書いてあること

  • 主な読者:求人票を使って採用活動を行う会社の経営者や人事労務担当者
  • 課題:「求人票の記載内容と実際の労働条件が違う」と求職者に言われないよう、自社の労働条件を正しく求人票に記載したい
  • 解決策:「就業場所や時間外労働の内容が実態と乖離しないようにする」「残業代や手当の支給要件を明らかにする」など、ポイントを押さえる

1 2020年1月6日より新しくなった求人票の書式

2020年1月6日より、ハローワークのサービスが新しくなりました。まず、求人票の書式が新しくなり、「正社員登用」「受動喫煙対策」「必要なPCスキル」など、より詳細な情報を求職者に伝えられるようになりました。さらに、会社のパソコンから求人の申し込みができるようになり、求職者がハローワークに来庁しなくても求人情報を閲覧できるようになりました。

以前より求職者へのアプローチがしやすくなった分、「求人票の記載内容と実際の労働条件に相違が発生しないようにしなければならない」ことに、より注意しなければなりません。例えば、「求人票を見て面接に行ったら、休日や就業時間など、求人票に記載された労働条件と異なる説明を受けた」といった求職者は少なくありません。

求人票の書き方が曖昧だったために、求職者が求人票の記載内容を誤解してしまうことはよくあります。たとえ会社に悪意がなくても、会社に不信感を覚えた求職者がそのことをSNSなどで拡散すれば、会社のイメージ低下につながりかねません

また、求職者が求人票の記載内容と実際の労働条件の相違についてハローワークに相談した場合、会社に対し、事実確認や是正指導が行われることがあります。その過程で法令違反の恐れがある場合などは、職業紹介の一時保留や求人の取り消しが実施されることがあります

こうしたことにならないよう、以降では求職者に誤解を与えない求人票の書き方のポイントを紹介していきます。

2 就業場所や時間外労働の内容が実態と乖離しないようにする

求人票の「就業場所」の欄には、就業場所となるオフィスの住所などを記載する箇所があります。しかし、昨今は新型コロナウイルス感染症の影響で、オフィス以外での就業(いわゆるテレワーク)を実施する企業が増えつつあります。オフィスの雰囲気に魅せられて応募したのに、就業場所が異なる場合、「話が違う」という印象を受ける求職者もいます。

そこで、テレワークを実施している場合、次の点に注意して記載します。

  • 「就業場所」の欄にある「在宅勤務に該当」のボックスにチェックを入れる
  • 「就業場所」の欄にある「就業場所に関する特記事項」に、テレワークの内容を記載する(原則週3日を在宅勤務とする、なお業務に使用する機材は会社より貸与するなど)

また、時間外労働は、過重労働問題が注目されている現在、慎重に記載しなければ求職者とのトラブルに発展しかねない点です。

求人票には「時間外労働」の欄があり、その欄に月平均の時間外労働時間を記載します(月平均10時間など)。しかし、たとえ計算上、「月平均10時間」が事実であっても、繁忙期には60時間を超える時間外労働があるような場合、「話が違う」という印象を受ける求職者もいます。

そこで、月によって繁忙の差が激しい場合、次の点に注意して記載します。

  • 「時間外労働」の欄にある「特別な事情・期間等」に、繁忙期の時間外労働について記載する(繁忙期の3月の時間外労働は60時間程度(時間は2019年度実績)など)
  • 特別条項付きの36協定を締結している場合は、「36協定における特別条項あり」のボックスにチェックを入れ、「特別な事情・期間等」に特別な事情・延長時間などについて具体的に記載する

3 残業代や手当の支給要件を明らかにする

賃金についてトラブルになりやすい点として、残業代と手当があります。

残業代については、例えば、固定残業代の問題があります。求人票の「基本給は月30万円」という記載を見て、求職者が「賃金が高い」と思い応募したが、実はその30万円の中に固定残業代が含まれていたというような場合です。

求人票には、「基本給」の欄と「固定残業代」の欄が別々に設けられているので、固定残業代制を採用している場合、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「基本給」の欄には、固定残業代を含まない純粋な基本給の額を記載する
  • 「固定残業代」の欄には、固定残業代の額、対象となる時間数(固定残業時間)を記載する。さらに、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働があった場合、割増賃金を追加で支払う旨を記載する

