書いてあること
- 主な読者:セクハラをするような「問題社員」を厳しく罰したい経営者
- 課題:必要以上に重い処分を与えると、逆に訴訟などのトラブルに発展しそう
- 解決策:裁判例なども参考にしつつ、妥当な懲戒処分をする
1 トラブルになりにくい懲戒処分のポイント
セクハラをするような「問題社員」は厳しく罰したいところですが、感情的になるのはトラブルのもとです。ここは冷静になり、次のポイントを確認しながら懲戒処分を検討しましょう。
- 問題社員の行動が、就業規則の懲戒事由に該当するか
- 客観的に見て、処分はやむを得ないといえるだけの具体的理由があるか
- 問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか
- 社員の問題行動、会社による注意や処分の内容を記録しているか
- 処分の前に、弁明や挽回の機会を与えているか
注目すべきは、「問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか」です。例えば、服の上からお尻を触る社員を問題ですが、たった1回の行為なら、いきなり懲戒解雇にするのは厳しすぎます。
また、社員のプライベートにも注意が必要です。原則として、プライベートの行動は、会社の信用を失墜させた場合などでなければ懲戒処分にはできません。
以上を踏まえ、この記事では、ありがちな問題社員の行動と妥当と思われる懲戒処分を紹介します。一般的な懲戒処分の内容は次の通りで、1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分になります。
- 戒告:厳重注意を言い渡す
- けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
- 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
- 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
- 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
- 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
- 懲戒解雇:即時に解雇する
2 就業時間内の問題行動への対応
1)業務命令に違反した、業務命令を無視した
社員が業務命令に従わなかったり、無視したりした場合、まずは口頭で注意して様子を見ます。その後も勤務態度を改めなければ、けん責や戒告などの軽い懲戒処分から始め、その後も改善が見られなければ、より重い処分に切り替えます。
指示された業務を放棄したり、業務はしていても職場環境や人間関係に大きな悪影響を及ぼしたりするようなら、場合によっては懲戒解雇や諭旨解雇も検討し得るかもしれません。
ただ、勤務態度の悪さを理由に懲戒解雇や諭旨解雇を課すのはハードルが高く、実務では解雇がやむを得ないケースであっても
普通解雇(社員としての適性がないことを理由とする解雇、懲戒処分ではない)で対応
するのが一般的です。
2)無断欠勤を繰り返した
社員が1~2日の無断欠勤をした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分とします。一方、2週間連続して無断欠勤した場合はレベルが違います。就業規則で「2週間連続の無断欠勤の場合は懲戒解雇とする」と定めている会社は多く、実際、それを認めた裁判例もあります(開隆堂出版事件 東京地裁平成12年10月27日判決)。
ただし、無断欠勤している社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合などは、慎重に対応を判断しましょう。休職制度がある場合は、それを適用して様子を見ます。休職期間が終わっても復職が難しければ、就業規則に従って退職となります。
3)隠れて休憩した、居眠りをした、パソコンを私的利用した(怠業)
社員が隠れて休憩や居眠りをした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分に切り替えます。ただ、長時間労働が常態化しているなら、懲戒処分よりも就業環境の改善が先です。
パソコンの私的利用については、例えば、私的なメールを送るのに使っている場合などは、まずは懲戒処分ではない口頭注意などとし、改善されなければけん責や戒告とします。
ただし、回数が異常だったり、内容が会社の信用に関わる事案であったりする場合は重い処分を検討します。1日300回以上のチャットを行い、チャットを使って顧客情報を持ち出した社員の懲戒解雇を有効と判断した裁判例もあります(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁平成28年12月28日判決)。
4)ハラスメント行為をした
ハラスメントの判断は難しいので、大まかな基準を設けておくとよいです。例えば、セクハラ(セクシュアルハラスメント、性的嫌がらせ)の場合の目安は次の通りです。
- 刑法に抵触(強制性交等(準強制性交等)、強制わいせつ(準強制わいせつ)など):懲戒解雇、諭旨解雇
- 迷惑防止条例に抵触(服の上からお尻を触るなど):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
- 男女雇用機会均等法に抵触(性的な言動など):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
- 法令には抵触しない(「おばさん」と呼ぶなど):口頭で注意、けん責、戒告
セクハラと言われる行為は,刑法犯に該当する行為から性的発言まで幅広く存在します。これまでは、性的発言のみでは懲戒解雇、諭旨解雇は難しいとされていましたが、最近はセクハラについて厳しく判断される傾向にあり、行為態様、頻度によっては懲戒解雇や諭旨解雇を有効とする事例が出てくると思われます。セクハラを理由に懲戒処分を検討する場合には、上記のポイントを踏まえて慎重に判断するようしましょう。
3 プライベートでの問題行動への対応
1)飲酒運転などの犯罪行為をした
会社の信用を失墜させた場合などでなければ、プライベートの問題行動で懲戒処分にするのは難しいです。例えば、飲酒運転の場合、次の項目を確認してみましょう。
- 会社がトラックやタクシーなどの運送業を営んでいるか
- 問題社員が運転業務に従事しているか
- 刑事処分を受けたか
- 事故(人身事故など)を発生させたか
- 報道などで社名が出るなどし、会社の社会的信用が毀損されたか
1.から5.までの要素を検討し、仮にこれらに該当する場合、懲戒解雇などの重い処分が認められる可能性があるでしょう。
2)近隣住民とトラブルを起こした
犯罪に該当しない近隣住民とのトラブルは、基本的に懲戒処分の対象になりません。会社が管理する社宅でのトラブルについても、社員のプライベートな時間であるため、基本的に会社が介入することはできません。
例外として、社宅の利用や施設に影響を及ぼすトラブルであれば、事前に社宅利用規程などに決めておくことで、その範囲内で対応できますが、懲戒処分は限定的になるでしょう。
以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)
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画像:M-Production-shutterstock