令和5年4月から、月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率は、中小企業にも50%以上が適用されることとなります。
本稿では各企業の対応状況や、対応方法などについて、厚生労働省のリーフレットなどをもとに概説します。
1 対応状況
1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率について、厚生労働省が実施した「令和3年就労条件総合調査」では、以下の概況結果が公表されています。
○ 1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率の定めの有無、割増賃金率階級別企業割合
(出所:「令和3年就労条件総合調査」、厚生労働省)
このように、1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めている企業割合は、「中小企業」が28.3%、そのうち割増賃金率が25~49%となっている階級は58.8%であることから、中小企業における対応が進んでいないことが見て取れます。
2 法定割増賃金率の考え方
本改正により1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計し、60時間を超えた時点から、50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになります。そのほか、深夜の労働や休日の法定労働との関係は以下のとおりとなります。
①深夜割増賃金との関係
深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
②法定休日との関係
1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日に行った時間外労働は含まれます。
3 代替休暇
1か月60時間を超える時間外労働については、臨時的な特別の事情等によってやむを得ない場合には、休息機会確保の観点から、労使協定により割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することも可能とされています。
<イメージ図>
(出所:「法定割増賃金率の引き上げについて」、厚生労働省)
また、代替休暇の付与は、取得を「可能」とするものであって、取得を「義務」づけるものではありません。代替休暇の付与に関する制度を設けた場合は、取得するか否かの決定は労働者の意思に委ねることに留意しましょう。
4 さいごに
改正民法により、請求権消滅時効期間が3年に延長されました。これに今回引き上げられる割増賃金率の適用が重なれば、残業未払いの係争時に支払いを求められる割増賃金は想定以上に高額となるかもしれません。例えば、時間外労働の適用が除外される管理監督者に対し、残業代を含む管理職手当など支払っている場合、管理監督者性や手当の残業代該当性が否定されれば、一般従業員と同様の考え方で計算した割増賃金を追加で支払う必要が生じることになります。2年以上遡る請求期間に重ね、ひと月に60時間を超える時間外労働が常態化していれば、企業への大きな労務リスクになるでしょう。今回の法改正を契機として、自社の規程や管理監督者を含む働き方の見直しを図りましょう。
※本内容は2022年3月30日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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