中堅社員のAさんが勤める会社では、毎月、幹部会が行われます。今月から、Aさんも上司のB本部長と一緒に出席することになりました。B本部長はAさんを高く評価しており、「他の幹部に名前を覚えてもらえるように」と声をかけてくれました。
その日の幹部会のテーマは「働き方改革」。幹部たちは所管部の取り組みを順番に発表していきます。次は社内でも仕事ができると評判のC本部長です。どんな発言をするのか興味津々だったAさんですが、C本部長の発言は意外なものでした。
「私は定時退社で『働き方改革』を実践しているが、部下は残業続きだ。部下の要領が悪くて仕事が遅いのが一番の原因だ」
C本部長の指摘にも一理あるのかもしれませんが、残業が慢性化しているのは事実です。C本部長の真意が理解できないAさんは、同意を求めるように隣のB本部長を見ました。すると、B本部長も何やら深く考え込んでいます……。
働かない上司は問題外
若い頃はバリバリ働いていたのに、今は面倒なことは全て部下にやらせて、自分は口だけ出す。こんな人が皆さんの会社にはいませんか? 定時退社するのが、こんな「働かない上司」だったら誰もついてきません。
かつては、年功序列・終身雇用で若い頃に頑張った分、ある程度の年齢になったら楽をする働き方も認められていたかもしれません。しかし、今の時代には通用しません。
働かない上司の存在は、現場の士気にも悪影響を及ぼします。中堅社員が自ら解決するのは難しいはずなので、その場合は自分の上司に“やんわり”と、働かない上司のことを相談してみるとよいでしょう。
仕事ができても“愛”がなければ……
冒頭のC本部長は、働かない上司ではなく、仕事ができる上司です。新技術が次々と登場し、働き方も残業規制、副業・兼業の容認、リモートワークなどと様変わりする中、C本部長は環境の変化に適応し、第一線で通用するスキルを維持する努力を続けてきたはずです。
C本部長のような上司の下で働く部下は、新しいことにチャレンジする機会に恵まれます。変化が当たり前の環境で鍛えられた部下は、柔軟性と突破力を兼ね備えることができるかもしれません。
これを実現するためには、上司の“愛”ある指導が必要です。仕事ができる上司は、部下にも自分と近いペースで働くことを求めがちです。しかし、上司が求めるスピードについてこれる部下はほとんどいません。
能力不足や不慣れなど、部下の仕事が遅い理由はさまざまですが、部下の“迷い”にも注目してあげたいものです。部下が、自分の思った通りに進めれば意外と早く終わるのに、「本当にこの進め方でよいのだろうか。間違えたら上司に叱られる」などと迷ってしまうので、余計な時間がかかるのです。
こうした部下の迷いを断ち切るためには、上司が丁寧に指導しなければなりません。仕事ができる上司が、「昔は自分もそうだった。手間と時間はかかるが、しっかりと教えてあげよう」と、“愛”のある指導を行ったとき、部下は成長することができるのです。
定時退社の上司を部下はどう見ているのか?
ところで、部下は自分たちが残業続きであっても、仕事ができる上司が定時退社することを、最初、次のように好意的に受け止めてくれることがあります。
- 「上司は『働き方改革』を率先垂範するために、早く帰っているのだ」
ただ、この状態は長く続きません。上司が残業削減の対策を講じなければ、部下の状況は改善されません。そして、「定時退社の上司」と「残業続きの部下」という構図が定着します。不満がたまった部下は、先ほどとは全く違う印象を持つようになります。
- 「なぜ、自分たちだけ残業しなければならないのだ!?」
仕事ができる上司は、「働き方改革」を率先垂範しているつもりでも、部下の心はどんどん離れていってしまうのです。
問われるのは「依存と自立」のバランス
C本部長が発言しているとき、Aさんの上司であるB本部長が考えていたのは、「依存と自立」のバランスです。全てがそうではありませんが、指示通りに働いていれば給料がもらえ、雇用も維持されるという環境は、ある意味、「会社への依存」です。
同様に、何かあれば上司がフォローしてくれるから大丈夫と甘えるのも、「上司への依存」といえるでしょう。
会社や上司は、こうした依存を受け入れる代わりに、社員(部下)から労働力の提供を受けていますが、「働き方改革」が進む中で、こうした関係は少しずつ変わっています。それは、
- 個々人が自立して働くようになっている
ということです。
C本部長のやり方は、部下の自立を促すものかもしれませんが、言葉が足りませんでした。B本部長がAさんを幹部会に同席させたのも自立を促すためですが、B本部長がきちんと説明していたので、Aさんはやる気になっています。
「依存と自立」のバランスが問われる時代、大切なのは、上司が丁寧に説明することです。最初は時間がかかるかもしれませんが、そこで投資した時間は、必ず将来に活かされます。
Point
- 中堅社員は、仕事ができて“愛”のある上司を目指していこう!
- 「依存と自立」のバランスを忘れずに。
以上(2019年8月)
pj00421
画像:Eriko Nonaka