雇用している労働者が仕事中のけがで休業した場合、会社は所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出しなくてはなりません。しかし、労災保険の給付申請は行っても、労働者死傷病報告の提出を忘れる中小・零細企業が少なくありません。本稿では、労働者死傷病報告について詳しくお伝えします。

1 提出対象となる事故

労働者死傷病報告は、災害の発生状況や原因、けがの状況などを記載する書類です。提出が義務付けられているのは、次の①または②のケースで、労働者が死亡・休業した場合です。休業が0日の場合には、提出する必要はありません。

①労働災害(事業場外で発生した場合を含む)
または
②事業場内で発生したけがや病気(勤務時間外を含む)
により死亡または休業した場合

気をつけなければならないのは、②です。つまり、労働基準監督署に「労働災害(労災)」と認定されたケースに限らない、という点です。労災と認定されるかわからない場合、労災と認定されなかった場合、労災保険を使わなかった場合でも、②に該当すれば、労働者死傷病報告を提出しなければなりません。もちろん、①のケース(労災認定されたケース)では、うつ病などメンタル疾患で1日休業しただけでも、提出が必要です。

次のようなケースも、提出が必要なので、注意してください。

  • 会議中に心筋梗塞を発症し入院した
  • 会社外で営業活動中に熱中症で倒れた
  • 社内で自殺したとみられる
  • 会社の寄宿舎内でけがをした  など

提出書類の様式や提出期限は、次のようになっています。

休業日数

提出様式

提出期限

休業4日以上または死亡

様式第23号

事故後、遅滞なく

 

休業1~3日

 

様式第24号

1月~3月分

4月30日

4月~6月分

7月31日

7月~9月分

10月31日

10月~12月分

1月31日

休業4日以上や死亡のケースでは、遅滞なく提出しなければなりません。「遅滞なく」の定義は厳密には決まっていませんが、合理的な理由がない限り2週間以内、少なくとも1か月以内には提出すべきです。

様式第23号は、被災した労働者1人につき1枚提出します。被災労働者が複数いる場合には、人数分の枚数を提出することになります。休業が1~3日のケースでは、四半期ごとに集計して様式第24号を提出します。様式については、厚生労働省のウェブサイトで入手できます。

なお、休業日数は、災害によるけがや病気で働く事ができない期間です。所定休日であっても、働く事ができない期間であれば日数に含みます。被災当日は、休業日数に含まずに数えます。

また、通勤災害では通常、労働者死傷病報告を提出する必要はありません。ただし、社有車や会社が提供するバスなどでの通勤中の事故では、提出が必要になります。

2 労災かくし

労働者死傷病報告を意図的に提出しない場合や、虚偽の記載をして提出した場合には、「労災かくし」と判断され、最悪の場合、刑罰(50万円以下の罰金)が科されます。

「労災かくし」が行われると、労働基準監督署による災害原因の究明ができず、抜本的な対策も講じられません。このため、厚生労働省や労働基準監督署は、労災かくしには厳しく対応しています。

送検・起訴されて、裁判で罰金刑が確定すれば、「犯罪者」になってしまいます。「交通違反の反則金と同じ」と誤った認識を持っている中小・零細企業の経営者もいますが、「労災かくし=犯罪」であることを忘れてはなりません。

3 さいごに

労災かくしをする意図はなくても、労働者死傷病報告のことを知らずに提出しなかったり、うっかり提出し忘れたりというケースが多いので、気をつけてください。労働者死傷病報告を提出すべきかどうか迷うケースでは、必ず所轄の労働基準監督署に相談することをお勧めします。

※本内容は2024年6月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

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