書いてあること
- 主な読者:自身と他の部下との間に入って「門番」になってしまう部下がいる
- 課題:門番にもやる気はあるが、他の部下の成長に悪影響を及ぼす
- 解決策:上司がつとめてフラットかつ平等に接して、情報の非対称性をなくす
1 特定の部下に頼り過ぎてはいけない?
来年度の行動計画を検討している中堅社員のAさん。人、つまり部下に関する課題解決が重要だと認識しています。Aさんが最も憂慮している課題は、機能するチームづくりです。
Aさんのチームは5人です。このうち、Aさんの考えを理解して、自主的に活動してくれるのはBさん1人だけで、残りの4人は指示された仕事しかしません。自主的に活動しようとする部下もいますが、何から始めたらよいのか分からないようです。
こうなるとAさんはBさんに頼るようになりますが、チーム内でコミュニケーションの偏りが生じると、Bさん以外の4人の活動がますます停滞します。どうしたらよいのか、AさんがC部長に相談したところ、C部長は次のように返しました。
「優秀なBさんに頼るのは当然だけど、与える権限は調整しないとね。例えば、他の部下がAさんに話をする際、必ずBさんを通すような体制になっていると、チームのコミュニケーションは停滞し、部下の成長機会も失うことになるよ」
2 部下を門番にしてはいけない
優秀な部下は上司とともに行動する時間が長く、かばん持ちや秘書(スケジュール調整)のような役割を担います。こうして、上司が会う相手、商談の内容、ビジネスの進め方などを学んでいくわけです。上司としても優秀な部下を育てたいと思っているので、特に重要なシーンでは同行させます。また、一部のスケジュール管理も任せるようになるため、その部下は上司のスケジュールを把握するようになります。
こうなったときに生じる、上司が意図しない現象が優秀な部下の“門番化”です。以下、門番化した部下を「門番」と表記します。上司と話をするには必ず門番を通したり、上司の考えを本人ではなく門番に確認したりする体制になっていくのです。
皮肉なことに、この傾向は一生懸命に働いている上司のチームほど顕著です。こうした上司の威厳は高く、多忙のため、部下はなかなか話す機会のない上司に畏怖の念を抱くため、門番に頼るようになります。
これはいけないと感じた上司は、全ての部下を平等に扱おうとするかもしれません。しかし、経験の浅い部下や、やる気が乏しい部下に時間を割いて、優秀な部下と接する時間が減ることの機会費用は小さくありません。
では、上司はどうするべきなのでしょうか。まず、上司の考え方、スケジュール、経費(交際接待費など)の使い道などの情報を平等に知らせます。こうすることで、門番による偏った情報統制を回避でき、チームに平等感が広まります。
一方、部下が上司から与えられた情報を活用して具体的にどのような行動を取るかは、部下自身に任せます。こうすると、優秀な部下や、やる気のある部下が自然と目立つようになってきます。
3 能力不足の部下をフォローする
部下の中には、上司の方針を踏まえ、いかにも“もっともそう”なことを言うものの、何ら行動を起こさない人が少なくありません。このタイプは、何も考えていない口だけの部下と、やる気はあるが何をしたらよいか分からない部下に大別されます。
後者のやる気はあるが何をしたらよいか分からない部下には、何らかのケアをしなければなりません。重要なのは、思考と行動をセットにすることと、期限を設けることの徹底です。
思考と行動をセットにすることについては、1~2カ月に1回の頻度で個別面談をすると効果的です。部下が次の面談までにすべきことを決めていくのです。なお、最初は様子見ということで、上司は細かな管理などはせずに部下に任せてみます。
その結果、上司が納得できるスピード感で行動できている部下はそのままでよいでしょう。一方、面談では目標に納得しているようだが、ほとんど行動を起こすことができない部下には、期限を設ける必要があります。
具体的には、部下と一緒に行動を分解し、優先順位付けも行います。部下が動けない理由は、「能力がない」「時間がない」「優先順位が分からず混乱している」といった3点に集約されます。
行動を分解し、優先順位付けを行うことで問題は切り分けられます。「いつまでに何をする」ところまで明確なのに行動できないのは、その時点では部下の能力が不足しているということなので、目標のレベルを下げる必要があります。
部下の人数にもよりますが、この取り組みを上司1人で行うのは負担が重くなります。そのため、一部の取り組みについては優秀な部下に任せるようにします。ただし、優秀な部下が門番化しないように注意することは不可欠です。
4 自分で人材を見つけ、採用する
ここで紹介してきたのは、今いるメンバーの力を高めていくための取り組みです。一方、新しいことを始める場合には、新たなメンバーを迎え入れなければならないこともあります。
最近は空前の人手不足で、いわゆる「リファラル採用」(社員による人材の紹介や募集)が中小企業に広まっています。採用はこれまで人事の仕事でしたが、リファラル採用では、上司が自分の欲しい人材を積極的に見つけられるようになります。
今、自分のチームに不足しているのはどのような人材なのか、上司が一番理解しているはずです。部下の成長を待つ時間はなく、全社的に人手不足で補充が見込めないのであれば、人事と連携しながら、自らメンバーを探してくることも大切なのです。
以上(2021年9月)
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