書いてあること
- 主な読者:老後の生活設計として、やはり「老齢年金」を頼りにしたい人
- 課題:老齢年金は制度が複雑で、支給額がどのくらいになるのかよく分からない
- 解決策:いつからもらうかで支給額が変わる。働きながらもらうと減額されることが多い
1 人生100年時代の必須知識
人生100年時代。老後の生活設計を考えると、やはり頼りにしたいのが「公的年金」です。ここでいう公的年金は、一定の年齢になったら支給を申請できる「老齢年金」のことで、
- 国民年金から支給される「老齢基礎年金」
- 厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」
に大別されます。気になるのは、「いつから、いくらもらえるのか?」ですよね。これを知るためには、次の3点を押さえることが肝要になります。
- 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給
- 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる
- 働きながらもらうと支給額が減る可能性がある
この記事では、制度が複雑な老齢年金について、この3つのポイントを掘り下げて説明します。なお、老齢年金やその他の制度の内容は、2024年4月1日時点のものです。
2 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給
老齢年金には老齢基礎年金と老齢厚生年金があり、次のように2階建てのイメージです。どちらも、
原則65歳(正しくは、65歳に達する日(誕生日の前日)が属する月の翌月)から支給
されます。
2024年4月1日時点で、65歳以降の支給額は次の通りです。
- 老齢基礎年金:81万6000円×国民年金の保険料納付済月数など÷480月
- 経過的加算:1701円×生年月日に応じた率×厚生年金保険の加入月数-81万6000円×(20歳以上60歳未満の厚生年金保険の加入月数÷(加入可能年数×12))
- 報酬比例部分:2002年度以前の報酬の平均(a)+2003年度以降の報酬の平均(b)
a=平均標準報酬月額×0.7125%×2002年度以前の厚生年金保険の加入月数
b=平均標準報酬額×0.5481%×2003年度以降の厚生年金保険の加入月数
- 加給年金:23万4800円(配偶者と第1子・第2子、配偶者のみ生年月日に応じた特別加算あり)、7万8300円(第3子以降)
報酬比例部分にある「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」は紛らわしいですが、要は
2002年度以前と2003年度以降とに分けて、1カ月当たりの報酬の平均額を出している
ということです。
- 2002年度以前は「標準報酬月額(月例賃金などの「報酬月額」を一定幅で区分したもの)」の平均額
- 2003年度以降は「標準報酬月額+標準賞与額(賞与総額から1000円未満の端数を切り捨てたもの)」の平均額
を使って、報酬比例部分の額を計算します。
■日本年金機構「年金額の計算に用いる数値」■
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/nenkingaku/20150401-01.html
3 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる
1)繰り下げ受給・繰り上げ受給:繰り上げると減額、繰り下げると増額
老齢年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給には、次のような真逆の性質があります。
- 繰り上げ受給:65歳よりも早く老齢年金をもらう(60~64歳)。支給額は減る
- 繰り下げ受給:65歳よりも遅く老齢年金をもらう(66~75歳)。支給額は増える
具体的に、どれだけ支給額が変わるのかのイメージは次の通りです(金額は概算です)。
繰り上げ受給の場合、支給を1カ月繰り上げるごとに、1962年4月1日以前生まれの人は0.5%(最大30%)、1962年4月2日以後生まれの人は0.4%(最大24%)、支給額が減ります。
繰り下げ受給の場合、支給を1カ月繰り下げるごとに、生年月日に関係なく0.7%(最大84%)、支給額が増えます。
一度、繰り上げか繰り下げをした場合、それを取り消すことはできず、減額または増額された老齢年金が生涯支給されます。ただし、老齢年金のうち「加給年金」だけは、繰り上げ・繰り下げの対象外のため、減額や増額がされることはありません。また、繰り下げ期間中、加給年金は支給されません。
2)特別支給の老齢厚生年金:繰り上げ受給に似ているが別の制度
特別支給の老齢厚生年金とは、
65歳前の一定の年齢に達したときから老齢年金を特別にもらえる制度
です。老齢年金の繰り上げ受給に似ていますが、対象は、
- 男性:1961年4月1日以前生まれ
- 女性:1966年4月1日以前生まれ(男性の5年後)
に限定され、支給開始時期も性別と生年月日によって決まっています。
2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生する場合、65歳前にもらえるのは「報酬比例部分」だけで、「定額部分(老齢基礎年金に相当する部分)」の支給は原則としてされない
という点に注意が必要です。
2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金をもらえる人は次の通りです。もともとこの制度は、1985年に老齢年金の支給開始時期(原則)が60歳から65歳に引き上げられた際、経過措置として設けられたものなので、将来的には対象者がいなくなります。
4 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る可能性がある
1)在職老齢年金:減額されることがある
在職老齢年金とは、
60歳以降も働きながら老齢年金をもらう場合、支給額が減る制度
です。具体的には、老齢厚生年金の報酬比例部分の額と、賃金額に基づく「総報酬月額相当額」の合計が一定額を超えると支給額が減ります。
総報酬月額相当額:標準報酬月額+(過去1年間の標準賞与額÷12)
報酬比例部分と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えるか否かで、次のように支給額が変わります。なお、
「50万円」という数字は、2024年4月1日から設定されたもの(改定前は48万円)で、今後も定期的に変更される可能性
があります。
2)高年齢雇用継続給付:減額予定
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、
現在は、賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度
です。
高年齢雇用継続給付と老齢年金が併せて支給される場合、60歳到達時の賃金と比較した低下率を基に、老齢年金が次のように減額されます。
なお、高年齢雇用継続給付は
2025年4月1日から、最大支給率が「15%から10%」に引き下げ
となります。賃金の低下率が64%未満の場合の支給率が10%で、64%以上の場合は厚生労働省令の定めに従って徐々に支給率が下がっていきます。ただし、2024年6月21日現在、支給率の逓減率の詳細については公表されていません。
以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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