書いてあること
- 主な読者:これから信頼できる部下を育てていくことになる中堅社員
- 課題:部下を信頼するがあまり、あまり口出しをすることができない
- 解決策:信頼するからこそ、お互いにいい仕事をするために部下の仕事を疑うようにする
1 信頼する部下が大きなミスをした……
「申し訳ございませんでした。早急に立て直します」。そう言って事業本部長Aは役員室を出ました。新規事業を進めてきた事業本部長Aですが、パートナー選定にミスがあり、土壇場で相手の技術が提携要件に満たないことが判明したのです。
事業本部長Aは、部下の中で最も信頼する部長Bにパートナーの審査・選定を任せてきました。当初、事業本部長Aには「もしかすると、この会社は技術要件を満たしていないかもしれない」との不安がありました。しかし、部長Bの「大丈夫です!」という言葉を信じ、深く追及しませんでした。しかし、社内外の根回しや社長プレゼンも終わり、いざ新規事業が始まろうという段になって、パートナーの技術が提携要件に満たないことが露呈したのです。関係者総出で別のパートナー選定を進めていますが、既に損失も出ています。
事態が自分の権限を超えてしまった部長Bは、事業本部長Aに「本当にすみませんでした」と頭を下げるばかりです。これに対して事業本部長Aは、「信じるからこそ、疑わなければならない。それを怠った私の責任だ」と言いました。しかし、部長Bには、「信じるからこそ疑う」という、一見矛盾した言葉の意味が分かりませんでした。
2 「信頼」とは何か
役職が上がるほど大切になるのは、心から信頼できる部下の存在です。何かあったときに、「君(部下)が言うのだから大丈夫(あるいはダメなのだろう)」と思える部下はとても頼もしいものです。実際、役員や事業本部長クラスの会話では、「心から信頼できる部下はいる?」ということがよく話題に上ります。上司の見解として一致するのは、心から信頼できるのは、スキルとマインドを兼ね備えた部下であるということです。
スキルとは、財務、法務、営業など、何かの分野で優秀なことです。ただし、スキルが高いだけの部下は頭の良い専門家ではありますが、「君(部下)が言うのだから大丈夫、あるいはダメなのだろう」と思えるまでには至りません。大切なのは、マインドも備わっていることです。
マインドとは、働くことに対する意識、信条です。部下のマインドを評価する軸は上司の方針によって違ってきます。しかし、信念を持って働いている部下はマインドがあると感じられ、信頼に値するでしょう。ただし、マインドだけではビジネスを形にすることができないため、スキルも必要です。
3 「信じるからこそ疑う」ことの大切さ
スキルとマインドを兼ね備えた部下は、そう多くは存在しません。だからこそ、こうした部下は一騎当千の存在であり、上司は大切にします。しかし、大切にしようという気持ちが強すぎると、上司は部下をどこまで管理してよいものかと迷い、言いたいことも言えなくなります。そして、最初は「心から信頼しているからこそ権限委譲」していた上司が、部下に遠慮して何ら指摘をできずに放置していると、丸投げのような状態になっていきます。こうなると、部下としても放置されている感覚になります。
簡単な作業を丸投げするのはよくあることで、上司の負担も軽減されます。しかし、上司の本意ではないとしても、重要な仕事を、心から信頼する部下に丸投げしたような格好になるのは好ましくありません。
冒頭の事業本部長Aのケースを考えてみます。事業本部長Aは部長Bを心から信頼しているので、新規事業のパートナー選定という重要な仕事を任せました。問題は事業本部長Aに不安があったにもかかわらず、部長Bの言葉をうのみにしてしまったことです。もしかすると、事業本部長Aは、部長Bに気を使うあまり、「もう一回、調べ直してくれ」とは言えなかったのかもしれません。
その結果、事業本部長Aは、重大なミスを事前に回避するチャンスを逸してしまいました。ミスの痛みを負うのは部長Bも同じです。つまり、こうした事業本部長Aの姿勢は、一生懸命にパートナー選定をしている部長Bに対して失礼な行為でもあるのです。
4 厳しくチェックするべき
心から信頼する部下との正しい付き合い方は、信頼するからこそ仕事内容を厳しくチェックする姿勢を崩さないことです。これは、レベルの低いミスを発見するための“上から目線”ではありません。
上司は部下を信頼し、認めているからこそ高いレベルの仕事を求めます。そのため、仕事の段取りや進捗はもちろん、部下の考えや今後の方向性について、「本当にベストを尽くしているのか?」と本気でチェックするのです。その過程で、別のアイデアが出れば軌道修正をしますし、疑問があればその場で改善することもできます。
スキルとマインドを備えた部下は優秀であり、細かく管理されることを嫌います。しかし、ここで紹介したチェックはそうした類のものではなく、良い仕事をするためのプロセスなので、遠慮する必要はないのです。
5 信頼できる部下ほど、付き合いが難しい
上司から何ら指摘をされず、丸投げ状態になっている部下は不安です。また、その仕事が重要であればあるほど、上司に不信感を抱きます。「重要な仕事を、部下(自分)に丸投げするとは、どういう了見だ?」と。そして、こうした状態でミスが起こると、事態はさらに悪化します。部長Bがまさにそうした状態ですが、マインドを備えた部下は、自分が犯したミスを一人で背負い込もうとします。
しかし、事態が自分の権限で解決できるレベルを超えてしまうと、思い悩んだ結果、「責任をとって辞める」とさえ言い出しかねないのです。
中堅社員は、これから出世していく中で、心から信頼できる部下を持つようになるでしょう。そうなったときのために今から心得ておきたいのは、特に心から信頼する部下に対しては、気を使いすぎたり、ご機嫌取りをしたりしないことです。この点を間違えると、言いたいことも言えず、表面的な関係になってしまいます。その部下のことを認めているなら、他の部下よりも厳しい要求をしても問題ありません。
また、部下のほうから上司に進言してくることもあるでしょう。その進言を取り入れるか否かは別として、常にきちんと耳を傾ける姿勢を持つことも、部下と良い関係をつくる上で不可欠です。
以上(2021年9月)
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画像:LIGHTFIELD STUDIOS-Adobe Stock