書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
- 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです
1 トップの社長だけが見ている5つの“経営者の視点”
シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第4回です。
社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話であるとこれまで申し上げてきました。相手が一般社員ならもちろん、管理職や取締役など幹部クラスであってもです。
なぜなら、
“経営者の視点”は会社のトップとしての経営者になって初めて身に付けられるもの。会社のトップとしての経営者になればおのずと身に付くものの、ならない限り簡単には身に付かないからです。
では一体、“経営者の視点”とはどんなものなのか。
“経営者の視点”の違いを次の5つに集約して説明してきました。
1)高さ(広さ)
2)時間(時空)
3)スピード
4)お金の流れ
5)人と組織
第2回では1)高さ(広さ)と2)時間(時空)について、第3回では3)スピードと4)お金の流れについてご紹介しました。社長がともすると「ノロノロやってるんじゃない、もっと早くできるはずだ!」と叱責してしまう原因の根っこを知っていただけたでしょうか。
今回は最後の5)人と組織について触れて、まとめてみることにします。
さて、このシリーズでは、社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしています。
さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを事例も交えながらご紹介していきます。
“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスになるといえるでしょう。
2 社長は「人と組織」における“人事の最終決定権者”である
皆さんの会社で「人事権」を持っている人はどの役職からでしょうか。そもそも人事権とはどういうものでしょう。
全日本情報学習振興協会の定義によれば、
〇最も広義には、労働者を企業組織の構成員として受け入れ、組織のなかで活用し、組織から放逐する一切の権限
〇より狭義には、採用、配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、求職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者の決定権限
とあります。
私なりに言い換えると、「人事権」とは社員の「採用と配属」およびその後の「評価と処遇」を決定する権限となるでしょうか。
評価によっては昇給や昇進・昇格もあれば、降給や降等・降格、時には解雇もあり得ます。
会社の役職を大きく社長、役員・部長、課長、一般社員(主任・係長も含む)の4段階に分けた場合、多くの会社では人事権は部長以上に与えられているのではないでしょうか。
課長クラスも関わってはいても現場の意見を具申するまでで、非正規社員の採用をはじめとする人事権を除いては、決定権までは与えられていないことが多いようです。
人事権を持つ部長クラスが考えて提案した組織案、人事案を役員が覆すことはあるものです。そして、最終的には社長が決裁をする。つまり、社長が「人と組織」における“人事の最終決定権者”なのです。
3 社長は「人事を最終決定」する責任を、役員以下は「実行」する責任を負う
もちろん、社員数十人の会社ならまだしも、数百人、数千人も抱える会社においては、社長が社員一人ひとりの「採用と配属」「評価と処遇」まで見て決裁するわけではありません。
知り合いの社長はとても社員想いの方で、社員一人ひとりに寄り添っていきたいと、アルバイトやパートも含めた全員の顔と名前、主な個人情報を覚えようと努力していました。社長室の壁に顔写真とメモをずらりと並べて、時間があればそれをいつも眺めていたそうです。
それでもある程度人も入れ替わっていく中で、300人くらいまでが限界で、会社の成長とともに難しくなって諦めました。同時に、一人ひとりを覚えるのも大事な仕事ではあるけれど、会社全体を良くしていくことで、全従業員の期待に応えるほうがより重要だと悟ったようです。
社長が経営で目指すべきゴールは、経営理念やビジョンとして表している場合はその実現であり、それに向けて業績を拡大しながら、株主、顧客、従業員、取引先や社会といったステークホルダーに、より多くの価値を提供し続けていくことです。
そのために社長は中長期の「事業戦略」や毎年の「経営計画」を策定し、同時にそれらを実現し得る人事を決定します。経営学者アルフレッド・チャンドラーのいう「組織は戦略に従う」の具現化です。
とりわけ重要なのは、組織案を考え提案する側近幹部や、主要事業の実行を担うキーパーソンの人事です。社長はそれらを中心に、全体のバランス、抜けや弱点がないかも含めて人事案をチェックし最終決定します。
「実行」するのは役員以下の仕事です。
人事を決定した後は、指揮する役員や部長を信じて任せます。進め方にいちいち口を出したり、マイクロマネジメントをしたりせず、進捗の報告を待って、必要に応じた戦略や戦術、人事の修正を行うのがトップの本来あるべき姿でしょう。組織の頂上から全社を俯瞰(ふかん)できる、唯一の立場として。
スタートアップや中小企業においては、人材も潤沢ではなく、社長も「実行」に関わらざるを得ない現実はあります。
実行できる人がいない、実行しないと会社が存続できないとなれば、当然やらざるを得ないでしょう。
しかしながら、会社組織として事業拡大を目指す選択をした時点で、本来「実行」は社長の仕事ではなく、それ以外の幹部を含めた社員の仕事です。
実際、社長が「実行」に深く関わっている会社では、社長が将来や事業拡大に向けた時間が持てず、業績が低迷したり、変化に対応できずにいたりといったケースが目立ちます。
いずれにしても、社長が“人事の最終決定権者”であることに変わりはなく、だからこそ最終的な経営責任も同時に負っています。それ以外の人たちは組織や人事についての案を提案しても、最終決定権は持っておらず、決定した人事に従って戦略を「実行」する責任を負っています。
「5)人と組織」においても、1)~4)と同じように、唯一社長だけが“経営者の視点”を持って会社を見ているのです。
4 社長は昔を思い出し、自分以外は“経営者の視点”を持てないことを自覚するべき
第2回から今回の第4回まで、トップの社長だけが見ている5つの“経営者の視点”についてご説明してきました。繰り返しますが、
“経営者の視点”は唯一、トップである社長だけが持てるのです。
ところがいざ社長になってしまうと、社長自身がそのことに気付いていながら忘れがちなようです。
社長になった瞬間は、「自分が社長になって今見ている視点は、これまでと全然違うぞ」とはっと気付くのです。けれどもそれが日常になっていくと、自分の見ている“経営者の視点”が当たり前になってしまい、ついつい同じ視点を幹部や社員たちに求めてしまうのです。
社長には折につけ昔の自分を思い出し、自分以外の人は“経営者の視点”を持てないことを自覚するべきです。
難しいのは、社長自身に社員の経験がほとんどないままに起業したケースでしょうか。最初から“経営者の視点”でしか見たことがないので、それ以外の視点で見るということが想像できず、悩み、苦労をされているようです。
第4回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回からはいよいよ“経営者の視点”ではなく、“経営的視点”の身に付け方のノウハウについて解説していきたいと思います。
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以上(2022年10月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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画像:NicoElNino-shutterstock