書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 新人Gさんが「こんな仕事をしたかったわけじゃない」、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてお送りしています。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、その際にどんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

前回第7回では、もはや珍しくなくなった「年下上司」と「年上部下」との間のコミュニケーションのあり方について、上司、部下、それぞれの立場から考えてみました。いかがだったでしょうか。

今回は課題[事例7]です。以下に再掲しますので、前回みなさんが考えてみた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても力はつきませんよ。

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Q.新入社員のGさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例7]

〇あなたの部署に配属された新入社員のGさんが、退職を考えているようだという噂を耳にしました。

〇上司であるあなたは気になって、Gさんと1 on 1ミーティング(1対1の面談の機会)を持つことにしました。Gさんは開口一番「この仕事は自分に向いていなのになぜ任されたのか分からない。自分はこんな仕事をしたかったわけじゃない」と訴えました。

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テーマは「仕事への期待」です。これまでの事例と同様に起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。

2 「こんな仕事をしたかったわけじゃない」の言葉の真意とは?

その昔、私が管理職になりたての頃に、もし部下から「こんな仕事をしたかったわけじゃない」と言われたら、感情に任せ、反射的にこう答えていたかもしれません。「じゃあ、やらなくていい。そんなやつに仕事は任せられない!」

あるいはとりあえず部下の退職を思いとどまらせようと、こう言ったかもしれません。「仕事なんてそんなもんだぞ。3年は我慢してみろ。すぐに慣れるし、そのうちにこの仕事のいいところも見つかるから」

今となってはどちらの言葉でも、明るい未来は想像できそうにありません。部下にとっても、上司や会社にとってもです。イライラして「四の五の言わずにやれ!」と命令したところで、面従腹背しながらパワハラと受け取られるのがオチでしょう。

3パターンいずれの場合も、Gさんは「この上司は何も分かってくれない」とさぞやがっかりして退職を考えることでしょう。人手不足の時代に苦労して採用した人材を失うことは、会社にとっても部署にとっても大きな損失です。

「(我慢して)やっていればそれが天職」といった格言もありますが、天職にならないこともありますし、もっと良い天職が他にあるかもしれません。自身の可能性を試そうとするのはむしろ前向きな行動といえるでしょう。

とりわけ今の若い世代にとって、3年間は我慢するには長い時間です。一度入社すれば終身雇用が当たり前だったひと昔前と違い、社外には多くの選択肢がありますし、多様な成功のロールモデルもネット上にあふれています。

昭和の時代には、20代、30代はひたすら宮仕えをして我慢し、それからようやく芽が出ればいいくらいの時間感覚だったと思います。それでも幸せな未来が描けたのです。しかし、今は変化の激しい時代です。しかも20代どころか10代から、世界で成功するビジネスパーソン、インフルエンサー、アーティストやスポーツ選手がたくさん生まれています。

社会に出たばかりとはいえ、「やりたい仕事に出合えない」「そもそも自分がどんな仕事をやりたいのか、どんな仕事に向いているのかさえ分からない」となれば、彼らの焦る気持ちは想像できます。

3 Gさんが「やりたかった仕事」とは?

皆さんはいかがでしょう。部下に「こんな仕事をしたかったわけじゃない」と言われて、感情的、反射的に反応することなく冷静に対処できますか。では、最初に取るべき行動とは何でしょうか。

このシリーズを何度もお読みいただいている方は、もうお分かりですね。

Gさんが口にした言葉の意味や背景を知るために「傾聴」することです。

上司であるあなたは、Gさんが「どんな仕事をしたくて」この会社を選んだのかご存じでしょうか。

知っているなら「Gさんは、〇〇な仕事をしたいと当社を選んだと人事から聞いているけれど、合っているかな? その気持ちは今も変わっていませんか?」と再確認してみましょう。知らなかったのであればこの機会に確かめておく必要があります。

大事にしてほしいのは、Gさんは決して仕事をしたくないわけではないという点です。

「自分はこんな仕事をしたかったわけじゃない」は、裏を返せば「〇〇な仕事なら思いっきりしたい」と言っているのです。Gさんはどんな仕事をやりたいのか、予断を挟まずにじっくりと「傾聴」しましょう。

