書いてあること
- 主な読者:社員に読書の習慣を身に付けてほしい経営者
- 課題:オンラインでの情報収集がメインになり、社員が読書に意義を見いだせない
- 解決策:「考える力」を育てるには、読書が必要不可欠であることを伝える。読書の習慣がない社員のために、定期的に読書会を実施する
文化庁「平成30年度『国語に関する世論調査』」によると、全国16歳以上の男女の47.3%が、1カ月に1冊も本を読まないとされています。経営者の中にも、「ウチの社員は全然本を読まない」と歯がゆく思っている人がいるでしょう。
一方、オンラインでの情報収集に慣れている社員は、「本当に読書なんて必要なの?」と疑問に思っているかもしれません。インターネットで検索したり、動画で配信されるオンライン講義を視聴したりすれば、本を読むよりも簡単に情報が手に入るからです。オンライン時代に読書はいらないのでしょうか? このことについて、本稿で考えていきたいと思います。
1 読書は「考える力」を育てるためのもの
読書とオンラインでの情報収集の違いのイメージは次の通りです。注目したいのは「学習に対する姿勢」です。
例えば、インターネット検索の場合、誰にでも分かりやすい平易な文章で書かれたコンテンツが検索上位に来る傾向にあります。また、オンライン講義の場合、文字だけでなく、映像や音声も交えて講義が行われるため、理解がしやすくなっています。
しかし、その分、学習に対する姿勢は受動的になりがちです。つまり、知りたいことについての答えが簡単に与えられるため、「考える力」が育ちにくくなります。
一方、読書の場合、1回読めば理解できる簡単なものもありますが、オンラインのコンテンツに比べて文章が難解だったり、著者自身の思想が多分に含まれていたりして、理解するのに時間がかかることが少なくありません。
しかし、その分、「この言葉はどういう意味だろう」「著者はどういう経緯でこの思想に至ったのだろう」など疑問を持つ機会が増えるため、学習に対する姿勢は能動的になります。つまり、知りたいことについての答えを自分なりに探そうとするようになるため、「考える力」が育ちます。
2 社員に読書を習慣付ける読書会とは?
本来、読書は自主的に行うものですが、読書の習慣がない社員は、なかなか自ら本に当たろうとしません。そこで、社員が積極的に本を読むようになる仕組みをつくることが重要になります。
そのための1つの方法が「読書会」です。これは、あらかじめ課題図書として設定された本などについて、社員が各自の意見を発表したり討論したりする会です。事前に本を読んでこなければ、意見発表も討論もできないため、読書会を定期的に実施することで、普段本を読まない社員にも、読書の習慣が付くことが期待できます。
読書会の進め方は、おおむね次の通りです。
- 各自で課題図書を読む
- 本の要点や意見をA4用紙1枚程度に文書化する
- グループを組んで自分の意見を発表し、それを参加者同士で討論する
- 各自の意見を調整し、実務に即してまとめ直し、会社としての意見統一を図る
- 実務に即してまとめ直された情報を共有する
参加者は4~5人で1つのグループを組みます。また、各自の意見を発表したり討論したりするための所要時間は、30分~1時間程度とします。
3 読書会の流れ
1)課題図書の選定
読書会の題材とする本は、次の基準によって経営者が選定するとよいでしょう。
- 自社の業界や職種に関連したもの
- 実務に活かせるヒントがあるもの
このような基準であれば、一般的なビジネス書から自己啓発系の本まで、幅広い分野から自由に選定できます。最初は簡易な本から始めても構いませんが、前述の通り、社員に「考える力」を身に付けさせることが目的なので、徐々に理解が難しい本なども取り入れていくとよいでしょう。
なお、読書会は社内研修の一環として行うため、題材とする本は会社の経費で購入します。
2)本の要点や意見を文書化する
各社員は、読書会開催前に、本の要点や意見を文書化します。文章量は1000文字程度がよいでしょう。本には重要なポイントとなる「キーワード」や「特定のセンテンス」があるので、これらを用いて文章を作成し、さらに文章量を最小限まで削ることで、その本の内容がより分かりやすくなります。
キーワードや特定のセンテンスは、その本を理解する上での「要」ともいえるものですので、本文中でも頻繁に使用されます。従って、キーワードや特定のセンテンスを見つけるためには、「よく出てくる言葉やセンテンス」に注目するとよいでしょう。
なお、鉛筆やマーカーペンなどを用いて、文章のポイントと思われるキーワードに印を付けたり、特定のセンテンスを意味別に色分けしたりすると、文章の構成や流れが分かりやすくなります。
3)討論会を行う
各自がまとめた要点や意見(A4用紙1枚程度)を他の参加者と共有します。それぞれを読み比べてみると、「自分が重要だとして取り上げた点を、他の参加者は取り上げていなかった」「自分が取り上げなかった点を、他の参加者は重要だとして取り上げていた」「他の参加者と同じ点を重要だとして取り上げたが、その理由が異なっていた」など、さまざまな気付きがあるでしょう。
これらの点について話し合うことで、例えば、「ポイントとなるキーワードを見落としていた」「ポイントとなる特定のセンテンスを読み違えていた」「文章の構成を読み違えていた」といったことが分かります。
次に「本の要点を、具体的にどのように実務に活用するか」について討論します。例えば「製造業における業務改善」という本を題材とした場合、自社が小売業であれば、その内容をそのまま実務に活用することは困難です。
そこで、本の内容のポイントとなるキーワードや特定のセンテンスを抽出して、自社の状況に当てはめて考えることが必要です。例えば、上記の「製造業における業務改善」を小売業の読書会で取り上げる場合、「セル生産方式」についての内容から「作業の習熟化」というポイントを抽出し、そのポイントを「小売業の人材育成」に活用する方法を検討するという流れが考えられます。
その際、参加者との意見調整や本の要点を実務に活用するためには、論理的思考力によって導かれた工夫と、それを伝えるコミュニケーション力が求められます。こうしたこともビジネスパーソンに必要とされる能力の強化に役立ちます。
4)フィードバックする
前述した「製造業における業務改善」のポイントを小売業が実務に活用してみたところ、不具合が出てきたとします。その場合は、実務に即した形にまとめ直し、再度実務に活用してみる必要があります。このように、絶えず「知識」と「経験」をフィードバックすることにより、社員の読書会の効果はさらに高まります。
以上(2020年10月)
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画像:pixabay