書いてあること
- 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
- 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
- 解決策:DXという字面にひっぱられない。重要なのは、経営者の採用に対する本気の姿勢
新型コロナウイルス問題は採用市場を激変させました。空前の人手不足から一転、急激に冷え込んでいます。しかし不況期は、他社の採用活動が慎重になることで、逆にいい人材を獲得できるビッグチャンスでもあります。勇気は必要なものの、今こそ「攻めの採用活動」に転じるべきなのです。
そのカギを握るキーワードが「デジタル」です。今回、シューカツでWEB面接が一気に進んだように、IoTやAIを駆使した採用活動へシフトしていくのは明白。そもそも第4次産業革命といわれる時代を迎え、企業のDX=デジタルトランスフォーメーションへの対応が、今後の競争力を大きく左右されると指摘されていました。進みが遅かった人事の領域においても例外ではありません。これがウィズコロナ、アフターコロナの採用における明暗を分けていくでしょう。
本連載では、こんな時期だからこそ「攻めの採用活動」に転じ、「リクルーティングDX」と呼ぶべきデジタル採用を確立するためのノウハウを解説してきます。第1回目の本稿では、DX=デジタルトランスフォーメーションについて解説しつつ、本連載で取り上げる「採用におけるDX」の第一歩となる取り組みについて論じていきます。
1 デジタルアレルギーに別れを告げて
昨今、「DX」であるとか「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉を耳にする機会が増えています。むしろ語感的なインパクトも手伝ってか、デジタル関連の話にはとりあえず「DX」という言葉さえつけておけばOK!的な風潮さえ感じられます。
筆者は、そういった“猫も杓子もDX”の流れを否定しているわけではありません。その正確な定義や本質的な意義をきちんと理解することは、もちろん有意義なのですが、たとえきちんと理解できなくても、“猫も杓子もDX”の流れに乗っかってDXに取り組んでいくほうがいいと思っています。
- 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
これが、経済産業省が2018年12月にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」における定義です。こうした解説を読んだだけだと、スッとは頭に入ってきません。ただでさえ、デジタル関連の言葉を聞くだけで、小難しくてよくわからないと苦手意識を感じる人は少なくないはずです。特に経営陣をはじめ事業の意志決定に携わる上位層においては、その傾向が顕著でしょう。本連載では、DX自体はざっくりの理解でよしとして、採用にもたらすDXの効能に焦点を当てていこうと思います。
2 デジタル化三段活用
経産省の定義を待つまでもなく、トランスフォーメーションという仰々しい言葉がついていることからも、DXが単なるデジタルへの置き換えを指すのではないことは、イメージできます。そして、DXがデジタル化によって目指す最終形態だということが、下記のように類似する言葉と対比することで理解できます。
- デジタイゼーション→デジタル化のこと。今まで紙とハンコで進めてきた業務をペーパーレス化するなどアナログなものをデジタル情報として扱えるようにすること
- デジタライゼーション→デジタイゼーションでデジタルに置き換えたデータを利用し、ビジネスにイノベーションを起こすこと
- DX:デジタルトランスフォーメーション→デジタイゼーション、デジタライゼーションを前提として、企業そのものを変革していくこと
デジタル化はゴールではなく、その先にある「果実」を手にするためのプロセス。デジタイゼーションとデジタライゼーションの間にある違いは、こう理解できます。そしてデジタライゼーションとDXの違いは、「果実」を手にするための本気度の差。筆者はこう解釈しています。
3 リクルーティングDXのスコープ
そういった意味で、トランスフォーメーションという言葉には、「デジタルによって本気で変えていくぞ」という圧倒的な熱量への要求が込められていると思うのです。熱量こそが到達する高み~既成概念を根底から覆し創造されるイノベーションという果実~のレベルを決すると思うからです。結局のところ、この本気度が肝なんです。
難解なDXについて、できるだけ肩の力を抜いて向き合ってほしい。本気で挑んでほしい。そんな老婆心から前置きが長くなってしまいました。
さて、ここからが本題です。リクルーティングDXについて具体的なノウハウを論じていきましょう。
- 第一段階…新しいテクノロジーを積極的に活用することで
- 第二段階…これまでは実現しなかった採用や人材の活躍を生み出し
- 最終段階…組織生産性を向上させ企業変革に寄与する
