1 ウチの会社で、本当に外国人は働けるのか……?
日本で働く外国人の数は増え続けています。ただ、「外国人雇用に興味はあるけど、実際に雇ったことはない」という会社が、最初の一歩を踏み出すのにはなかなか勇気がいります。在留資格などの法律的な問題もそうですが、
多くの経営者が気にしているのは、やはり「外国人が会社になじめるか、どうか」ではないでしょうか。
言葉も文化も違う外国人が、日本人の社員や顧客とうまくコミュニケーションが取れるのか、これは誰しもが考える問題です。また、少々意地悪な見方ですが、いわゆるクルド人問題が注目を集める中で、「外国人を雇ったら、社員や顧客から変な目で見られないか」と不安な経営者もいるかもしれません。
外国人を戦力化し、そして人々から愛される社員に育てるためには、何が必要なのか。この記事では、そのヒントとして
- 埼玉県川口市で、15年以上外国人を雇用し続けている会社へのインタビュー内容
- 外国人を雇用している(または過去に雇用していた)経営者73人へのアンケート結果
を紹介します。
2 小泉アルミ「根気強く話しかければ、外国人は育つ」
埼玉県川口市で、伝統産業「鋳物の製造」を30年以上続けている小泉アルミ。15年以上前から外国人を雇用していますが、2018年ごろから技能実習生などの受け入れを本格化。2025年9月現在、社員16人のうち12人は外国人だそうです(国籍はインドネシア、ベトナムなど。永住者を含む)。
クルド人問題の渦中にある川口市で、地域から愛される外国人を育てるために会社としてどのような取り組みをしているのか、小泉アルミ代表の内田英嗣さんに話を聞きました。
■小泉アルミ■
https://www.koizumialumi.com/
1)経営者自ら「とことん外国人に話しかけること」が大切
外国人を雇用する多くの会社が直面するのが、「言語と文化の壁」。小泉アルミでも、同じ課題を抱えていたそうです。
「もちろん、日本語や日本の文化をしっかり勉強している外国人は多いです。一方で、なかなか自分から学ぼうとせず、『日常会話すらままならないし、挨拶もできない』という人が、いつの時代も必ずいるのです」(内田さん)
製造業は、ただでさえ事故の起きやすい業種。社員とコミュニケーションが取れないことは生命に関わります。内田さんが考えた対応策はシンプル、「自分から、とことん外国人に話しかけること」でした。
「終業時は、私が外国人の社員一人ひとりに、日本語で『お疲れ様』と声掛けをしています。すると、最初は全然挨拶を返してくれなかった人も、次第に日本語で受け答えをしてくれるようになるのです。私から社員に『何か日本語で質問してみて』と言って、質問させることもありますね。とにかく毎日根気強く話しかけることが大切です」(内田さん)
2)「挨拶」がしっかりしている外国人は、地域の人々から愛される
川口市では、一部の外国人による犯罪行為やごみの不法投棄などが問題視され、2023年には市が国に対し、不法行為への厳正な対処などを求めた要望書を提出しています。日本で働く外国人と地域の関わり方について、内田さんの考えを聞きました。
「最近はあまり気になりませんが、以前、当社の近くでも一部の外国人による夜間の騒音などが問題になったことがありました。幸い、当社の社員がトラブルを起こしたり、巻き込まれたりしたことはないですが、近隣住民の中に外国人を怖がる人がいても、それは無理からぬことだと思います」(内田さん)
そんな中にあって、内田さんが特に大切にしていることは「挨拶」だそうです。
「社員には、外で誰かに会ったら、必ず『こんにちは』と日本語で挨拶するように伝えています。これができないと、『外国人は、何を考えているか分からなくて怖い』という印象を相手に与えてしまう。逆に、たどたどしい言葉でも、『話したい』『仲良くしたい』という気持ちが見える人には、心を開きたくなりますよね。外国人に限った話ではないですが、誰かに愛されたいなら、まずは挨拶からだと思います」(内田さん)
3)外国人を孤立させず、日本を大いに楽しんでもらう
外国人を雇用する上で、内田さんが大切にしている心構えを聞きました。
「どんな外国人も、日本語や日本の文化に慣れていないうちは、うまく仲間の輪に入れず、独りで行動しがちです。ポイントは、こちらから積極的に話しかけ、『孤立させないこと』。先ほどお伝えした終業時の『お疲れ様』もそうですし、一生懸命働いてくれている社員に『ありがとう』と感謝を伝えるのも大切。とにかく、一人の人間として、日本人と同じように接することを意識しています」(内田さん)
また、日本で働く外国人へのメッセージもいただきました。
「当社では、外国人の社員と定期的に食事会をする他、年に1回、社員旅行を実施しています。そうしたイベントを通して日本の文化に触れるうちに、興味が出てきて日本語などが上達していく人もいます。時折、『休みの日は部屋にこもりっぱなし』という外国人の話を聞きますが、それはもったいない。せっかく日本にいるのだから、さまざまな文化に触れて、大いに日本を楽しんでほしいと思います」(内田さん)
3 経営者73人にアンケート! 外国人への教育の課題は?
