大切なクライアントとの接待を前に、課長がおにぎりを食べています。“食事の前の食事”が理解できない中堅社員のAさんは、「課長、これから接待ですよ。今食事をしたら料理がおいしく食べられません」と、話しかけました。
すると課長は笑いながら答えました。
「これから接待だから食べてるんだよ。私はおなかがすき過ぎていると、がっついてしまう癖があってね。もてなす側の姿勢として好ましくないでしょ。だから、軽く食べているんだよ」
納得したAさんは「へ~、いつもそうなんですか?」と、さらに話しかけました。
そこで課長は言いました。
「そんなことはないよ。接待によっては、“ガツガツ”食べたほうが喜ばれるときもあるからね。Aさんも経験を積んだら、TPOに合わせた立ち居振る舞いが分かってくるはずだよ」
接待にもあるTPO
接待は、相手との関係強化、情報交換、セールスなどの目的で行われます。食事やゴルフなど、オフィス以外の場所で行われるのが通常なので、ふとした瞬間に、好ましくない“素の自分”が出てしまうことがあります。
例えば、食べ方が汚い、話題が下品、ゴルフなどのゲームの進め方が自分勝手などです。もてなす側がこうした振る舞いをすると相手は不快になり、せっかくの場が台無しになってしまいます。
また、食事を伴う接待では、料理をおいしく食べるのが基本ですが、食べ方はその場の雰囲気で変わります。冒頭の課長は、このことに配慮していたわけです。
接待のTPOは次のようにさまざまです。
- 日 時:平日か休日か? 昼か夜か?
- 場 所:行ったことがある場所か、ない場所か?
- 相 手:関係が深いか、浅いか?
- 雰囲気:打ち解けた感じか、真面目な感じか?
- 立 場:もてなす側か、もてなされる側か?
「平日の夜に、なじみのカジュアルイタリアンで、長年のクライアントをもてなす場合」と、「休日の昼に、新規クライアントの社長宅に招かれて、ホームパーティーでもてなされる場合」とでは、こちらの立ち居振る舞いや服装、事前準備が全く違うでしょう。これらを意識しておくことは、とても大切です。
自分のペースを保つための3つの事前準備
接待のTPOに合わせるための秘訣は、落ち着いて自分のペースを保てるように、事前準備を徹底することです。そのためのポイントを、会食を例に確認してみましょう。
1)食べ物の好き嫌いを確認する
相手が楽しめるよう、事前に相手の嗜好を確認しておきましょう。相手の好きな食べ物と苦手な食べ物、帰宅の際に利用する路線などを確認するのは基本です。
また、年末など接待が集中する時期は、こちらが接待する日の前後で、相手がどういったジャンルの食事をするのかについても把握します。これによって、相手が3日連続で焼き肉を食べるといった事態を防げます。
2)お店を把握する
一度も行ったことのないお店で接待をするのは避けたほうが無難です。何らかの理由で新規のお店を利用する場合は、下見をしておくべきでしょう。
その際、お店周辺の地理や店内のレイアウト、トイレの場所、お薦めの料理などを確認しておきましょう。また、店長と名刺交換をして、「接待の当日はよろしくお願いします」と一言伝えることも大切です。
3)時間を管理する
特に昼の接待では、接待後の相手のスケジュールを確認しておきましょう。こちらの好意でコース料理を予約しても、あまり時間がなければ、料理を楽しむことができません。
また、配膳のスピードが遅い場合などは、さりげなくお店に伝えて、スピードを速くしてもらいます。
大切なのはもてなす心
本当に大切なのは、相手をもてなす心です。礼儀作法を重んじるあまり、ロボットのような対応になっては面白みがありません。相手との共通の話題を見つけ、笑顔で会話を楽しみましょう。
「TPO×自分」=新しい可能性
接待に限らず、中堅社員はいろいろな場を経験し、自分なりのビジネススタイルを確立していきます。最初は、基本に忠実にしていれば、大きな失点をすることはありません。
慣れてきたら、「TPO×自分」でアレンジしてみましょう。課長のように、“食事の前の食事”をすることは、型にはまった行為ではありません。しかし、課長は自分自身をよく知っていたため、事前に軽食を済ませ、相手との会話に集中できるようにしたわけです。
皆さんの得意分野を活かすにはどうしたらよいか、逆に不得意分野を改善するにはどうしたらよいかを考え、その結果とTPOを掛け合わせることで、皆さんの魅力が磨かれ、相手とのコミュニケーションも深まっていくことでしょう。
Point
- 中堅社員は、「TPO×自分」を意識して、自分なりのビジネススタイルを確立しよう。
- それが中堅社員の魅力になる!
以上(2019年8月)
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画像:Eriko Nonaka