 取引先へのフォロー

悪質なハラスメントがあった場合、速やかに取引先に謝罪し、必要な措置を講じます。場合によっては訴訟などの法的な紛争に発展することもありますので、その準備も必要です。行為の内容が悪質とも適正とも言えない「グレーゾーン」のケースもあるでしょうが、その場合も謝罪はすべきでしょう。

また、行為者の処分についてですが、処分の内容や理由を取引先に伝える義務まではないと思われます。処分は自社の人事などに関することですし、関係者のプライバシー保護は加害者に対しても必要だからです。

なお、冒頭でもお話しした通り、セクハラについては、取引先から事実確認などについて必要な協力を求められた場合、これに応じる努力義務があります。当然ですが、協力を求められたことを理由に、取引先に対し契約解除などの不利益な取扱いをするのはNGです。

4 行為者に対する措置

悪質なハラスメントがあった場合、行為者に対する注意・指導、人事上の処分(配置転換など)、懲戒処分などを検討します。

グレーゾーンの行為の場合、懲戒処分は難しいかもしれませんが、注意・指導などの対応はすべきでしょう。そうしないと、グレーゾーンの行為者は「自分は正しい」と思い込み、同じような言動を繰り返す恐れがあります。ですから、「今回はハラスメントに当たらないと判断したけれど、次は違う判断になるかもしれないから、言動を改めたほうがいい」と伝えます。

なお、懲戒処分を行うためには、就業規則など社員の服務規律を定めた文書において、ハラスメントが懲戒事由に当たる旨の規定を整備しておく必要があります。

5 再発防止に向けた措置

社内だけでなく、取引先など社外の人に対するハラスメントもあってはならない旨を社内に周知します。ハラスメント防止規程や防止方針の該当条文をピックアップして説明したり、弁護士事務所などに依頼してハラスメントに関する研修を実施したりするとよいでしょう。

また、コンプライアンスに関するアンケートなどを実施し、「社外の人間への迷惑行為を見たことがあるか」「取引先から相談を受けたことがあるか」といった実態も調査するのもよいでしょう。

6 自社の社員がハラスメントを受けたら?

自社の社員が取引先からハラスメントを受けた場合の対応についても紹介します。自社の社員が取引先からハラスメントを受けたと相談してきた場合、基本的には、社内のハラスメント対応を参考にします。社内のハラスメントとの主な違いは、次の2点です。

  1. 社外の人間である行為者への事情聴取が難しい
  2. 自社が被害者の社員に対して安全配慮義務を負っている

1.については、ひとまずは相談者と目撃者に事情聴取を行い、違法な迷惑行為が確認できる場合、取引先に対応を求めるようにします。ただし、その後の取引の問題もあるので、取引先との連携は丁寧に行うようにします。

また、被害を訴える社員がメンタルヘルス不調で休職した場合は、その社員の申告が事実かを確認する必要があります。そのため、行為者の事情聴取の結果について、取引先に開示を求めることを検討します。

2.については、自社の社員が取引先からハラスメントを受けた場合、相談先や相談体制を定めてあらかじめ社員に周知しておくなど、ハラスメント被害に対応する体制を整備することが望ましいとされています(厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」)。

なお、裁判例では、小売業の接客時の顧客からの苦情対応に対して相談体制を整えていたことを理由の1つとして会社の安全配慮義務違反を否定したもの(東京地裁平成30年11月2日判決)や、教諭が保護者から理不尽な言動を受けたことについて、校長が教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことを不法行為と判断したものがあります(甲府地裁平成30年11月13日判決)。

7 社員がフリーランスにハラスメントをしてしまったら?

最後に、社員がフリーランスにハラスメントをしてしまった場合の対応について紹介します。 2024年11月1日から、フリーランスに対しても、社員と同様のハラスメント防止措置を講じることが義務化されるからです。

フリーランスは社外の人間ですが、個人であるため、ここまで紹介したような「取引先との連携」は基本的に必要ありません(仲介事業者がいる場合などを除く)。通常のハラスメント防止措置(下記1.から5.)を、フリーランスにも適用すれば大丈夫です。

  1. ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書(例:ハラスメント防止規程)に規定)の明確化、周知・啓発
  2. ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  3. 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
  4. 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  5. 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施

ただし、自社が実施するハラスメント防止措置の内容については、フリーランスと契約を締結する際に、書面などで明確に本人に伝えておくようにしましょう。例えば、

相談窓口の担当者・連絡先などを明らかにしていない場合、ハラスメント事案が発生した際、フリーランスが外部のユニオンなどに駆け込んで、問題が大きくなること

などが予想されます。フリーランスは社員のように、社内規程などをいつでも確認できるわけではないので、こうした伝達については、ある意味社員以上に慎重になる必要があります。

以上(2024年11月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:photo-ac

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