書いてあること

  • 主な読者:いわゆる「ゆとり教育」を受けた「ゆとり社員」とのコミュニケーションに悩む上司や先輩社員
  • 課題:もっとやる気を持って仕事に取り組んでほしいが、強く注意すると逆にやる気を失うような気がして、うまく指導できない
  • 解決策:「自身にとって必要なことには真面目に取り組む」「成長意欲が高い」など、仕事に対する原動力になり得る特性を押さえる

1 若手社員の中に「ゆとり社員」がいたら……

世代間のギャップはいつの時代にもあるもので、企業の組織においても例外ではありません。例えば、入社して間もないのにすぐに辞めようとしたり、自ら進んで仕事に取り組もうとしなかったりする社員を見ると、上司や先輩社員は「今どきの若者は……」と思うでしょう。

こうした「今どき」の若い社員は、1990年代から2000年代初頭に行われたいわゆる「ゆとり教育」を受けた世代と重なるため、現在では「ゆとり社員」と呼ばれることが多いようです。

とはいえ、ゆとり社員とのコミュニケーションの問題は、上司や先輩社員が、物事の伝え方、言葉の選び方、接し方を少し注意するだけで解決することもあります。「ゆとり社員」の特徴を、心理学的視点から考えていきましょう。

2 自分の居場所はここじゃない~青い鳥症候群~

1)青い鳥症候群とは

青い鳥症候群とは常に現状に不満を持ち、新しい居場所を求め続ける状態で、童話「青い鳥」にちなんで名付けられました。仕事に当てはめると、「自分にはもっと適した仕事があるはずだ」と転職を繰り返す、ということなどになります。

「最近の若者は忍耐力が足りず、1つの仕事が続かない」などといわれますが、そうした人は、青い鳥症候群の可能性があります。

青い鳥症候群は、挫折経験が少ない人や、自分の能力に自信を持っている人がなりやすいようです。にもかかわらず、入社直後は先輩社員のサポートなど地味な仕事ばかり任されるので、「自分の能力が適正に評価されていない」と不満を抱くのです。

2)青い鳥症候群にならないためには

上司や先輩社員は、青い鳥症候群の部下を「どこに行っても同じ」などと説得します。しかし、青い鳥症候群になっている部下は、「もっと自分に向いた仕事があるはず」と信じているため、それを受け入れることはできません。

青い鳥症候群にならないためには、「より良い場所」への憧れを捨てさせるのではなく、現状に対する不満を軽減させることが重要です。ゆとり社員の不満は、多くが「自分は適正に評価されていない」「自分の能力が発揮できない」というものです。

この不満を軽減させるには、まず「ゆとり社員が現在行っている仕事の意味をしっかりと伝える」ことです。地味に思える仕事でも、企業全体の中では重要な意味を持っているのだということを伝えます。

さらに「評価していることを示す」ことも重要です。「地味に思える仕事だが、君がこの仕事をやってくれるので、とても助かっている」などと声を掛けることで、ゆとり社員が仕事に意味を見いだせるようになるでしょう。

なお、ゆとり社員の中には、成長意欲がとても強く、ごく短期間でのキャリアアップを望む人もいます。「早く結果を出したい」と考えているため、目に見える成果を実感しにくい仕事の意味を理解しないことがあります。

このような場合は、一度難しい仕事を任せて失敗させるのも1つの方法です。ゆとり社員に意図的に挫折を経験させた上で、現在の仕事が成長のために不可欠であること、結果だけでなく取り組み姿勢などを総合的に評価していることを説明するのです。

3 誰かがやるだろう~責任の分散~

1)責任の分散とは

責任の分散とは、複数の人間が1つの問題に向かい合うことで、個人が感じる責任の程度が軽減され、積極的な行動を取らなくなることをいいます。企業に当てはめると、「自分の仕事は行うが、担当者が決まっていない仕事には取り組まない状態」といえます。

例えば、共用スペースのゴミを「誰かが拾うだろう」と自分では拾わなかったり、代表電話を「誰かが出るだろう」と自分では出なかったりする場合です。

責任の分散は、ゆとり社員だけに限ったことではありません。ただし、入社から日の浅いゆとり社員の場合、重い責任を負った経験が少なく、責任の分散が起こりやすいといえます。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐためには、担当者を決めて各人の責任を明確にすることが有効です。しかし、全ての活動の担当者を決めるのは困難です。また、仮に全ての活動の担当者を決めたとすると、担当者以外はその活動に参加しなくなるかもしれません。

特に、問題発見や新たな提案などは、社員全員が随時取り組むべきもので、これを行う社員を決めてしまうことは好ましくありません。担当者を決めずに責任の分散を防ぐためには、各社員に「自分自身が問題に向き合っている」という意識を持たせることです。具体的には、次のような方法が考えられます。

  • 経営者や上司が各社員に個別に声を掛けるなどすることで、大勢いる社員の中の1人ではない「個人としての意識」を高める
  • 担当者が定まっていない活動に自ら取り組んだ社員を朝礼で称賛するなど、きちんと評価していることを伝える
  • 360度人事評価(多面評価)を導入するなど、他者の目を意識させる

4 ゆとり社員を戦力化するためには

ゆとり社員の共通の特性として、「自身にとって必要なことには真面目に取り組む」「無駄なことはしたがらない」「成長意欲が高い」「他者から認められたいという欲求が強い」といった面があるようです。

これらは、仕事に対する原動力になり得るものです。表面的な態度などから、つい「やる気がない」などと判断してしまいがちですが、意識をうまく仕事に向けさせると、ゆとり社員は大変な集中力と意欲を持って仕事に取り組むでしょう。

入社して間もないゆとり社員は、企業にとっては次代を担う大切な人材です。表面的な態度だけから、「最近の若い社員は駄目だ」と決め付けて、彼らの意欲をなくさせるのは企業にとって大きな損失です。ゆとり社員の特性を理解した上で、次代を担う戦力へと成長させていくマネジメントを心掛けましょう。

以上(2019年1月)

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画像:pexels

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