書いてあること
- 主な読者:病気になってしまった社員の、治療と仕事の両立支援について知りたい経営者
- 課題:「会社」は治療のことが、「社員の主治医」は仕事のことがよく分からない
- 解決策:「会社」「社員」「主治医」「産業医等」の4者が密に連携する
1 治療と仕事の両立で大切な関係者の連携
医療技術が進歩した現代、大抵の病気であれば社員は一定期間の休職を経た後、通院しながら働き続けることができます。ただ、実際に治療と仕事を両立させること(以下「両立支援」)は大変です。なぜなら、
- 仕事のことは分かるが、治療のことはよく分からない「会社」
- 治療のことは分かるが、仕事のことはよく分からない「社員の主治医」
の間で、両立支援の方針(休職の要否、復職の可否、就業上必要な措置など)が食い違うことがあるからです。最悪の場合、社員に適切な支援が行えないまま、退職に至ってしまうケースだってあります。
これを防ぐために重要なのは、
「会社」「社員」「主治医」「産業医等」の4者が連携すること
です。「産業医等」とは、産業医または社員数が50人未満の会社で社員の健康管理を行う医師のことです。なお、両立支援については、厚生労働省が運営する情報ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」に参考情報が多く掲載されていますので、こちらも参考にしてください。
■治療と仕事の両立支援ナビ■
https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/
2 両立支援を実現する「4者連携」
両立支援のための4者連携は、次の流れで行います。
1)両立支援の検討に必要な情報の収集
体調が優れなかったり、健康診断の結果に異常があったりした場合、その社員はできるだけ早く医師の診察を受けます。主治医から両立支援が必要と判断されたら、主治医から治療と仕事を両立させる上で必要なことを教えてもらいます。具体的には次の4つですが、主治医がこれらを書き込める書式を用意するのが望ましいです。
- 症状、治療の状況(現在の症状、入院や通院治療の要否・期間、治療の内容・スケジュール、通勤や業務に影響し得る症状や副作用の有無・内容)
- 退院後または通院治療中の就業継続の可否に関する意見
- 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働や出張の可否等)
- その他配慮が必要な事項に関する意見(通院時間や休憩場所の確保等)
2)両立支援の申し出、情報の提供
両立支援が必要と判断された社員は、その旨を会社に申し出て、1)で主治医に教えてもらった情報を会社に提供します。ただ、「周囲に心配を掛けたくない」という理由で、両立支援の申し出をしない社員もいるので注意が必要です。
3)治療の状況等に関する情報の収集(産業医等を経由)
社員が主治医に教えてもらった情報だけでは、両立支援を行うのに不十分な場合があります。
主治医の意見書に「一定の配慮の下、就業が可能」という記載があるものの、会社からすると、具体的にどんな配慮が必要なのか分からないケースなど
がそうです。こうした場合、会社は社員本人の同意を得た上で、治療の状況などの情報を主治医から収集します。医学の専門的な知識が必要となるケースも多いので、産業医等が主治医の話を聞くとよいでしょう。
4)就業継続の可否、就業上の措置、治療への配慮に関する意見聴取
会社は、就業継続ができるか、どのような就業上の措置や治療への配慮が必要かなどを産業医等に聴きます。産業医等は、社員の仕事に関する事情に精通しており、労働安全衛生法でも産業医等の健康管理に関する勧告は尊重しなければならないとされています。ですから、
主治医と産業医等の意見が異なる場合、基本的には産業医等の意見を尊重
します。ただし、病気の内容が産業医等の専門外である場合などは慎重な判断が必要です。
5)休業措置、就業上の措置、治療への配慮の検討と実施
会社は、就業を継続させるか否かを決めます。就業を継続させる場合、具体的な就業上の措置、治療への配慮の内容、実施時期などについて検討します。その際、
社員本人からも就業の継続や就業上の措置、治療への配慮などについて要望を聴取
します。一方、就業を継続するのが難しく、休業措置を講じる(休職させる)場合、
休職期間の上限や休職中の賃金などの扱い、職場復帰の手順等について情報を提供
した上で、休職に入ってもらいます。休職に関する基本的な対応(休職発令や職場復帰の可否の判断など)については、次の記事をご確認ください。
以上(2024年4月更新)
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画像:pixabay