書いてあること
- 主な読者:働き方改革を進めつつ、もらえる助成金は受給したい経営者
- 課題:一部の社員に、年5日の年次有給休暇(年休)を取得させなければならない
- 解決策:「計画的付与」などによって、年休の取得促進を実現すると助成金の対象に
1 年5日の年休を取得して助成金ももらおう!
労働基準法には、会社の「年休の時季指定義務」が定められています。これは、
年10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与されている社員には、社員の意見を聴取した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させる
という義務で、違反すると社員1人につき30万円以下の罰金となります。
仕事ばかりで休もうとしない社員や、周囲に遠慮して休みたいと言えない社員もいます。しかし、年休の取得は、社員の心身のリフレッシュや仕事の効率に繋がることから、この義務に真摯に向き合って確実に年休を取らせていくことは大切です。
それに、社員の年休取得を促進する取組は、助成金の対象にもなります。具体的には、
「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」で、最大730万円を受給できる可能性がある
のです。助成金を受給するには、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。
2024年度の申請期限は、2024年11月29日まで
ですので、詳細を確認してみてください。助成金の概要は次の通りで、赤字の部分が年休に関連する内容です。
2 何をしたら年5日の年休取得が達成できるのか?
1)就業規則等の整備
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給するには、年5日の年休取得について就業規則等を整備する必要があります。定めるべきポイントは次の通りです。
- 年休の付与日数が年10日以上の社員に、年5日の年休を取得させる
- 5日の年休は、年休の付与日から1年以内に取得させる
- 5日の年休は、社員の意見を尊重しつつ、会社が時季を指定して取得させる
就業規則等の規定例は次の通りです。
【規定例】
第○条(年次有給休暇の時季指定)
会社は年次有給休暇を年10日以上付与する社員に対して、付与日から1年以内に、付与日数のうち5日について、会社が社員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、社員が本人による時季指定または第○条で定める計画的付与により年次有給休暇を取得した場合、取得した日数分を5日から控除する。
なお、就業規則等を整備するだけでなく、運用面においても注意が必要です。具体的には、
社員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する
ことが義務付けられています。また、社員数が常時10人未満の会社(事業場)が働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給する場合、この年次有給休暇管理簿が申請時の提出書類の1つになっています。社員数が常時10人以上の場合も、万が一提出を求められた際にきちんと対応できるよう、準備をしておきましょう。
2)計画的付与を導入する
年休をなかなか取ろうとしない社員がいる場合は、計画的付与が有効です。計画的付与とは、
会社主導で取得する時季を決められる制度
です。年休の時季指定義務との大きな違いは、
社員の意見を聴取せずとも、会社が計画的に割り振って時季を決めてよい
ということです。計画的付与では、会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。なお、導入するには「労使協定」(過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。
計画的付与の対象は、付与日数のうち5日を超える部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。逆に言うと、年休の付与日数が5日以下の社員には、計画的付与を適用できません。
図表2が年休の付与日数の一覧で、赤字が年休の時季指定義務の対象になる社員、網掛けにしているのが計画的付与を適用できない社員です。
3)半日単位年休や時間単位年休の導入
半日単位年休や時間単位年休を導入すると、
- 仕事の引き継ぎなどにかかる手間が減る
- 病院や役所に行くなど、ちょっとした私用に活用できる
といったメリットにより、社員が年休を取得しやすくなることが期待できます。社員が出張先で仕事をした後、空いた時間で観光を楽しむ「ブリージャー(出張休暇)」なども取りやすくなるかもしれません。
なお、半日単位年休と時間単位年休は似ていますが、実は次のように大きな違いがあります。
注意していただきたいのは図表3の赤字部分、「5.年休の時季指定義務との関係」「6.働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)との関係」です。
- 半日単位年休では助成金はもらえないが、年休の時季指定義務には含まれる
- 時間単位年休では助成金がもらえる可能性があるが、年休の時季指定義務とは無関係なので、別で年5日の年休を取得させる必要がある
以上(2024年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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