書いてあること
- 主な読者:社員のやる気を高めて、活気ある組織を作りたい経営者
- 課題:社員のやる気は流動的で、不満に感じていることのレベルも本当にさまざまである
- 解決策:全社員のやる気が同時期に高まることはない。優秀な社員のケアを優先する
1 社員の「やる気」は完璧を求めない
経営者にとって、社員の「やる気」は重要であると同時に厄介な問題です。経営者と社員とでは仕事に向き合う姿勢が違うので、経営者の思いを全力で社員にぶつけても、それを受け止められる社員は一部に限られます。経営者としては、同じ熱量で語り、ビジネスを進めていきたいのですが、これは高望みというものです。
となると、別のアプローチで社員のやる気を高める必要があります。具体的な方法はさまざまですが、根本にあるのは、
社員の不満足を解消し、自己実現をサポートすること
であり、これはハーズバーグの「2要因理論」や、マズローの「欲求段階説」といった理論でも裏付けられています。
もう一つ大切なことは、全社員のやる気が同時期に高まることはないという事実です。やる気はとても気まぐれで、「ある時、ある社員のやる気は高いが、別の社員は低い」というのが常です。そのため、
経営者は社員の「やる気」に完璧を求めず、高くあるべき社員が高ければいい
という、ある意味で損切りの感覚を持つことが大切です。
2 不満足の解消が不可欠だが……
1)ハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」
社員のやる気を考える際、よく紹介されるのがハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」という2つの理論です。これらの理論を紐解くと、不満足を解消しなければ、社員のやる気は高まらないことが分かります。
まず、ハーズバーグの2要因理論では、
- 衛生要因:満たされないと不満になるが、満たされても満足になりにくい
- 動機付け要因:満たされると満足になるが、満たされなくても不満になりにくい
に注目します。
次にマズローの欲求段階説では、人の欲求として5つを段階的に示していますが、これらは、
- 低次の欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求
- 高次の欲求:尊厳の欲求、自己実現の欲求
といったように分かれます。
2)2つの理論に共通する「不満足の排除」
2つの理論について確認しておきたい重要なポイントは、
2要因理論では衛生要因が満たされなければ、満足の要因にアプローチしてもあまり意味がなく、欲求段階説では低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求が刺激されない
ということです。
ところで、自分で選んだ組織に所属しているのだから、衛生要因や低次の欲求は、ある程度、満たされているはずです。にもかかわらず、このレベルさえ満たされていない社員がいる場合、その社員のやる気を高めたいなら、人間関係や職務を根本的に変える必要があるでしょう。
- 配置転換をして、現在の人間関係から解放させる
- 職務変更をして、適正の再発見をする
一方、これを言っては元も子もありませんが、
- どんなに素晴らしい会社にも、一定の「アンチ」がいる
- 衛生要因や低次の欲求であっても、完璧に満たされている社員は少ない
- 衛生要因や低次の欲求が満たされていない社員は、会社を大事に考えていない
- 社員自身も、現状を変えるための努力を何もしていない可能性がある
ことも事実です。となると、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員は静観するというのも、厳しいようですが、一つの選択肢です。
ちなみに、社員のやる気を高めるためにコミュニケーションを良くし、発言の機会を与えることが大事といわれます。しかし、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員については、よほどうまく働きかけないと発言せず、沈黙するだけに終わるでしょう。
3 自己実現は1対1の関係から
満足要因や高次の欲求が満たされていない社員の扱いは、前述した衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員とは違います。この社員は、
- 実力ややる気があるのに、それを発揮できる機会に恵まれていない
- 本来やるべきでない仕事に忙殺され、結果を出せていない
といった状況に陥っている可能性があります。最悪の場合、
自分の実力を活かすチャンスがもらえる会社に転職しよう
ということになってしまい、会社として大きな損失です。
そうした社員は既に社内で一定の地位にあると思います。昔ながらの考え方なら、「自分を引き上げてくれた会社で定年まで勤める」ということですが、現在の状況は違っており、簡単に転職してしまいます。
こうした社員を引き留めるのは容易ではありません。優秀な社員ほど刺激を求め、新しい状況に身を置きたがるので、経営者は社員に刺激を与え続けなければなりません。具体的には、
経営者が1対1で本気で話を聞き、チャンスを与える
ようにします。その際、「社員の意見を聞くことが大事」との指摘がありますが、社員としては優秀だが、経営者から見れば不十分というレベルなら、その必要もないかもしれません。それよりもむしろ、足りないと思える点を丁寧に伝え、それを克服する手伝いをしてあげるのがよいでしょう。
いずれにしても、自己実現を目指すようなレベルの高い社員のやる気を高めたければ、個別のアプローチが必要であり、しかもその適任者は経営者となります。先ほどとは全くトーンが異なり、
このレベルの社員のやる気が低い責任の多くは経営者にある
と考え、本気で取り組むべきことです。
以上(2024年1月更新)
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画像:eamesBot-shutterstock