書いてあること

  • 主な読者:安全衛生管理体制について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:総括安全衛生管理者や安全委員会……名前は聞いたことがあるが、自社では選任・設置しなければならないのか分からない。ホワイトカラーの会社にも必要なの?
  • 解決策:社員数や業種を基準に、自社に必要な担当者・委員会を確認する。一部業種を問わず選任・設置が必要なものがあるので、ホワイトカラーの会社も要チェック

1 あなたの会社に必要な担当者・委員会は?

労働安全衛生法により、会社には安全(事故防止等)と衛生(病気の予防・治療等)に関する施策を効果的に実施するための、「安全衛生管理体制」の構築が義務付けられています。必要な担当者・委員会は次の通りです。なお、社員数は支店など事業場単位で常時雇用する人数です。

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赤字の「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、2024年4月1日から選任が義務付けられます。この2つは、厳密に言うと法律上の安全衛生管理体制には含まれないのですが、他の担当者や委員会と連携して安全衛生管理の職務に当たるので、併せて押さえておきましょう。

以降で、各担当者・委員会の役割、選任・設置に必要な手続きなどを紹介します。なお、建設業については、図表の内容以外に特有の安全衛生管理体制のルールがありますので、次の記事でご確認ください。

2 安全衛生管理体制に関する担当者など

1)総括安全衛生管理者

1.主な職務

安全管理者、衛生管理者などを指揮し、次の7つの事項を統括管理します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
  5. 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  6. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置に関すること
  7. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

工場長や作業所長など、事業を実質的に統括管理する者が担当します。選任が必要な事由が発生(第1章の図表の要件に該当した場合、以下同じ)してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

2)安全管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、安全に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(巡視の頻度については特に定めなし)、設備、作業方法等に問題があるときは、危険を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

法が定める要件に該当する者で安全管理者選任時研修の修了者または労働安全コンサルタントのいずれかが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

3)衛生管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、衛生に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(毎週1回以上)、設備、作業方法、衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許の保有者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなどが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

4)安全衛生推進者(衛生推進者)

1.主な職務

安全管理者・衛生管理者の選任義務がない会社にて、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること

次の業種に該当する会社は「安全衛生推進者」を、該当しない会社は「衛生推進者」を選任します。衛生推進者は、上の1.から4.のうち衛生に関する事項を担当します。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

安全衛生推進者(衛生推進者)養成講習の修了者、大学または高等専門学校卒業後に1年以上安全衛生の実務に従事している者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任しますが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、安全衛生推進者(衛生推進者)の氏名を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

5)産業医

1.主な職務

社員の健康管理等について、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の健康管理(健康診断、面接指導等の実施、その結果に基づく社員の健康保持のための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等)に関すること
  2. 社員の健康の保持増進(健康教育、健康相談等)に関すること
  3. 労働衛生教育に関すること
  4. 社員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること

また、作業場等を巡視し(原則として毎月1回以上(注))、作業方法または衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。この他、会社に対し、社員の健康管理等について必要なことがあれば勧告等を行います。

(注)事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合に限り、2カ月に1回以上実施します。ただし、巡視の頻度を変更する場合は事業者の同意が必要となります。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

医師であって、日本医師会の産業医学基礎研修や産業医科大学等の正規課程の修了者である者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

6)作業主任者

1.主な職務

高圧室内作業など、労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業に従事する社員を指揮等します。作業は31種類あり、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード(作業主任者))」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo34_1.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

対象となる作業ごとに、担当者になるために必要な免許や修了すべき講習などが決まっています。例えば、高圧室内作業の場合、高圧室内作業主任者免許の保有者が担当します。選任の時期については特に定めがなく、所轄労働基準監督署への届け出も不要です。ただし、作業主任者の氏名と職務の内容を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

7)化学物質管理者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、事業場の化学物質の管理を行います。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のこと

で、化学物質管理者はこれを管理するために次の職務を担当します。

  1. ラベル・SDS等の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  4. 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  5. 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  6. ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  7. リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応

なお、リスクアセスメント対象物の一覧は下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(表示・通知対象物質の一覧・検索)」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合、化学物質管理者講習の修了者が担当します。製造を行わない事業場の場合、特に資格要件はありません。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、化学物質管理者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

8)保護具着用管理責任者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、社員に保護具(保護眼鏡、防じんマスク、手袋など)を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者が担当します。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、保護具着用管理責任者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

3 安全衛生管理体制に関する委員会

1)安全委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。

  1. 社員の危険防止のための基本対策に関すること
  2. 労働災害の原因・再発防止対策で、安全に関すること
  3. 安全に関する規程の作成に関すること
  4. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、安全に関すること
  5. 安全衛生に関する計画(安全に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  6. 安全教育の実施計画の作成に関すること
  7. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の危険防止に関すること

委員会は毎月1回以上開催し、開催の都度、委員会における議事の概要を社員に周知します。なお、委員会の開催や社員への通知は、オンラインで実施することも可能です。

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から3.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 安全管理者
  3. 安全に関し経験を有する社員

また、1.以外の委員については会社が選任しますが、そのうち半数については過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の推薦に基づいて選任しなければなりません。なお、委員の選任に当たり、所轄労働基準監督署などへの届け出は不要です。

2)衛生委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。なお、委員会の開催、社員への周知に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。

  1. 社員の健康障害防止のための基本対策に関すること
  2. 社員の健康の保持増進のための基本対策に関すること
  3. 労働災害の原因・再発防止対策で、衛生に関すること
  4. 衛生に関する規程の作成に関すること
  5. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、衛生に関すること
  6. 安全衛生に関する計画(衛生に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  7. 衛生教育の実施計画の作成に関すること
  8. 化学物質の有害性の調査、その結果に対する対策の樹立に関すること
  9. 作業環境測定の結果、その結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
  10. 定期健康診断等の結果、その結果に対する対策の樹立に関すること
  11. 社員の健康の保持増進を図るために必要な措置の実施計画の作成に関すること
  12. 長時間労働による社員の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  13. 社員の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  14. リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関すること
  15. リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること
  16. リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  17. 濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  18. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の健康障害防止に関すること

15.から17.(赤字)が2024年4月から新たに調査審議事項に加わります。対象は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)に限られますが、該当する会社は押さえておきましょう。なお、15.と17.に出てくる

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のこと

です。濃度基準値設定物質の基本的な考え方については、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32871.html

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から4.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。なお、委員の選任に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。また、安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、2つの委員会をまとめて「安全衛生委員会」として設置することも可能です。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 衛生に関し経験を有する社員

以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:boonchok-Adobe Stock

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