景況はようやく回復の兆しが見えつつあるものの、ウクライナ情勢の影響による原材料費高騰など、中小企業にとってはまだまだ予断を許さぬ状況といえます。
そのような中、政府が「インフレ率を超える賃上げの実現を目指す」とし、経済界に対し、物価上昇分を超える賃上げ要請をしました。これに呼応した大手企業が賃上げをする一方、業績が厳しい中小企業は、賃上げが難しく、それにより「人材流出」が顕著になり始めています。
本稿では、満足に賃上げできないことで従業員が退職し、経営破綻をした倒産(「従業員退職型倒産」)について、ご紹介いたします。
1 「従業員退職型」の人手不足倒産の推移
帝国データバンクの調査によると、2022年に判明した人手不足倒産140件のうち、従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産は、少なくとも57件判明しました。
(帝国データバンク「従業員退職型:人手不足倒産の推移」)
本年はコロナ禍以前の集計となる2019年以降、3年ぶりに増加に転じました。また、2022年の人手不足倒産に占める「従業員退職型」の割合は40.7%となっており、2021年に続き高水準で推移しています。
2 「従業員退職型」の人手不足倒産の業種別割合
2022年の「従業員退職型」の倒産を業種別にみると、人手不足倒産に占める割合が最も高いのは建設業でした。業務遂行に不可欠な資格を持つ従業員の離職が響いた企業などが目立っているようです。また、人手不足感が高止まっている業種、人材の獲得競争が激しい業種が多くなっているようです。
(帝国データバンク「従業員退職型:業種別割合」)
・調査企業:帝国データバンク
・調査期間:2023年2月時点まで
・調査対象:負債1000万円以上の法的整理企業
3 さいごに
コロナ禍からの経済再開が進むなか、企業による「人材獲得競争」は、ふたたび激化しています。従業員や求職者にとって賃金は、職場を選ぶ重要な要素の1つとなることは間違いありません。しかしながら、企業がアピールすべきは必ずしも「賃金の高さ」である必要はありません。
社内の労働環境や人間関係、福利厚生、コンプライアンスなど、従業員や求職者のニーズは多種多様です。単純に賃金アップに着手するのではなく、自社の優れた点を洗い出し、他社との差別化を図る戦略を今一度考える努力をしていきましょう。
※本内容は2023年2月13日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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