少し極端な例ですが、Gさんの「やりたい仕事」が最初は“警察官”だったと本人から聞いたとしましょう。

あなたの職場が警察でない限り、“警察官”の仕事をすることは無理な相談で、それはGさんも百も承知です。分かった上で今の会社を選んでいるのです。それについて「こんな仕事をしたかったわけじゃない」と言っているのではありません。

だとすれば「傾聴」をしながら、どんな質問をすればいいでしょうか。

あまたある会社の中から、他の検討候補と今の会社をどんな理由で絞り込み、最終的になぜ今の会社を選んだのかを確認することです。

それによりGさんの「やりたい仕事」の条件がより鮮明になってくるでしょう。

例えば、「世の中のためになる仕事」という共通点にひかれたとしましょう。Gさんが“警察官”も受けて受かったのかどうかは別として、最終的に今の会社を納得して選んで入社した可能性は高いわけです。では選んだ際に、入社後に“警察官”に負けないくらいのどんな「世の中のためになる仕事」ができるとイメージしたのか気になるところです。

治安を守る「世の中のためになる仕事」として、“警察官”に勝るものはないでしょう。けれど本人は、民間企業でも社会の発展に貢献するという意味で「世の中のためになる仕事」ができるとこの会社を選んだのかもしれません。

今の会社が目指している姿が、社会の発展に貢献するという意味で「世の中のためになる仕事」で間違いないのであれば、改めてそのことを本人と共有しましょう。

Gさんの会社選びは間違っておらず、正しかったことを確認するのです。

ここまでは自社の目指している目的や、社会や顧客に提供している価値を、上司の側が正しく認識できていれば難しいプロセスではありません。

4 部下に任せる仕事の意味や意義を伝えるのは、上司の仕事

そして、最後にやるべきは、あなたの部署やあなたが現在Gさんに任せている仕事が、Gさんの「やりたい仕事」なのかどうかを確認することです。

あなたの会社が目指している目的や、社会や顧客に提供している価値はGさんが入社前から描いていたものと一致していたとしましょう。となればGさんが感じているのは、現在任されている仕事とのギャップです。今の仕事が「世の中のためになる仕事」であると感じられていないのです。

本人の能力次第であって、新人だからと決めつける必要はありませんが、とはいえGさんに任せられる仕事は限られるでしょう。それは致し方ないことです。Gさんには今任せている仕事も、部署や会社を通じて「世の中のためになる仕事」につながっていることを示してあげましょう。

同時に、今任せている仕事ができるようになれば、次に任せたい仕事、その先に任せたい仕事も具体的に示して、この部署や会社にはもっと「世の中のためになる仕事」があることをイメージさせてあげてください。

それらを理解して上で、今任せている仕事ができるようになったと判断しうる基準も示せれば、Gさんはがぜんやる気になるかもしれません。より強く「世の中のためになる仕事」をしていると実感できるようになりたいと努力するはずです。苦労して採用した人材は、こうしてどんどん成長していくことでしょう。

Gさんが「やりたい仕事」を、仮に「世の中のためになる仕事」としてお話ししてみましたが、「やりたい仕事」はGさんに「傾聴」してみないと分かりません。片や会社が目指している目的もさまざまです。

上司としては、Gさんがこの会社の目指している目的を理解して選んだ以上、「やりたい仕事」であるはずだと信じてGさんの理想との一致点を一緒に探してあげてください。最初から理想と完全に一致することはありませんが、少しでも見つかれば状況は変わると思います。

すでにお気づきかもしれませんが、

ここまでのステップは本来、Gさんの配属当初にすませておくのが理想です。会社として目指している目的に対して、配属された部署はどんな役割を担っているのか。その中でGさんに任せる仕事はどのような意味や意義を持っているのか。

部下にあらかじめ任せる仕事の意味や意義を伝えるのは、上司の仕事です。

それがないと部下は担当業務にやりがいを感じず、給料をもらっているからしょうがないくらいの働きしかしてくれないでしょう。生産性は上がらず、本人も成長できず、近い将来AIやロボットに代替されてしまうかもしれません。

