書いてあること

  • 主な読者:採用ミスマッチが増えてきたと感じている経営者
  • 課題:なぜ採用ミスマッチが発生するのかが分からず、具体的な対策が打てない
  • 解決策:採用ミスマッチは「会社側の問題」「求職者側の問題」「会社・求職者双方の誤った思い込み」で発生するので、それぞれに対応する

1 深刻化する採用ミスマッチ

採用ミスマッチとは、

採用時に会社と求職者との間で起こる、働き方やスキルなどに関する認識のズレ

であり、経営者にとっては常識の、古くて新しい問題です。ミスマッチがあると次のような問題が生じます。

  • 期待通りの働きをしてくれない
  • 自社のやり方になじまず、不満ばかり述べている
  • 既存のメンバーとトラブルになることが多い
  • 入社数カ月後に他の会社に転職してしまった

また、採用コストが無駄になるだけではなく、フォローに回る社員は疲弊し、社内の雰囲気も悪くなります。

かつては採用ミスマッチがあっても、求職者のほうが入社後に「何とか新しい会社に適応しよう」と努力する風潮がありました。しかし、ここ10年ほどの傾向を見ると、中途採用・新卒採用を問わず、

会社に無理やり合わせなくても、いざとなれば転職すればいい

と考える人が増え、問題が深刻化しているようです。この記事では、やっかいな採用ミスマッチを防止するため、その原因と対策について簡単に紹介します。

2 会社要因(会社側の問題)による採用ミスマッチ

1)就業環境が劣悪である

求職者がミスマッチを感じる原因として一番多いのは、業務や人間関係などを含む就業環境に関する問題です。具体的には、「業務が多忙・過酷すぎる、または暇すぎる」「職場が殺伐としている、パワハラ気質がある」「職場内のコミュニケーションが希薄すぎる、またはウエットすぎる」「管理職個人と相性が悪い」などが挙げられます。

2)受け入れ準備が不足している

求職者は、入社に必要なスキルは兼ね備えていても、新しい会社の業務ルール、利用するツール、承認フローなどは知りません。また、社内の関係もゼロから構築していく必要があり、入社時に負担になります。よって、順調に仕事を進めていくために必要なルールを教える場(研修など)や社内の他メンバーとコミュニケーションを取る機会などがない場合、ミスマッチの原因になります。

3)採用担当者のマインドセットに問題がある

採用活動の本来の目的は、「自社にとって魅力的な求職者」に自社を選んでもらうこと、会社と求職者の相性を確認することです。しかし、採用担当者の「入社してもらいたい」「採用してやる」という意識が強すぎると、求職者のニーズや会社との相性の確認がおろそかになる恐れがあります。

3 個人要因(求職者側の問題)による採用ミスマッチ

1)求職者のマインドセットに問題がある

「過去へのこだわりが強い」「プライドが高い」など、求職者のマインドセットに問題があると、入社後に会社と価値観が合わなくなる恐れがあります。

2)性格傾向が合わない

変化への適応力やストレス耐性が低かったり、問題行動を起こしやすい傾向があったりすると、入社後、業務を十分にこなせなかったり、既存メンバーと衝突したりする恐れがあります。

3)入社前の準備が不足している

自分の仕事と生活スタイルが大きく変化することへの覚悟や、入社後に実現したいことについての自己分析などが足りない求職者は、入社早々に、「この会社は自分に合わない」と判断してしまう恐れがあります。

4)スキルなどが不足している

求職者が「自分は新しい職場で活躍できる」と思っていても、実際はスキルなど(技能、知識、資格、経験など)が会社の求める水準に達していないケースがあります。しかも、こうした求職者は自己評価が高く自信ありげに見えるため、会社もスキルなどの不足に気付かず採用してしまう恐れがあります。

4 思い込み要因(会社・求職者双方の誤った思い込み)による採用ミスマッチ

1)会社側の誤った思い込み

1.会社の「当たり前」は、求職者にとっても「当たり前」に違いない

会社は、企業理念など自社にとっては当たり前の価値観を、「求職者も当然理解してくれるだろう」と思い込んでいることがあります。求職者がその価値観に合っていない場合、入社後、会社になじめなくなる恐れがあります。

