書いてあること
- 主な読者:インバウンド需要の取り込みを狙う飲食店・宿泊施設の経営者、外国人雇用を検討している経営者
- 課題:外国語を話すことはできないけど、何とかコミュニケーションを取りたい
- 解決策:「やさしい日本語」を使って、外国人に伝わる言い方・書き方を心がける
1 「やさしい日本語」を使ってみよう
日本にいる外国人のうち、「英語はわからない。日本語は少しわかるけれど、難しい言い方をされるとわからない」という人も多いようです。
そこで、この記事で紹介するのが「やさしい日本語」です。「やさしい日本語」とは、
普段使われていることばを、外国人にもわかるように配慮した簡単な日本語
です。元々は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとして、災害発生時に外国人に対して素早く早く的確に情報を伝えるために、弘前大学社会言語学研究室(佐藤和之教授・ゼミ生)によって考案されました。
その後、「やさしい日本語」は、さまざまな行政機関や外国人支援団体などで、
生活情報や観光情報などを伝える手段としても使われる
ようになっています。
コロナ禍で落ち込んだ訪日外客数は、2023年10月以降はコロナ禍前の2019年同月比で同水準にまで回復。今後も円安などの影響でインバウンド需要が高まることが期待されています。
また、2024年3月には、外国人技能実習制度を廃止し、新たに外国人材の確保を目的とした「育成就労」制度を創設する出入国管理・難民認定法などの改正案が閣議決定され、外国人雇用を巡る環境も大きく変化しつつあります。
この記事では、「インバウンド需要を取り込みたい」「人手不足を補うために外国人雇用を検討している」といった経営者の方に、外国人とのコミュニケーション力を高めるための「やさしい日本語」のルールや注意点、役に立つツールを紹介します。
AIを使った翻訳の精度も高まってきていますが、難しい日本語をそのまま翻訳させるよりも、やさしい日本語に言い換えた後に翻訳させるほうが誤訳を減らすことができるといいます。ぜひ「やさしい日本語」を使ってみましょう。
2 「やさしい日本語」のルール
ここでは、総務省消防庁「外国人来訪者等が利用する施設における避難誘導のあり方等に関する検討部会」(平成29年度)の参考資料としても使われた「『やさしい日本語』作成のためのガイドライン」を基に、「やさしい日本語」の主なルールについて具体的に見ていきます。同資料は、弘前大学社会言語学研究室によって2010年に作成、2013年に増補されたものです。
■「やさしい日本語」作成のためのガイドライン■
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento207_20_sankou5-6.pdf
1)「やさしい日本語」の作成ルール
1.難しいことばを避け、簡単な語彙を使ってください
語彙は日本語能力試験出題基準3、4級程度(当時。現在の日本語能力試験(JLPT)N4、N5レベル)の語を使います。
語彙の難しさのレベルは、筑波大学日本語・日本事情遠隔教育拠点が運営を引き継いだ「日本語読解学習支援システム『リーディング チュウ太』」で調べることができます。
■リーディング チュウ太■
https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/
2.1文を短くして、文の構造を簡単にしてください
1文を短く、長さは24字程度、文節の数は10文節程度にします。文節とは、文章を意味のまとまりで区切った単位のことです。文の構造を簡単にするには、「主語と述語を一組だけ含む文にする」「連体修飾節(名詞を説明している部分)の構造を単純にする」ことが大切です。
3.外来語を使用するときは気をつけてください
外来語は原語と意味や発音の異なるものが多いため、使用するときは注意が必要です。ただし、例えば、「バス」「ガス」「テレビ」「ラジオ」などの基本的な語で、外来語以外での表現が難しいものは使うことができます。
4.擬態語は、日本語話者以外には伝わりにくいので使用を避けてください
例えば、「めちゃめちゃ」「どきどき」などの擬態語は、意味が伝わらない恐れがあります。
5.動詞を名詞化したものはわかりにくいので、できるだけ動詞文にしてください
例えば、「揺れがあった」→「揺れた」のように言い換えます。「揺れ」は「揺れる」という動詞を名詞化したものだからです。
6.あいまいな表現は、避けてください
「おそらく……」「たぶん……」などの表現は、使わないようにします。また、「…したりしている」のようなあいまいな表現は避けます。
