書いてあること
- 主な読者:一緒に新規事業を担う社員を育てたい経営者
- 課題:多くの社員は変化を拒む。新規事業を考える「脳みそ」を持っていない
- 解決策:経営者自身が「よそ者・ばか者・若者」+αの視点で人選する
1 アンゾフのマトリクスを参考とした展開
多くの企業は単一の事業で収益を上げています。限られたリソースを一点に集中し、改善を繰り返している経験は強みとなります。しかし、その事業が苦戦すると他にカバーする事業がないため、一気に業績が悪化します。
ですから、社長は常に新しい事業展開を検討し、試していかなければなりません。まずは「アンゾフのマトリクス」で事業展開の類型を確認しましょう。このマトリクスでは、市場浸透(既存市場×既存製品)、新製品開発(既存市場×新製品)、新市場開拓(新市場×既存製品)、多角化(新市場×新製品)の4つの象限で考えます。
既存市場と既存製品の組み合わせは、いわゆる「金のなる木」(成長性は低いが、安定した収益を上げる事業)です。ここを確保している企業は0(ゼロ)から起業する場合と違い、安定した基盤の上に新規事業を立ち上げられるメリットがあります。ただし、既存事業を守ろうとするあまり、新規事業を攻めきれないという問題もあります。
一方、既存事業を縮小・廃止しつつ、新市場で新製品・サービスを展開する「多角化や事業転換」といった戦略もあります。新規事業に向けたより抜本的な取り組みです。
多角化や事業転換に成功すれば収益拡大の余地は広がりますが、未知の分野への進出となります。そのため、新製品開発や新市場開拓を経由して多角化に進み、事業化のめどが立ったら事業転換戦略に進むのが定石です。
2 人選は「よそ者・ばか者・若者」+α
いずれにしても、新規事業を推進すると、変化を嫌う社員はストレスと恐怖を覚えます。こうした社員も巻き込みながら新規事業を推進していくためのポイントは、「新規事業の担当者にこれまでとは違うタイプの社員を配置する」ことです。
具体的には「よそ者・ばか者・若者」です。さらに、それぞれの社員に+αの力が備わっていると理想的です。
- よそ者×配慮:自社の常識に縛られないが、周囲の人に配慮できる
- ばか者×知識:信じた道を突き進むが、直感だけではなく経験や知識の裏付けがある
- 若者×したたかさ:あり余るエネルギーがあり、それを集中すべきところを感じ取る
よく「創業者と2代目とでは、求められる資質が違う」といわれますが、これは新規事業の場合でも同じです。市場浸透・新製品開発・新市場開拓をうまく進められるのは、その事業をよく知っている社員です。
一方、多角化・事業転換では、既存事業を否定することもあるため、従来とは異なる目線を持った社員でなければ、うまく進めることは難しいかもしれません。そのため、「よそ者・ばか者・若者」が必要です。
3 外部との出会いを後押しし、予算配分は機動的に
新規事業を成功させるために重要なのは外部のパートナーであり、その出会いを増やさなければなりません。事業展開の担当者がセミナーや会合などに自由に参加できるようにします(有料であってもその予算は確保する)。
また、予算はあらかじめ枠を設定しておくものの、それありきで運用しないようにします。状況の変化によって予算が余ったり、不足したりすることは頻繁です。必要な予算か否かは社長も参加して厳しく選別するものの、機動的な動きも必要です。
4 事業展開が進むか否かは経営者次第
既存事業を損なわないように、事業展開をしていくことは簡単ではありません。事業展開には社長も絡みますが、既存事業の兼ね合いで100%注力するのは難しいため、起業家マインドを備えた社員が必要です。
事業展開を担当する社員は、少なくとも社内では優秀です。事業展開を担当することになれば、既存事業で手薄なところも出てきますが、そこをカバーする組織づくりも並行して進めていく必要があります。こうして何らかの事業展開を進め、それが成功しても失敗しても、その結果を示すことで、一部の社員に「与えられた仕事をするだけではない」という感覚が芽生えていくでしょう。
社長は、事業環境の変化がますます急速になっていることを実感しているはずです。そうした中で生き残るためには、自由な発想で事業展開を考える社員が必要です。そして、そのような社員を育てられるか否かは、経営者のマネジメントにかかっています。
以上(2024年1月更新)
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画像:Vera NewSib-shutterstock