1 最低賃金の改定で会社の賃金負担はどれだけ重くなる?

最低賃金とは、最低賃金法によって会社に支払いが義務付けられている「賃金の最低額」のことで、具体的には

  • 都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」
  • 特定の産業について定められる「特定最低賃金」

の2種類を指します。

政府は、国民の生活を保障しつつ経済を回していくために、継続的に最低賃金を引き上げています。直近では、2025年度の地域別最低賃金の改定額(多くの都道府県は10月改定)が、

全国加重平均額で1121円(過去最高の額)となり、全都道府県が初めて1000円を超える

こととなりました。

会社と社員が合意していても最低賃金を下回ることはできず、違反の罰則もあるため、会社は最低賃金を必ず守らなければなりません。一方で、一度賃上げをすると簡単には賃金を引き下げられないので、人件費の負担などにも注意しながら金額の上げ幅を決める必要があります。

この記事では、最低賃金に注意しつつ賃上げを実施する際のポイントを3つ紹介します。

  • 最低賃金のルール(適用対象者や改定時期)を押さえる
  • 今、最低賃金がいくらなのかを押さえる
  • 賃金や社会保険料への影響をシミュレートする

2 最低賃金のルール(適用対象者や改定時期)を押さえる

最低賃金は、「地域別最低賃金」「特定最低賃金」の2種類に分けられます。どちらも厚生労働省の最低賃金審議会が定めますが、適用対象者や改定時期のルールが次のように異なります。

2種類の最低賃金

地域別最低賃金は、原則としてパート等を含む全社員に適用され、毎年10月に改定されます(2025年度は、一部11~3月の発効となる都道府県があります)。一方、特定最低賃金は、特定の産業に特有のまたは主要な業務に従事する社員にしか適用されず、関係労使からの申し出などがなければ、改定されることもありません。ちなみに、

地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が同時に適用される社員については、いずれか高いほうの最低賃金が適用

されます。

最低賃金を下回る条件で賃金を設定していた場合、会社と社員が合意していても無効となり、最低賃金以上の額を支払う義務が発生します。なお、違反については、図表1の通り最低賃金法または労働基準法による罰則がありますが、それとは別に

労働基準監督署の臨検などによって最低賃金を守っていないことが発覚した場合、厚生労働省ウェブサイトで会社名などが公表されることがある

ので注意が必要です。

3 今、最低賃金がいくらなのかを押さえる

1)地域別最低賃金

2025年度の地域別最低賃金は、前述した通り全国加重平均で1121円、全ての都道府県が1000円超えとなっています。

2025年度の地域別最低賃金

また、図表2の順位をベースに地域別最低賃金の推移(沖縄県、全国加重平均、東京都)を見ると、前年度からの引き上げ幅は、2022年度が30円程度、2023年度が40円程度、2024年度が50円程度、2025年度が60~70円程度と、年々大きくなっています。

地域別最低賃金の推移(沖縄県、全国加重平均、東京都)

2)特定最低賃金

特定最低賃金は、地域別最低賃金が実態にそぐわない場合に定められるものなので、通常は地域別最低賃金より高く設定されます。ただし、東京都や神奈川県など、地域別最低賃金が特定最低賃金より高い地域も一部あります(その場合、社員には地域別最低賃金を適用)。

また、特定最低賃金の新設や改定の申し出は、地域ごとに行われるため、同じ産業であっても都道府県によって最低賃金が異なることがあります。

内容が多岐にわたるためこの記事では割愛しますが、特定最低賃金の一覧は、下記から確認できます。

■厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43846.html

4 賃金や社会保険料への影響をシミュレートする

最低賃金が改定され、万が一自社の賃金が改定後の金額を下回っている場合、これを上回るように賃上げを実施しなければなりません。その場合、賃金や社会保険料の負担はどの程度増えるのでしょうか。具体的な条件を設定して、シミュレートしてみましょう。

仮に、東京都のある会社が、2025年10月からの地域別最低賃金の改定(1163円→1226円)を受けて、賃上げを実施するとします。条件は次の通りです。

  • 時給:1200円→1300円に引き上げ
  • 1日の所定労働時間:8時間
  • 1カ月の所定労働日数:20日(週5日×4週)
  • 社員数:30人(全員40歳未満、介護保険の適用なし)
  • 健康保険の保険者:全国健康保険協会(協会けんぽ)、東京支部

この場合、会社の人件費負担は次のように変動します(雇用保険料などは考慮していません)。

30人の時給を引き上げた場合の会社の人件費負担

人件費負担は、社員1人当たりで年間20万8920円、会社全体(30人)で年間626万7600円増えることになります。なお、図表4は通常の賃金だけを基に計算していますが、会社が基本給などをベースに賞与や退職金を計算している場合、それらの人件費負担も増える可能性があります。

以上(2025年10月更新)

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画像:日本情報マート

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