手当はその有無によって給与の支給額が変わるので、多くの求職者が気にする点です。新書式の求人票では、「定期的に支払われる手当」の欄と「その他の手当等付記事項」の欄が設けられているので、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「定期的に支払われる手当」の欄には、採用する社員全員に毎月定額的に支払われるものを記載する(役職手当、技能手当、資格手当、地域手当など)
  • 「その他の手当等付記事項」の欄には、個人の状態、実績に応じて支払われるものを記載する(家族手当、皆勤手当など)

4 業務内容や選考フローは分かりやすく記載する

求人票の「仕事の内容」の欄に記載された業務と、実際の業務が違う場合、求職者とトラブルとなります。

特に中小企業では、大企業のように業務が明確に分かれておらず、状況に応じて各人が担当外の業務を任されることが多いため、潜在的にこうした問題が起こりやすい環境にあるといえます。

そのため、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「仕事の内容」の欄には、メーンとなる業務が分かるようにしながら、担当する可能性の高い業務も記載する(伝票入力(全体の約7割)、請求書発行、請求データ照合、会議の準備など)

選考開始から内定までの選考フローは、求職活動や就職時期に影響するので、求職者にとっては大切な情報です。求人票には「選考方法」の欄や「選考結果通知のタイミング」の欄が設けられているので、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「選考方法」の欄に、選考方法が面接なのか書類選考なのか、面接の場合は何回なのかなどを記載する
  • 「選考結果通知のタイミング」の欄に、面接の場で採用の可否を即決するのか後日通知するのか、後日通知する場合は選考後何日以内に通知するのかなどを記載する

なお、中小企業では、「2次面接までの予定だが、良い人材なので1次面接で内定を出す」といったように、柔軟な選考をすることがあります。また、他の求職者との比較検討をするので、標準的なスケジュールよりも時間を要することもあります。

求人票には、「選考に関する特記事項」の欄が設けられているので、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「選考に関する特記事項」の欄に、あくまで標準的なフローやスケジュールであり、変更することがある旨を記載する

5 試用期間中の労働条件などを明確にする

試用期間中の労働条件などにも注意が必要です。試用期間中でも入社後14日を超えると、労働基準法の解雇予告や解雇予告手当の支払いなどが必要となります。そのため、正社員募集であっても、試用期間中は契約社員などとして勤務させる企業があるようです。

しかし、それが分かるように求人票に記載していないと、試用期間中から正社員として採用されると思っていた求職者との間でトラブルになることがあります。そのため、試用期間中の労働条件(賃金額など)が本採用後と異なる場合は、試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示する必要があります。

求人票の「試用期間」の欄には、「試用期間中の労働条件」を記載する箇所が設けられているので、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 「試用期間」の欄にある「試用期間中の労働条件」に、試用期間中と本採用後の違いが分かるように記載する(本採用後は月給25万円だが、試用期間中は20万円とする。試用期間中は、年1回の昇給、年2回の賞与支給の対象外とするなど)

6 補足:求人票の記載内容に変更があった場合の対応

2018年1月1日より、企業は選考過程にある求職者の労働条件を求人時のものから変更する場合、変更後の労働条件を新たに明示しなければならなくなりました。明示は労働契約の締結前に原則書面で行いますが、求職者等が希望した場合には電子メールでの明示も可能です。

労働条件の変更に当たるのは、例えば次のような場合です。

  • 求人票で「月額30万円」としていた基本給を「月額28万円」に変更する
  • 求人票で「月額25万円~30万円」としていた基本給を「月額28万円」と特定する
  • 求人票に記載していた(いなかった)「営業手当」を削除する(追加する)

労働条件の変更の明示は、当初の明示と変更された後の内容を対照できる書面を交付することが望ましいですが、「変更部分に下線・マーカーを引く」「変更内容を注記する」など変更内容を明らかにすれば、労働条件通知書で明示しても差し支えありません。

以上(2020年8月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:pixabay

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