書いてあること
- 主な読者:社員を休ませるか否かの基準や手続きを、正しく知りたい経営者
- 課題:リモートワーク、出社、休業を実施するための手続きが分からない
- 解決策:基本は命令の根拠を得るために就業規則を変更すること
新型コロナウイルス感染症により、会社は予期せず社員を休業させなければならない経験をしました。今回は突然のことであったため体制が整わないまま対応したかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の第2波も懸念される今、BCPの観点からも今後に向けた準備が必須です。
そこで本稿では、社員にリモートワークを命じる場合などに必要な主な労務手続きをまとめます。
1 リモートワークを命じるための主な労務手続き
1)就業場所の見直し
リモートワークの就業場所は、自宅、カフェ、サテライトオフィスなどさまざまです。感染症対策などとしてのリモートワークの場合、安全衛生などの観点から就業場所を「自宅、その他会社が指定した場所」などに限定する必要があります。
2)労働時間管理の方法の見直し
自社の労働時間管理がリモートワークでも適用できるかを確認します。タイムカードなど、オフィス備え付けの設備がないと労働時間を管理することが難しい場合、次のように労働時間管理の方法を変える必要があります。
- 社員に始業・終業時刻を、電話、メール、業務日報などで報告させる
- 社員が使用するノートパソコンの使用時間を記録する
- ノートパソコンでも打刻可能な勤怠管理システムを導入する
3)通勤手当の見直し
オフィスに出勤しない社員に、定額の通勤手当を支払うことは合理的ではなく、実際にこれを見直す会社が増えています。就業規則や賃金規程の見直しが必要です。「月に所定労働日数の3分の1以下しか出勤予定のない社員には定額の通勤手当は支給せず、社員の請求に基づき実費を支給する」などの規定を置くことになるでしょう。
4)費用負担の見直し
リモートワークで発生する通信費などの費用を、会社と社員どちらが負担するのか決めておく必要があります。業務に要した通信費などは会社の負担とするのが望ましいでしょう。光熱費など、仕事とプライベートの境界線が分かりにくい費用は、社員とトラブルにならないよう、会社と社員どちらが負担するのか、定額で支給するのか明細を提出してもらい会社が認めた費用を支給するのかなど、明確にルールを定めます。
5)就業規則の変更・届け出
上の1)から4)については、就業規則の見直しが必要となる可能性があります。就業規則を変更する場合は、社員の過半数を代表する者の意見書を添えて所轄労働基準監督署に届け出ます。緊急時は就業規則の変更などが即座にできない場合がありますが、少なくとも個別の同意を取るようにしておきましょう。なお、リモートワークの規程例については、次のコンテンツが参考になります。
6)情報通信機器の見直し
労務管理ではありませんが、セキュリティーの観点で重要なので紹介します。
リモートワークに必要な機器は原則として会社が貸与することが望ましいです。台数の関係などで社員が私物のノートパソコンなどを使用する場合、会社指定のセキュリティーソフトをインストールしてもらう、フリーのWi-Fiには接続しないよう指導を徹底するなどの対策を講じます。こうしたルールは、「リモートワーク規程」などにまとめるとよいでしょう。
2 出社させる場合の主な労務手続き
1)労働時間制度の見直し
例えば、緊急事態宣言中などの非常時に社員を出社させる場合、感染リスクを減らすための取り組みが不十分だと、会社が安全配慮義務違反に問われる恐れがあります。
労働時間制度については、社員が混雑する時間帯の通勤を避けられるよう、時差出勤やフレックスタイム制などを導入することを検討します。すでにこれらの制度を導入している場合も、社員に混雑の状況をヒアリングし、必要があれば時差出勤の始業・終業時刻やフレックスタイム制のコアタイム(必ず出社しなければならない時間帯)を変更します。
2)社員へのマスク着用などの徹底周知
オフィス内で感染者が出ると、その社員だけでなく、他の社員や来客などにも感染が広がる恐れがあります。
そのため、業務中はマスク着用や手洗いを徹底するよう、社員に周知する必要があります。なお、就業規則に規定があれば、一定の強制力をもって社員に命じることができます(命令の妥当性はケース・バイ・ケースです)。会社が命じてマスクを着用させる場合、社員が義務を履行できるよう、マスクなどを会社側で用意するのが望ましいでしょう。
3)体調不良の社員への対応
例えば、新型コロナウイルス感染症の場合、症状として発熱やせきを伴うといわれています。業務上の必要性・緊急性があっても、原則としてこうした症状がある社員は出社を認めるべきではなく、他の社員が業務を代行できないか検討するなどの対応を取る必要があります。
4)就業規則の変更・届け出
上の1)から3)については、就業規則の見直しが必要となる可能性があります。就業規則の見直しについては、前述した通りです。緊急時は就業規則の変更などが即座にできない場合がありますが、少なくとも個別の同意を取るようにしておきましょう。
5)オフィス内の“3密”の解消
労務管理ではありませんが、感染防止の観点で重要なので紹介します。
密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)は、感染リスクを増大させる、いわゆる“3密”といわれています。
オフィスの場合、「30分に1回以上、数分間程度、窓を全開にする」「執務室や会議室の座席を、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が取れる間隔に配置する」などの取り組みが必要となります。
3 休業させる場合の主な労務手続き
1)休業手当の支払い
使用者の責に帰すべき事由により休業する場合、会社は休業期間中、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。使用者の責に帰すべき事由には、会社の故意・過失による場合はもちろん、不可抗力を主張し得ない全ての場合が含まれます。
新型コロナウイルス感染症を例にすると、緊急事態宣言が発出されたからといって、直ちに休業手当の支払いが不要と判断されるわけではありません。「社員を(リモートワークで実施できる)他の業務に就かせることができるのに休業させた」場合などは、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。
2)雇用調整助成金の申請
「雇用調整助成金」は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた会社が、社員に対して一時的に休業などを行った場合に支給される助成金です。事業を行えない状態で休業手当を支払うのは会社にとって負担ですが、これを利用することでその負担を軽減することができます。
2020年6月12日からは、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置として、支給上限額の引き上げ(1人日額8330円から1万5000円へ)なども行われています。詳細は、都道府県労働局やハローワークに問い合わせるとよいでしょう。
以上(2020年7月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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