書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
- 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。
1 異動してきたBさんが新しい取り組みを提案するも失敗、どう声をかけますか?
前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてスタートした今シリーズです。
知識やノウハウは分かったけれど、「現場で実践するにはまだハードルが高い」「うまく一歩を踏み出せない」という方のために、毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、どんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。
第2回の事例解説はいかがだったでしょうか。今回は課題[事例2]です。以下に再掲しますので、考えた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかったという方もぜひ考えてみてください。解説だけを読んでいても、実行や応用はままなりませんよ。
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Q. Bさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。
[事例2]
〇若手社員Bさんが異動してきて3カ月。はりきって新しい業務に取り組んでくれていましたが、ある日のこと、課のミーティングで提案があるというので時間を取ることにしました。内容は部署での従来のやり方を根本から見直す新しいアプローチの提案でした。
〇いきなり聞かされた他のメンバーからは、「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」と後ろ向きな意見が出てきます。上司であるあなたは、新天地でやる気に燃えているBさんからのせっかくの提案だけに、まずは1カ月、一部業務でやってみればいいと受け入れ、他のメンバーにも協力を促しました。しかし、1カ月後に結果は出ませんでした。
〇Bさんはあなたに「メンバーの反対を押し切って受け入れてくれたのに、失敗に終わってすみません」と謝罪。異動したての頃の仕事への意欲をすっかり失っているようです。
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ヒントとしては、[事例1]の解説でお話ししたポイントも思い出しながら、[事例2]の文章を丁寧に読み返してみてください。
2 起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出す
事例を読んで多くの方が真っ先に気付いたのは「1カ月という設定に無理があったんじゃないの?」といった、目標設定についてかもしれませんね。もちろん、その視点は間違っていないのですが、そこが根本的な問題点でしょうか。
前回も申し上げましたが、ここは実際の現場ではありません。相手の表情や行動を直接“観察する”ことはできないといったデメリットがある一方で、文字情報なのでトレーニングとして何度も読み直してじっくり考えることができるメリットがあります。
前回のポイントの1つ目「相手をよく観察する」、2つ目「起きている問題は何かに立ち戻る」も思い出して、起こっている事象を整理し根本的な問題を洗い出してみましょう。状況を冷静に判断することが肝要という点では、リアルも事例も同じです。
今回のテーマは「異動」です。成長ステージや企業文化によっても頻度や人数は異なるでしょうが、社員の異動、新卒・中途を含めた人材の新たな配属は年に1度くらいは定期的にあるでしょう。では、社員の異動は何のために行われているのでしょうか。
今回のポイントの1つ目は「人事異動の目的に立ち返る」です。人事異動の目的は本来、「異動先のセクションと異動した本人を活かす=“活性化する”こと」ではないですか。
人手が足りない部署ならば人材を追加することで“活性化する”、停滞している部署なら異なる経験を持つ人材を投入することで“活性化する”のです。
もし「この人材はうちではいらないから、外に出してしまおう」といった後ろ向きな理由だけで異動が行われている組織があるとすれば、「じゃあ、何のためにその人を採用したのですか?」「『採用ミスでした』で片付けて、本人が辞めると言うまでたらい回しにするつもりなですか?」と聞きたくなります。
配属してみたものの本人も組織もフィットしないことなど、よくあることと考えましょう。それは失敗ではなく、前向きな異動への一歩なのです。
本人の才能や個性を活かす目的で異動を活用できている組織ならば、人は辞めないどころか、一人ひとりを最大限に活かせて成果にもつなげられていることでしょう。
そう考えれば、異動してきたBさんが部署の仕事を覚えて慣れてきたところで「従来のやり方を見直す提案をしてくれた時点で成果である」といえるのではないですか。これがポイントの2つ目です。
私が上司なら課のミーティングで提案があると言ってきた時点で感謝の気持ちを伝えたいです。もしまだ言ってなかったとしたら、今回の事例である「1カ月で結果を出せませんでした、すみません」とBさんが謝罪してきた時点の最初の一言にしてはどうでしょう。
「Bさん、提案してくれてありがとう。異動してきてくれてありがとう」
感謝の言葉ですが、「褒める」「前向き発想」なコミュニケーションに当たります。
3 「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」ではない
今回の3つ目のポイントは、「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である」ということです。