上司から部下への働きかけ次第で、せっかく採用した人材が、人にしかできない価値を見出せたはずなのに…。とてももったいない話です。

5 会社選びが間違っていない限り、「任せている仕事との接点」は必ず見つかる

新人Gさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。

「Gさんは今の仕事がやりたい仕事だと思えないのですね、分かりました。まずはGさんがやりたい仕事を教えて(確認させて)もらえますか? 同時にGさんがこの会社を最終的に選んだ理由も教えて(確認させて)ください。その上で、Gさんがやりたい仕事と、今任せている仕事との接点があるのかないのか、一緒に確かめてみましょう!」

Gさんの会社選びが間違っていない限り、私は「任せている仕事との接点」は必ず見つかると信じています。

この会社が目指している目的と本人の「やりたい仕事」の方向性が一致している以上、影響力の大小こそあれ、どの部署のどの仕事も本人の「やりたい仕事」であるはずだからです。この会社が目指している目的の達成に向けて、ムダな部署もムダな仕事もないはずですから。

ポイントを整理しましょう。

【今回の3つのポイント】

  1. 部下が「どんな仕事をしたくて」最終的にこの会社を選んだのかを「傾聴」する
  2. 本人は決して仕事をしたくないわけではないことを心に留めておく
  3. 部下が「やりたい仕事」と今任せている仕事との接点を見つけ、その先の任せたい仕事を示す

2では、これまでのGさんの取り組み姿勢や成果などで評価できる点があれば、『新たな3つのコミュニケーション習慣』の「褒める」で承認してあげてください。

本人は葛藤しながらも頑張ってきたのかもしれません。

3では、同じく「前向き発想」で「期待」を込めましょう。

「今の仕事ができるようになれば、Gさんにはこんな仕事もこんな仕事も任せたいと思っています。Gさんのやりたい仕事により近づけるんじゃないですか。期待していますよ!」と。

最後に、逆に皆さんが新人Gさんのような立場だとして、できることを考えてみましょう。

まずは、自分が最終的にこの会社を選んだ経緯を思い出しましょう。思っていたのと違ったと他社を探すのはいつでもできます。でも今の会社は、あなたがそれなりの時間をかけて多くの候補の中から比較して絞り込み、一旦は納得して選んだのだという事実を忘れてはいけません。

今さらそれと同じかそれ以上の時間と検討を重ねられますか。それによって、より良い会社が見つかる可能性は高いでしょうか。せっかく時間をかけて最終的に選んだ会社です。3年とはいいませんが、もう少し今の会社で頑張ってみながら、会社を知り、世の中も知った上で改めて考えたほうが次の成功確率は上がりそうです。

職種へのこだわりがある場合、職種別採用でなければ最初から「やりたい仕事」につけるとは限りません。それは承知の上で入社したはずです。かつての私も、選んだ会社でやりたい職種がありながら、配属は全く異なる職種でした。

職種別採用をしている会社を受け直したところで、自分にその職種を担う知識も経験も能力もなければ採用されないでしょう。資格を得たくらいでは多くの場合あまり有利になりません。中途採用の場合は経験や実績がものをいいます。

では、配属がやりたい職種でなかった私はどうしたでしょうか。私は、配属された仕事で成果を出しつつ仕事の幅を広げながら、やりたい職種を周囲にアピールし続けました。するとやりたい職種の部署の人と仕事上の接点ができて、現在の仕事での取組みや成果を評価され、その部署から誘ってもらって異動することができたのです。

一例ではありますが、任された仕事が就活のプロセスで見出した自分の「やりたい仕事」であるならば、やりたい職種ではなかったとしても、しばらくは任された仕事で結果を出すことに集中してみるのもいいかもしれません。周囲はその姿を見てくれています。

6 部下のHさんがプライベートの悩みを抱えているようです、どう声をかけますか?

次回に向けた課題[事例8]を紹介します。

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Q.部下のHさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例8]

〇あなたの部下のHさんの職場での表情がさえないのが気になっています。昼休みになるとため息をつきながら、肩を揉むような姿を何度も見かけます。

〇ある日、Hさんが「ちょっといいですか?」とあなたに声をかけ「大変申し訳ないのですが、プライベートのことでしばらく金曜日だけ1時間早く退勤させていただくことは可能でしょうか。その分、朝1時間早く出社するようにしますので……」と相談がありました。

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テーマは「部下のプライベートの問題」です。これまで同様、起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。シリーズも後半に入っています。日常で事例と近いシーンがあれば、ぜひ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の実践にトライしてみてください。

次回もお楽しみに。

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

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以上(2025年2月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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