1 無邪気な“無茶ぶり”! ブンブン丸とは何者か?

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「今日のうちに資料作成お願いしたいです」

状況にもよりますが、こうした無茶ぶりともいえる依頼に心当たりはありませんか?

思いついたら即行動。フットワークは軽い反面、受け手の都合を考えていない? 無邪気にこうした無茶ぶりをしてくる取引先を、この記事ではビジネス界隈の【ブンブン丸】と呼びます。

ブンブン丸は無邪気に悪気なく動いているため、こちらも断りにくいのが実情です。結果として振り回されてしまうことが多く、対応に疲弊している人も多いのではないでしょうか。

ただし、視点を変えれば、ブンブン丸には「強い推進力がある」ともいえます。この力を建設的な方向に向けられれば、ビジネスを一緒に加速させていいけるかもしれません。

この記事では、ブンブン丸にどう対応したらいいか、ケーススタディでお伝えしていきます。

2 「ざっくり」な依頼には要注意

1)よくある状況の例

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「ざっくりとした内容の提案書をもらえますか? 細かいところはよしなに」

「ざっくり」と言われると気軽な感じでいいのかなと思いますが、実は要件が固まっていない状態で数字や形を求める、困った依頼の典型例です。

曖昧なまま見積もりやアウトプットを提示すると、手戻りが多くなって何度もやり取りすることになったり、後で大幅な修正や追加費用が発生したりしかねません。

2)対応法は、「ざっくり」を「しっかり」に変える

「ざっくり」の正体は、“目的・前提・期待値”が言語化されていない状態。言語化、共有していくことが重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.ゴール、アウトプットのイメージを一緒に描く

「目的に応じて、必要なアウトプットが変わります。お手数ですが、何に使う見積もり(資料)かだけでも教えていただけますか?」

2.精度とスピードのバランスを示す

「急ぎであれば、まず1パターンだけを簡易的にお出しして、後ほどブラッシュアップすることもできます」

3.【3パターン見積もり】には前提条件と幅を明示

「現時点では要件が見えないところが多いので、お見積もりが難しいところがあります。30分ほどでいいですので、詳細をヒアリングさせてもらえませんか?」

4.粗い依頼をできるだけ明確にするテンプレートを用意

「ご要望のイメージをお伺いするための簡易入力シートをご用意しています。ご記入いただければ、内容を整理してご提案可能です」

対応のポイント

ざっくりした依頼にそのまま乗らず、「一緒に整える」姿勢を見せることが大切。「ざっくり」と言われても、こちらが主導権を握って「しっかり」にしてしまうのがポイント。実は相手も「しっかり」を求めています。

3 「フェイク緊急」連絡を上手にさばく

1)よくある状況の例

「明日の会議で使いたいので、今日のうちに資料作成お願いしたいです」

「急ぎ知りたいことがあって、とりあえず電話してみたんだけど」

本当に緊急の場合は別ですが、一見、緊急性が高いように見える依頼でも、実際には「今日じゃなくても大丈夫」「単なる思いつきの共有だった」というケースも少なくありません。

相手の勢いに押され、常に言われた通りに対応していると、業務が圧迫され、慢性的な疲労やストレスが溜まってしまうこともあります。とはいえ、頭ごなしに断ると関係性が悪くなりかねません。

2)対応法は、「フェイク緊急」を仕組みで落ち着かせる

「フェイク緊急」にも真摯に応じつつ、本当の緊急との違いを明確にする仕組みを持つことが大切です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.受信確認+対応予告でまず安心感を持ってもらう

「メールを拝見しました。◯月◯日10:00までに一次回答いたします。緊急の場合はお電話をください」

2.緊急度の判定ルールを共有する

「本当に緊急の場合」を事前に決めておくことも有効です。例えば下記などです。

  • サービス停止でユーザーに重大影響
  • 法的締切が24時間以内
  • セキュリティインシデント

3.ルールを【愛されキャラ】で周知し、行動ガイドを徹底

相手との関係性や連絡の内容にもよりますが、メール署名やチャットの固定メッセージで「営業時間」「緊急連絡先」を柔らかいトーンで共有する方法もあります。

メール文面例

いつもありがとうございます。

私たちはより良い対応のために、通常のご連絡は平日9:00~18:00の間にお願いしております。お急ぎの場合に限り、○○までお電話ください!