7.二重否定の表現は避けてください
「通れないことはない」などの二重否定の表現は、混乱を招きやすいため使わないようにします。
8.文末表現はなるべく統一するようにしてください
例えば、「食べられる」→「食べることができる」のように、可能表現は「れる」「られる」ではなく「(…する)ことができる」とします。逆に、不可能の表現は「(…する)ことができません」とします。
また、例えば、「手を洗いましょう」→「手を洗ってください」のように、指示文末は「(…し)ましょう」ではなく「(…して)ください」とします。
2)書きことばの注意点
1.文は文節で余白をあけて区切り、「分かち書き」にしてください
分かち書きとは、文節の間に間隔をあけて文章を書く方法のことです。基本的には、文の途中で「ね」などを入れても不自然にならないところで分かち書きをします。
2.ローマ字は使わないでください
ローマ字を使って日本語の文を表記しないようにします。ローマ字は、駅名や地名などの固有名詞を表記するためのもので、文を書くことには不向きです。
3.使用する漢字や、漢字の使用量に注意してください。漢字にはふりがなをふってください
漢字の使用量は1文に3、4字程度が目安です。全ての漢字にふりがなをふります。
4.難しいことばでもよく使われることばの場合、後に<>を使い言いかえを付記してください
災害時にはよく使われる「余震」「津波」「避難所」「消防車」などのことばは、そのまま使い、後ろに<>で言いかえを付記します。
- 余震<あとから 来る 地震>
- 津波<とても 高い 波>
- 避難所<みんなが 逃げる ところ>
- 消防車<火を 消す 車>
5.時間や年月日の表記はわかりやすくしてください
時間は12時間表記とします。時間の起点を表す助詞は記号「~」を使わずに、「……から」に統一します。年月日の表記にはスラッシュを使わないで、○年○月○日とします。和暦ではなく西暦で表記します。
3)読みことばの注意点
基本的なルールは、難しいことばを避けて簡単な語彙を使うという点で、書きことばでのルールと変わりありません。全体的にゆっくりと、一語一語はっきり発音します。
数字の読み方は、ゼロ イチ ニ サン ヨン ゴ ロク ナナ ハチ キュウ ジュウが基本です。ただし、4時(よじ)、9時(くじ)のように例外もあります。
「紙」と「髪」、「格好」と「学校」のように、同音、または音が似ている語はなるべく使わないことを心がけます。
3 覚えておきたい「ハサミの法則」と「ワセダ式」
「やさしい日本語」で話すときは、
- はっきり言う
- 最後まで言う
- 短く言う
ことが重要です。この3つのポイントの頭文字を取って、やさしい日本語ツーリズム研究会代表の吉開章氏は「入門・やさしい日本語」(アスク出版、2020年)の中で「ハサミの法則」と名付けました。
また、短く言うために役立つのが、
- 分けて言う
- 整理して言う
- 大胆に言う
ことです。同書では、この3つのポイントの頭文字を取って「ワセダ式」と呼んでいます。
4 参考
「やさしい日本語」の作成に役立つツール・ウェブサイトとして以下をご紹介します。
■やさにちチェッカー■
http://www4414uj.sakura.ne.jp/Yasanichi1/nsindan/
■リーディング チュウ太■
https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/
■「やんしす」(YAsashii Nihongo SIen System)■
http://www.spcom.ecei.tohoku.ac.jp/aito/YANSIS/
■伝えるウェブ■
https://tsutaeru.cloud/
■在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(出入国在留管理庁・文化庁)■
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
■日本放送協会(NHK)やさしい日本語 会話編■
https://www.nhk.or.jp/lesson/ja/
■日本放送協会(NHK)NEWS WEB EASY やさしい日本語で書いたニュース■
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年4月16日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
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