2.会社が伝える入社後の業務やキャリアパスなどについての情報は、絶対に正しい

会社は、求職者に業務やキャリアパスなどについての情報を提供しますが、現場への聞き込みや自社の状況分析が足りない場合、情報の不足や誤った情報を提供してしまう恐れがあります。

3.会社は、募集業務に必要なスキルなどを正しく認識している

現場への聞き込みや自社の状況分析が不足しているために、会社が募集業務に必要なスキルなどを過小評価、もしくは過大評価している場合があります。その場合、採用時に求職者のスキルなどを正しく判断できない恐れがあります。

2)求職者側の誤った思い込み

1.自分は、入社後の業務内容や業務の仕方を正しくイメージできている

入社後の業務内容や業務の仕方について、会社から与えられる情報は限定的です。本来は、面接時などに求職者が会社に質問して情報を補完するのですが、あまり質問をせず、分からない部分の情報を分からないまま放っておく求職者もいます。また、想像で補える求職者の場合、精度が高ければ問題ありませんが、実際は、企業側が考える以上に「現実とは全く異なる環境をイメージしている」ケースが少なくありません。

2.会社ウェブサイトなどを見れば、会社の雰囲気が分かる

会社ウェブサイトなどに業務風景や社員インタビューが掲載されている場合、そこから会社の雰囲気をある程度読み取れます。しかし、会社も自社を良く見せようと演出するので、そこで会社と求職者の認識のズレが生じる恐れがあります。

5 3ステップの採用ミスマッチ対策

採用ミスマッチを減らすためには、会社要因、個人要因、思い込み要因をそれぞれなくしていく必要があります。ここでは、個人要因と思い込み要因に注目します。会社要因については、社内アンケートや管理職へのヒアリングなどを通して、就業環境や受け入れ体制の問題点を洗い出し、取り組めるものから改善に着手するというのが基本的なアプローチになりますが、詳細は割愛します。

個人要因と思い込み要因をなくすためのポイントは次の通りです。

  • 求職者による個人要因をなくすには、履歴書・職務経歴書で想定し、面接で確認する
  • 会社・求職者それぞれの思い込み要因をなくすには、応募の段階での思い込みを可能な限り発生させないために、職務記述書(ジョブディスクリプション)に必要な情報を確実に記載した上で、面接で確認する

これらのポイントを踏まえるための具体的なアクションを、3ステップにまとめました。

1)ステップ1:職務記述書の作成

職務記述書とは、職務内容(担当する業務内容やその範囲、難易度、必要なスキルなど)がまとめられた書類です。求職者の思い込み要因を最小化するためには、この職務記述書を作り込む必要があります。

2)ステップ2:履歴書・職務経歴書・エントリーシートの確認

ステップ1の段階で、会社が求めるスキルなどを細かく列挙しておけば、自社が求める人材像について社内での認識を合わせられます。その上で、履歴書や職務経歴書、新卒採用の場合にはエントリーシートなどから、職務記述書と一致するスキルなどを持っているか確認しましょう。

また、短期間での転職を繰り返しているなど、気になる経歴がないかを可能な範囲で探ります。履歴書などの内容を見て、採用担当者自身が「自分であればこのキャリアチェンジをするだろうか」と自問してみましょう。

3)ステップ3:面接の実施

面接時は、職務記述書に沿って求職者への質問を行い、履歴書などに書かれた内容について会社が誤った思い込みをしていないか、入社後の業務の難易度、ハードさなどについて認識にズレがないかなどを確認していきます。

求職者のマインドセット、性格傾向といった履歴書などに表れない部分については、これまでの求職者の経験や、そのエピソードの際に何を考えて行動していたかなどを質問して見極めましょう。人材紹介会社などに事前に話を聞いた上で面接に臨むのも有効です。

なお、1回の面接で確認できることは限られるので、可能であれば面接の機会は複数回設け、それぞれの面接で何を確認するかを絞り込んだ上で、懸念事項を1つずつ潰していくことをお勧めします。

以上(2022年1月)
(執筆 エリクシア代表取締役 医師 産業医 経営学修士(MBA) 上村紀夫)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

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