書いてあること

  • 主な読者:始業・終業時刻を柔軟にして、社員が働きやすい環境をつくりたい経営者
  • 課題:変形労働時間制の導入を検討しているが、自社が導入できるのかなどが分からない
  • 解決策:一部を除いてどの会社でも導入できる。導入手続きは労使協定の締結や就業規則の変更など

1 4種類の変形労働時間制

変形労働時間制とは、

1カ月や1年など一定の期間内において、1日10時間や1日6時間など労働時間を弾力的に設定したり、始業・終業時刻の決定を社員に委ねたりできる制度

です。労働基準法(以下「労基法」)では、4種類の変形労働時間制が定められています。

制度の概要や導入手続きをざっくり一覧にまとめたのが図表1です。

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以降でそれぞれの制度の詳細を解説していくのですが、次の用語は重要になるので、ご確認ください。

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2 1カ月単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1カ月単位の変形労働時間制とは、

1カ月以内の一定の期間(「変形期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。例えば、図表3は法定労働時間が1日8時間、1週40時間の会社が、変形期間を1カ月(31日)に設定した場合のイメージです。

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1日8時間を超えて労働する日、1週40時間を超えて働く週がありますが、週の平均労働時間が40時間以内に収まっていれば、時間外労働は発生しません。具体的には、「法定労働時間の総枠」という基準で判断します。法定労働時間の総枠は、原則として、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×変形期間内の暦日数÷7日

で計算します。図表3の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間(40時間×31日÷7日)で、

法定労働時間の総枠(177.1時間)>1カ月(31日)の所定労働時間の合計(174時間)

となります。この場合、週の平均労働時間が40時間以内に収まっていることになり、時間外労働は発生しません。

ただし、各日、各週の所定労働時間は、一度定めると原則として変更できないので注意してください。図表3のようにシフトを定めても、実際の労働時間が各日、各週の所定労働時間を超えると、この後に紹介するルールに基づいて時間外労働が発生する可能性が出てきます。

2)時間外労働などのルール

1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (変形期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、これとは別に、法定休日に働いた場合は休日労働が、原則として22時から翌日5時に働いた場合は深夜労働が発生します。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(就業規則で定める場合は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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3 1年単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1年単位の変形労働時間制とは、

1カ月超1年以内の一定の期間(「対象期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。基本的なルールは1カ月単位の変形労働時間制と同じですが、1年単位の変形労働時間制の場合、次のルールが加わります。

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2)時間外労働などのルール

1年単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (対象期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制と同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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労使協定の項目にある「d.対象期間における労働日、各日の所定労働時間」について補足します。1年単位の変形労働時間制は長いので、事前に全労働日の所定労働時間を特定するのは難しいです。そのため、対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分した場合に限り、

  1. 最初の期間については、労働日と労働日ごとの所定労働時間
  2. それ以外の各期間については、各期間の労働日数と総労働時間のみ

を労使協定に定めればよいとされています。例えば、図表7は対象期間を1カ月ごとに区分した場合のイメージです。

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ただし、この場合も、最初の期間以外の各期間の労働日と労働日ごとの所定労働時間を、各期間の始まる30日前までに過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意を得て、書面で定めなければなりません。

4 1週間単位の非定型的変形労働時間制

1)制度の概要

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、

1週の労働時間が40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。他の制度と違い、常時雇用する社員が30人未満の小売業、旅館・料理店・飲食店だけが導入できます。例えば、図表8は1週間単位の非定型的変形労働時間制を用いて1週間働く場合のイメージです。

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1週の労働時間が40時間以内なので、1日8時間を超える所定労働時間を設定しても、時間外労働になりません。ただし、設定できる所定労働時間は、1日10時間が上限です。また、1週間単位の非定型的変形労働時間制の場合、各日の所定労働時間は、遅くとも毎週1週間の仕事が始まる前までに、勤務表を張り出すなどして社員に書面で通知します。

2)時間外労働などのルール

1週間単位の非定型的変形労働時間制で時間外労働になるのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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5 フレックスタイム制

1)制度の概要

フレックスタイム制とは、

3カ月以内の一定期間(「清算期間」といいます)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる労働時間制度

です。通常は、必ず働かなければならない「コアタイム」と、社員が自主判断で働く「フレキシブルタイム」を設けます。例えば、図表10はコアタイムを10時から15時、フレキシブルタイムを6時から10時と15時から19時に設定した場合のイメージです。

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働き方の自由度が高い半面、社員の始業と終業がばらつきやすくなります。かといってフレキシブルタイムを極端に短くしたり、社員にフレキシブルタイムに働くよう強制したりすることはできないのですが、社員に翌日の始業時刻の目安を確認したり、社員の同意を得て特定の時間に始業させたりする程度であれば問題ないとされています。

2)時間外労働などのルール

フレックスタイム制は、1カ月以内の場合と1カ月超3カ月以内の場合とで時間外労働のルールが変わります。なお、休日労働や深夜労働のルールは、フレックスタイム制の期間にかかわらず、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

1.フレックスタイム制の期間が1カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間の実労働時間が、週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合は44時間)を超えると時間外労働になります。具体的には、前述した「法定労働時間の総枠」で判断します。

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×清算期間内の暦日数÷7日

2.フレックスタイム制の期間が1カ月超3カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間中の実労働時間が、週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えると時間外労働になります。便宜上、このルールを「40時間ルール」とします。同時に、フレックスタイム制の開始の日から1カ月ごとに区分した各期間の労働時間が週平均50時間を超えた場合も時間外労働になります。こちらも便宜上「50時間ルール」とします。

フレックスタイム制の期間を1カ月超3カ月以内に設定した場合、40時間ルールと50時間ルールのいずれかの条件に該当すると、時間外労働が発生します。例えば、図表11は、清算期間が3カ月の場合の、割増賃金の対象となる時間数のイメージです。

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賃金は、まず各月について50時間ルールにのっとって計算した割増賃金を支払い、次に清算期間終了時に、40時間ルールにのっとって法定労働時間の総枠を超えた分の割増賃金を支払います(50時間ルールに基づき既に支払った金額を除く)。図表11の場合、各月で支払うべき割増賃金は次のようになります。

  • 4月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 5月(単月):割増賃金の支払いはなし
  • 6月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 6月(3カ月):88.4時間(=620時間-520時間-5.8時間-5.8時間)分

6月は、6月単月で生じた割増賃金(50時間ルールに基づき計算するもの)と、3カ月の清算期間で生じた割増賃金(40時間ルールに基づき計算するもの。ただし、4月(単月)と6月(単月)で生じた割増賃金を除く)の両方を支払うことになります。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(清算期間が1カ月以内の場合、届け出は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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以上(2024年3月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:WinWin-Adobe Stock

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