インターネット上で、外国人を雇用している(または過去に雇用していた)という中小企業の経営者73人に対し、「外国人の社員教育」に関するアンケートを実施しましたので、その結果を紹介します(実施期間は2025年9月9日から9月16日まで)。
1)外国人の社員教育で、課題と感じること(感じていたこと)は?(複数回答)
まずは経営者全員に対し、社員教育の課題について聞きました。
「文化・習慣の違い(63.0%)」「言語の壁(52.1%)」がやはり大きな課題のようです。
「その他」の課題として、「取引先の理解」を挙げていた人
もいました。
2)外国人にどのような教育を実施していますか?(いましたか?)(複数回答)
次に外国人の教育方法について聞きました。
「OJT(現場での実務を通じた指導)(54.8%)」が最も多くなっています。言語の壁を乗り越えるために「社内での日本語研修や勉強会(21.9%)」「多言語対応のマニュアルやツールの整備(20.5%)」に取り組む会社もいました。また、
「その他」の教育内容として、「日本人社員への多様性教育」を挙げていた人
もいました。
3)外国人の社員教育で、特に意識していること(していたこと)は?
さらに、「外国人の社員教育で、特に意識していること(していたこと)はありますか?」と聞いたところ、58.2%が「ある」と回答しました。
「ある」と回答した経営者32人に、「具体的に何を意識している(していた)のか」を聞いたところ、次のような回答が寄せられました(明らかな誤字などは修正しています)。
- 文化の違いや宗教的な問題。日本では問題ないことでも海外ではタブー視されることもあるので、本人とその都度話し合いながら少しずつお互いに歩み寄った
- こちらの意図することをいかに伝えるか。翻訳アプリや身振りなどで根気強く伝えるようにしている
- 相手がこちらの指示を正しく理解しているか、確認するようにしている
- やって見せて、やらせて、訂正して、褒める
- 根気強く教育する
- 誠意と思いやりを実感させてあげること。だからこそ本気で叱れる
- 怒らない
- キレて刃物を持ち出すなどの危険性の防止
- 期待しすぎない
- 日本人スタッフと同じように接する
- 日本はいい所だと感じてもらえるよう対応する
4)外国人の社員教育について、専門家などに相談したいこと(相談したこと)は?
「外国人の社員教育について、専門家などに相談したいこと(相談したこと)はありますか?」と聞いたところ、37.1%が「ある」と回答しました。
「ある」と回答した経営者23人に、「具体的に何を相談したい(相談した)のか」を聞いたところ、次のような回答が寄せられました(明らかな誤字などは修正しています)。
- 日本との生活風習の違いから日本人社員との軋轢(あつれき)が生じることがあるし、本人も疎外感を感じることもあるよう。いかに日本人社員の中に溶け込み業務を円滑に行えるかを相談し、試行錯誤をしながら行った
- 文化の違いを分かりやすく伝える方法
- 日本語の習得
- ニュアンスの壁の克服
- (コミュニケーションなどの問題は)ルーツのせいなのか、固有の特性なのか
- 入管対応
- 法律的な問題
以上(2025年10月)
pj00788
画像:buritora-Adobe Stock