本連載における「リクルーティングDX」は、こうした三段活用的な一連の取り組みをイメージしながら、母集団形成フェーズ、選考フェーズ、入社フェーズという3つの採用プロセスに分けて、そのノウハウを語っていきます。
4 オウンドメディアを主軸に
さて本稿では、母集団形成におけるDXの前半について解説します。まず取り組むべきは、従来型の求人マスメディアへの依存から脱却することです。またも遠回りになりますが、トリプルメディア戦略というマーケティング概念を用いて説明していきます。
採用シーンにおけるトリプルメディアとは、
- ペイドメディア:Paid Media
有料求人広告メディア(求人ポータルサイトや求人フリーペーパー) - オウンドメディア:Owned Media
WEBサイトにおける採用ホームページ、採用パンフレットなど - アーンドメディア:Earned Media
フェイスブックやインスタグラムなどSNSを中心としたクチコミメディア
といった整理になります。
日本は、リクルートに代表されるように、世界に類を見ないほど有料求人広告メディアが発達した国でした。これまで採用シーンにおいては、有料求人広告メディアのパワーが圧倒的だったのです。しかし昨今、求職者の志向の変化、あるいはSNSの普及など情報取得手段の多様化をうけ、その影響力が低下しています。Paidという名称からも、“お金はかかるものの瞬時に応募を集めるチカラ”が持ち味だったのが、相対的にパワーダウン。
しかも不況期の今は比較的応募が集めやすい。PaidからOwnedへのメディアシフトは、時代の流れから見ても、今まさにすすめるべきです。
5 今さら聞けないindeed
今、採用ホームページを主軸にしていく背景には、実はindeedというモンスター集客ツールの台頭があります。indeedは求人サイト、ハローワークをはじめ、あらゆる求人情報をAIが数千のウェブサイトを巡回することで収集し掲載。求人業界のGoogleと言ってしまえば分かりやすいかもしれません。収集する情報の中には、もちろん企業の採用ホームページも含まれています。
その強みは、検索した時に上位表示されるSEOの卓越したチカラ。そしてSEOパワーを支えるのが、AIによって収集された圧倒的な情報量。この原稿を書いている5月20日現在252万件の情報が掲載されています。国内有数の求人メディアであるタウンワークネットが45万件であることと比較すると、いかにモンスターかが分かります。
求職者の多くは仕事を探す際、まずGoogleやYahooなどの検索エンジンを開きます。検索エンジンで「アルバイト 求人 東京」「正社員 求人 新宿」などのように、自分の探したい仕事に応じたキーワードを入力し、検索ボタンをクリックします。検索してみると検索結果の上位にはindeedの求人が多く表示されます。検索画面の上位にあるサイトほどクリックされやすい傾向にあるため、求職者は意識しないうちにindeedで応募する、というわけです。日本の5~10年先を走るアメリカでは、なんと求職者の65%もの人がindeed経由で仕事を選んでいます。
6 ダイレクト・リクルーティングへの布石
indeedを駆使した採用ホームページシフトは、コストパフォーマンスが高い母集団形成を実現してくれます。しかしそれだけではありません。メディアスイッチ自体は、先述のデジタイゼーション(紙とハンコの文化をペーパーレスやデジタル認証へ切り替える)的な取り組みですが、実はその先にあるデジタライゼーションを見据えた布石なのです。
それが「ダイレクト・リクルーティング」です。indeedをはじめとする「求人検索エンジン」から“直接”自社の採用ホームページに誘導するファスト・リクルーティングも、日本においてはダイレクト・リクルーティングのひとつとされます。
しかし、ここでいうのはダイレクト・ソーシングと言われる手法です。企業側が、求めている人材を “直接”探し出してアプローチする「攻めの採用」です。ここは次回詳しく解説します。
7 過保護な人材サービス業界からの自立
従来型の求人マスメディアへの依存から脱却すること。これが母集団形成におけるDXの第一歩です。しかし、これが意外と難しいであろうこともお伝えしておきます。
先述のように、世界に類を見ないほど求人広告メディアが発達した日本には、採用担当者の多岐にわたる要望(時にむちゃぶりも)に応える求人広告営業マンが多数存在しています。大袈裟に例えると、サザエさんに登場する「三河屋のサブちゃん」のような存在がたくさんいるということです。彼は醤油やビールを届けてくれるだけではありません。もうすぐ味噌が切れそうだと察知して、頼んでもいない味噌を先回りして持ってきてくれたりします。
求人マスメディアへの依存から脱却することは、ホスピタリティ満載の求人広告営業マンと決別することと同義です。自ら採用に本気でコミットする意識の変革が、リクルーティングDXの一丁目一番地なのです。
以上(2020年6月)
(執筆 平賀充記)
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