書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:強気なだけでリスクをとる、あるいは弱気なだけでリスクを回避する?
  • 解決策:その選択をしなかった場合に得られたはずの利益を考慮し、未来志向で判断する

1 質問:まだ確定していない注文を見込むべきか?

自社の商品Aをいくつ製造するか決めたいと思っています。既にB社から5000個の発注を受けていますが、営業担当者によるとB社以外からも5000個の注文をもらえそうとのこと。さぁ、選択です。

B社向けに5000個だけ製造するか、B社以外の販売も見込んで1万個製造するか

営業担当者が“いける”というのなら、B社以外の販売先の注文も受けたいものですが、もし注文がこなかったらと心配になります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「機会費用」という感覚を持つ

「機会費用」とは、

ある選択をした場合に、選ばなかった別の選択をすることで得られた利益

のことです。商品Aの販売単価は1000円です。5000個だけ製造することを選んだ場合、B社以外の販売先に5000個販売することで得られたはずの500万円が機会費用です(ここでは、製造原価を考慮していません)。

機会費用は「収益の最大化」を意識して検討します。例えば、営業担当者がB社以外の販売先を複数見込んでおり、有力な先もあるのであれば、1万個の製造を選択しやすくなります。さらに大量生産で製造単価も下がるならなおさらです。

反対に、有力な見込み先がなく、製造単価も削減できないなら、5000個だけ製造してB社に売り切ったほうがよさそうです。在庫リスクはなく、営業担当者も他の商品の営業に注力できるので、商品Aの機会費用はなくなります。

3 機会費用を意識した優先順位

もう1つ、機会費用を検討するトレーニングをしましょう。

営業先にC社とD社とがあります。C社は過去に取引実績があり、要求も厳しくありません。競合他社も存在しないので、商談はスムーズに進むでしょう。C社で期待できる売上は500万円です。一方、D社は新規であり、要求はかなり複雑です。競合他社も多数存在するので、受注できるか分かりません。しかし、D社で期待できる売上は2000万円と、C社の4倍です。

C社かD社のいずれか1社としか取引ができないとすると、皆さんはどう判断しますか?

リスクを低減するならC社を優先して500万円を獲得します。1500万円の機会費用が発生しますが、営業上のトラブルや、D社に対応することでリソースが割かれ、他の営業先に悪影響が生じることはありません。

反対にD社を選択する場合は何を考えるでしょうか。2000万円の売上は魅力的で、D社の要求に応えるための努力(技術やノウハウ)はB社の財産になるかもしれません。競合他社に敗れても、将来に向けたビジネスの可能性が広がります。

これは単純な例ですが、機会費用を意識することでより深く検討できます。

4 後ろ髪を引かれても「サンクコスト」は気にしない

管理会計では「サンクコスト(埋没費用)」という考え方も重要です。サンクコストとは、

既に投資したコストや時間など

を指すものです。例えば、人気のラーメン店の行列に並んでいるとき、

予定より待ち時間が長くておなかペコペコだけど、ここまで待ったのだから我慢する

と、それまでのコストや時間を考慮するのがサンクコストの典型です。気持ちは分かりますが、意思決定においては、既に支払っているサンクコストは考慮しないのがセオリーです。そのため、

おなかペコペコなので、別の店にいく。ここまで待った時間は意識しない(諦める)

と、判断します。

ビジネスに話を戻しましょう。ビジネスでは常に撤退プランが準備されています。「これはやるべきではないかもしれない」「無駄かもしれない」と気付いたとき、それまで費やしたコストや時間を考慮せず、素早く撤退の判断したほうがよいのです。

5 練習問題

(問題1)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個では700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を考慮せず、5000個だけ製造しました。しかし、B社以外から5000個受注したとすると、「もうけ損なった利益」はいくらになるでしょうか? 商品Aを販売する際の販売費及び一般管理費などは考慮しません。

(問題1の回答)

1万個製造する場合、5000個までの製造単価は700円、残り5000個は690円です。この場合、B社以外に5000個販売したときの利益は次の通りです。

155万円=(1000円-690円)×5000個

(問題2)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個までは700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を見込み、1万個製造しました。ところが、B社以外に納品する前に1000個に欠陥があることが判明し、1000個を追加で製造しました。また、納期が遅れたため、この1000個の販売単価を1000円から990円に値下げしました。一方、作り直し分の製造単価は680円に抑えることができました。

B社への5000個、B社以外への5000個は、全て販売できたものとした場合、作り直しが発生しなかった場合と比較してどう違うでしょうか?

(問題2の回答)

答えは以下の通りです。

マイナス69万円(236万円−305万円)

1.1000個の作り直しが発生した場合の利益(236万円)

  • 売上高(a):999万円=1000円×9000個+990円×1000個
  • 製造原価(b):763万円=700円×5000個+690円×5000個+680円×1000個
  • 利益(a-b):236万円=999万円-763万円

2.作り直しが発生しなかった場合の利益(305万円)

  • 売上高(a):1000万円=1000円×1万個
  • 製造原価(b):695万円=700円×5000個+690円×5000個
  • 利益(a-b):305万円=1000万円-695万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:baranq-shutterstock

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