書いてあること

  • 主な読者:社員の介護離職が心配な経営者
  • 課題:何も対策しないわけにはいかないが、介護はデリケートな問題なので介入しにくい
  • 解決策:介護に直面する前から、相談しやすい雰囲気づくりや支援制度の情報提供に努める

1 仕事を辞めたいわけではない「介護離職」を防止する

介護離職とは、

仕事と家族の介護を両立することが難しくなり、仕事を辞めること

で、1年に約10万人の離職者がいます。特に2025年には「団塊の世代」が75歳を超え、その子供である「団塊ジュニア世代」(40~50代)の介護離職が大幅に増える可能性があります。ただ、介護はデリケートな問題故に、会社側からは積極的に介入しにくいのが悩みどころです。

そこで、大事になってくるのが

社員のほうから会社に相談してもらえるよう、社員が介護に直面する前から準備をする

という考え方です。会社が日ごろから介護について相談しやすい雰囲気づくりや、両立支援に関する情報提供に取り組んでいると、社員に「介護に直面しても仕事を続けられる(または辞めても戻ってこられる)」という安心感を与え、復職につなげられる可能性があるのです。以降で、介護離職を防止する3つのステップと復職支援について紹介していきます。

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2 介護について相談しやすい雰囲気づくり

社員は「介護は家族の問題だから、自分で何とかしなければ……」と考えがちですが、経営者や上司が日ごろから次のようなメッセージを積極的に発信していれば、介護について相談しやすくなります。

  • 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
  • 介護を担う社員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
  • 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
  • 介護をしていることを隠さずに相談してほしい

また、会社は社員の家族構成についても、可能な範囲で把握しておきましょう。一般的に、75歳を超えると要介護状態になる人が多くなるといわれています。社会保険の被扶養者情報などに目を通しておくと、これから介護が必要となりそうな社員がある程度分かるでしょう。

「仕事と介護の両立支援のため」に、社員の家族構成や親の健康状態などを、年2回の個人面談の際に把握しているという例もあります。

■経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン-参考資料集-」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

3 両立支援に関する情報提供

1)法定の両立支援制度に関する情報

育児・介護休業法には「介護休業」「介護休暇」など、仕事と介護を両立するためのさまざまな支援制度が定められています。例えば、次のような情報を伝えてあげると、社員は「介護をしながら働くこと」を前向きに検討できます。

  • 介護休業は、要介護の家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割取得できる
  • 介護休業を取得した場合、介護休業給付金(雇用保険)が支給されることがある
  • 介護休暇は、要介護の家族1人につき1年に5日間、1日または1時間単位で取得できる
  • 介護の必要がなくなるまで、所定外労働の制限(残業の免除)などが受けられる

2)公的介護保険サービスに関する基礎的な情報

自治体などから提供されている、公的介護保険サービスに関する情報も社員に伝えましょう。

  • 介護について分からないことは、地域包括支援センターの専門家に相談できる
  • 公的介護保険サービスを利用するには、地域包括支援センターか市区町村に申請する
  • 要介護(要支援)認定の申請やケアマネジャーの手配は、地域包括支援センターで行っている
  • 日中の見守りや夜間の緊急対応が受けられるかもしれない

3)会社独自の取り組みや民間の保険サービスに関する情報

テレワークなど、社員が介護をしながら働ける取り組みがあるなら、積極的に周知しましょう。社員が取り組みの存在を知らなかったり、自分は対象にならないと思い込んでいたりするケースは意外と多いものです。

社員本人が40歳(介護保険料を支払う年齢)になったら、社外から講師を招くなどして、公的介護保険サービスについて学べるセミナーを開催するのもよいでしょう。

また、損害保険会社が販売する団体保険で、社員の親が介護状態になると保険金を受け取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などの加入を検討してもよいかもしれません。要介護の状態になると、自宅のバリアフリー改修や有料老人ホームへの入居などで、まとまった費用が必要になることが少なくないからです。

4)親族の協力の重要性など踏み込んだ情報

仕事と介護を両立する際、親族の協力があればとても心強いものです。社員によって親族との関係性が違うので一概には言えませんが、次のようなことを伝えるとよいでしょう。

  • 将来の介護を見据え、日ごろから親や親族とコミュニケーションを取ったほうがよい
  • 親の状況(持病、かかりつけ医、親しくしている近所の人など)は親族間で共有する
  • 親の介護保険証や健康保険証の保管場所を確認しておく

4 介護に直面した社員との話し合い

社員が介護に直面した場合、なるべく早い段階で経営者が、「介護を理由に辞めてほしくない。会社として仕事と介護の両立を支援したい」というメッセージを伝えましょう。その上で、今後について話し合い、社員が介護をしながら無理なく仕事を続けられるように支援します。次のようなサポートをすることで、社員の気持ちをつなぎ留めることができるかもしれません。

1.要介護(要支援)認定を取得したか?

取得していなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

2.ケアマネジャーにケアプランを作成してもらったか?

担当のケアマネジャーが分からなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

3.介護をしながら仕事を続ける上で困っていることはないか?

介護休業・介護休暇の取得や、可能であればテレワークを勧めます。

4.仕事や介護の不安・悩みなどはいつでも相談してほしい

不安や悩みを1人で抱え込む必要はないことを伝え、サポートする姿勢を示します。経営者や上司が継続的に見守り、両立が困難な状況に陥っていないか、社員の心身のケアをします。

5 自社への復職を支援する

介護の悩みは、その社員が置かれた状況によって千差万別で、その状況も刻一刻と変化します。場合によっては、介護休業から復職できず、最終的に離職を選択してしまう社員もいるでしょう。ただ、そうした場合であっても、「状況が変わったら、いつでも連絡してほしい」と伝えておくなどすれば、復職の可能性を残すことができます。

離職した社員の状況などにもよりますが、離職後も定期的に連絡を取り続け、様子を確認するとともに、「会社はあなたのことを気にしている」という思いを伝えることも大切かもしれません。知識や技術を持ち、経験を積んだ社員は会社にとって貴重な戦力です。一から教育する必要がない経験者は、たとえ一度は職場を離れても、戻ってきてもらう価値があるでしょう。

以上(2024年5月更新)

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画像:photo-ac

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