Bさんからの提案は、そのことを改めて気付かせてくれたのではないでしょうか。
人間は同じ組織にいると次第に保守的になっていきます。現状のやり方を否定したり、変えていったりすることは、面倒だしストレスに感じるものです。でも、それでは次々と競合が生まれ、新たな価値とそのスピードが求められる世の中で、変化に対応できず生き残ってはいけません。
「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事」なのです。Bさんが提案してくれた時点でそのことに気付いていれば、上司としては、他のメンバーからの「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」という後ろ向きな意見に対して、言うべきことがあったはずです。
そろそろ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の使いどころも含めて、順に整理していきましょう。Bさんが1カ月後に「結果は出なかった、失敗に終わってすみません」と謝罪してきた時点からです。最初の一言は先ほどの感謝を伝える「褒める」から始めます。
その場はあなたとBさんの1対1でしょうから、一緒にこの1カ月の活動を振り返ることにします。まずは「傾聴」して本人の自己分析をじっくりと聞いてみましょう。くれぐれも
途中で決めつけたり、せかしたり、自分の意見を言ったりしないこと。全ては本人の成長のためです。
「傾聴」が終わり、もし本人が結果を正しく捉えられていなければアドバイスをしましょう。小さな変化の兆しであっても1つの成果です。
次に分析の冒頭で申し上げた「1カ月の目標設定」の妥当性も含めて、Bさん本人が振り返った上でこれからどう取り組んでみたいか聞いてみましょう。もう1カ月、少しやり方を変えて続けてみたいのか。失敗なら失敗で、次からは失敗しない別のやり方を考えて取り組みたいのか。
なるべく本人のアイデアと意思を尊重しながら、上司であるあなたからのアドバイスがあれば、本人の納得いく範囲で取り入れてそれを課のミーティングで共有しましょう。
その際に、メンバーのみんなには最初の提案があった時に伝えるべきだった次のことを「前向き発想」で話しましょう。
「必ずしもこの課の今までのやり方が間違っていたという意味ではなく、もっと良いやり方がないか、全然違うやり方がないかと試行錯誤して新しい価値を生み、生産性を上げていくのがわれわれの仕事です。Bさんだけでなく、課の全員の仕事です。Bさんの提案を応援してほしいし、みんなもどんどん提案してください」
Bさんの提案に対しては、本人に議事を進行させながら他のメンバーからのアドバイスや協力を引き出しましょう。その上で、「私だったら、Bさんとは違うこういう見直しにトライしてみたい」といった新たな提案が出てくればしめたものです。
【今回の3つのポイント】
1 人事異動の目的に立ち返る
2 異動して来た人が現状を変える提案した時点で1つの成果である
3 業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である
最後に、私から上司の方へのお願いです。「人事異動」を経験したことがある人なら分かると思うのですが、異動者本人にとっては経験のない部署、新たな部署の一員となる時点で不安は小さくありません。
上司は最大の歓迎者でありかつ最大の理解者として、しばらくは意識して本人に寄り添ってあげてください。
それは決してひいきなどではなく、人事異動の本来の目的を達成するために必要なことなのです。
4 チーフのCさんから「若手が仕事をしない」とクレーム、どう声をかけますか?
次回に向けた[事例3]を紹介します。
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Q.部下のベテランCさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。
[事例3]
〇部下でチーフとして若手2人を任せているベテランのCさんから、悲痛な形相で上司のあなたにクレームのような相談がありました。「若手2人に毎日指示を出して仕事をやらせようとしているんですが、反発や口答えばかりして、ちゃんとやらないんですよ。上司から直接注意してください。私にはもう無理です」。
〇実は最近別のチーフから、Cさんのところの若手2人が会社を辞めたがっているようだとのうわさを聞いたばかりです。若手とはいえ大事な戦力、今後への期待も含めて採用した以上、会社としても課としても辞められては困ります。
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ヒントとしては、事例1,2と同様に最初に起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出してみてください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。実際の場面では、事例と似たようなシチュエーションであっても全く同じということはないでしょう。今回私がご提示した声かけや注意すべきポイントを参考にしながらも、目の前の状況に合わせてご自身で判断し、実行してみてください。
次回もお楽しみに。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
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以上(2024年9月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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