4.チーム内で“緊急連絡の扱い方”を共有しておく

外部との対応だけでなく、社内でも「こういうときはすぐ対応する」「この程度なら翌営業日でOK」といった共通認識をつくっておくことが重要です。対応が属人的にならず、誰が対応してもブレのない対応が可能になります。

対応のポイント

単に断るのではなく「より良い対応ができる方法」を示すこと。相手も「いつでも対応してもらえる」より「確実に対応してもらえる」方を望んでいるかもしれません。

4 「無茶ぶりスケジュール」を現実的プランに変換する

1)よくある状況の例

(金曜18:00過ぎに)「月曜10:00までには企画案を出してください」

「遅れていた役員承認が下りました! 納品は当初予定どおり○日で」

突然のスケジュール変更や、現実的に対応が難しい短納期の依頼に戸惑うことはありませんか? 相手に悪気はなくとも、こちらの準備時間が足りないままで対応すると、ミスやクオリティ低下につながる恐れがあります。断りにくい気持ちもありますが、納得感を持って調整するための工夫が必要です。

2)対応法は、「できる範囲」を見せて共に調整する

無茶ぶりにそのまま応じるのではなく、冷静に「できる範囲」を提示し、相手と一緒に調整の落としどころを探る姿勢が重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.必要工数を見える化して交渉

作業の内訳と所要時間を丁寧に伝えることで、相手も「それは無理だったか」と納得しやすくなります。

「企画案3パターン作成には以下が必要です。

  • 市場調査:8時間
  • 企画立案:12時間
  • 資料作成:6時間
  • 合計 26 時間

このため、週明け月曜朝までの対応は、現実的にかなり厳しいスケジュールです。例えば、一次案を火曜午前、ブラッシュアップ版を木曜正午にご提出するスケジュールであればできると思いますが、いかがでしょうか?」

2.優先順位を相手に選んでもらう

「どちらを優先しますか? 月曜朝に1案のみ(精度は高い)でしょうか、それとも水曜午後に3案すべて(通常の精度)でしょうか」

3.現実的代替案を提示

「今回、役員さまのご承認に○日要したため、品質を保つには □月□日が最短です。ただし段階納品なら可能です。一次納品は◎日、最終納品△日という形ではいかがでしょうか?」

4.合意内容を文書で確認

お互いに確認し合えるよう、書面でスケジュールの変更をお願いし、合意することも有効です。

書面例

変更後スケジュール

○月○日:一次案提出

△月△日:最終案提出

※品質基準は従来どおり維持

以上でご了承いただけますでしょうか?

対応のポイント

「できません」ではなく「こうすればできます」で提案。ブンブン丸は現実的な代替案を待っています。

5 「振り回される」から、「一緒に加速する」へ

これまで、ブンブン丸に「振り回されないようにする」対応法を紹介してきましたが、実はブンブン丸との関係を攻めの視点で捉えることもできます。

ブンブン丸に「振り回される」状況を、こちら側のチーム全体の“スピードアップ”や“対応力を鍛える機会”に変えてしまうことです。

例えば、仕事のフローをシンプル化する、定型フォーマットを用意する、AIをうまく活用するなどの取り組みで、スピードアップを図るのも一策です。

ブンブン丸への対応力を磨くと、次のような成果も期待できます。

  • スピード感のある対応体制が整う 急な依頼にも冷静に、素早く対応できるようになる
  • 対応パターンの資産化 汎用テンプレートや定型フローが増え、業務効率がアップする
  • メンバーの対応力向上 臨機応変な動き方が身につき、一人ひとりのスキルアップにつながる
  • 信頼の積み上げ 急ぎの要望にも“的確に対応できる存在”として評価が高まる

ブンブン丸の行動に一喜一憂するのではなく、それに対応できるチームへと進化することで、結果的に組織全体の推進力が上がっていきます。

振り回されるだけの関係から、一緒に加速し、成長し合える関係へ。ブンブン丸への対応を、そう前向きに捉えることもできるでしょう。

ブンブン丸は「困った取引先」ではありません。「可能性を秘めたパートナー」です。

みんなで良い方向に進化していきましょう!

以上(2025年6月作成)

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画像:日本情報マート