書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:一生懸命に勉強しているのに、なかなか実際のビジネスに活かせない
  • 解決策:座学だけではなく、実際に「経験」できる機会をどんどん与える

1 部下が育たない……

「あぁ~、もう! 何度言ったら分かるの!! ビジネスは相手の立場も考慮しながら進めないとトラブルになるよ。社内も社外も同じ。『次工程はお客様』って言うでしょ」。こう語気を強めているのは、営業を担当する中堅社員のAさん。

Aさんは、日々、部下に営業の姿勢を指導していますが、なかなか成果があがりません。そこでAさんは、上司であるB本部長に相談しました。「部下がなかなか育ちません。本を読ませたり、セミナーに行かせたりしているのに……。今のままではとても現場に出すことは難しいです」。するとB本部長は、次のように返しました。

「Aさんが教育熱心なのは分かっているよ。部下もそれを分かっているから、Aさんが厳しくてもついてくるんだよ。でもね、Aさん。人は受け身の座学だけでは成長できないんだよ」

2 「70:20:10」の法則

社員教育の現場でしばしば話題に上る、「70:20:10」の法則というものがあります。これは、

人の成長に影響を与えるのは、70%の経験、20%の教え(上司などからの)、10%の座学(研修など)である

ことを示しています。

教えや座学も大事だけれど、実際に自分で経験してみなければ身に付かないことが多いというのは感覚で分かります。特に、失敗は貴重な経験で、次の挑戦に生かすことができます。ところが、部下の教育に熱心な上司ほど“30%の壁”にぶつかります。「まずは基礎固めから」「失敗しないように慎重に」などの思いから、20%の教えと10%の座学という、足して30%の教育(教えと座学に偏った教育)ばかりを実行してしまうのです。

その理由は、

実は教えと座学に偏った教育は、上司にとっては達成感がある

からです。そもそも座学の機会を与えているのは自分(上司)です。同様に、自分の指示に従っている部下を見ることで、自分の教えが浸透していると誤解します。しかし実際は、上司の言葉の字面しか理解していない部下は少なくないものです。

足して30%の教育で成長できるのは、自ら率先して行動できる人だけです。そうでなければ、「頭ではある程度理解しているが、経験が浅いため現場に出ると何をしてよいのか分からずに動けない」ことにあります。冒頭のAさんが直面しているのは、まさに“30%の壁”です。自分(上司)としては十二分に教えているのに、いつまでたっても部下が現場で通用するほどには育たない。そんな困った状況にあるわけです。

3 もう少し問題を掘り下げる

足して30%の教育がもたらす問題をもう少し掘り下げてみましょう。部下は上司の下で成長できないばかりか、将来に向かって「勇気(ゆうき)」「当事者意識(とうじしゃいしき)」「やる気(やるき)」という、ビジネスで大切な3つの“き”を失います。

まず、経験がなければ、現場で一歩を踏み出す勇気が湧いてきません。そうしたときに、上司が常にフォローしていれば当事者意識をなくします。そして最後は、「どうせ自分は仕事ができない」とやる気を失うのです。

こうした状況が長く続くほど、事態は深刻になります。そして、上司は簡単な仕事さえ任せることができなくなり、本来は上司がやるべきではない仕事をいつまでも引き受けることになります。上司が上司としての仕事をしなければ、組織は停滞します。

4 経験しながら学ぶ機会が大事

「70:20:10」の法則を考慮すれば、部下の成長を促すためには経験が大切です。そこで、部下には小さな経験からしてもらい、上司は少しずつ難しい局面を設定するようにします。例えば、最初は上司が同行している商談の場でサービスの提案をさせ、その後に価格交渉など利害が衝突しやすい局面を経験させます。

難しいのは、冒頭のAさんが遭遇したような、「相手のことを考えて行動する」といった類いのつかみどころのない内容です。これは個人によって考え方が異なるもので、世代によっても“常識”が違います。個人の考え方を教えるのは難しく、それが良いともいえません。また、仮に上司の考えを隅々まで教えられたとしても、同じような考え方をするメンバーが多い組織に多様性はありません。

そこで、上司のほうが部下の多様な考え方を受け入れるという発想の転換が必要かもしれません。もちろん、守らなければならない接客の基準などがあって、その部分については議論の余地はないわけですから、徹底的に教え、経験させましょう。

以上(2021年8月)

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画像:fizkes-Adobe Stock

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