書いてあること
- 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
- 課題:認識できている「数字」や「役割」だけに基づいて判断してよいのか?
- 解決策:会社が負担する総額人件費は年間給与の1.5〜2倍、担当外の仕事もたくさんある
1 質問:売上高より低い人件費なら“お得な採用”?
年間売上高が600万円の新規取引先を獲得しました!
人手が足りなくなるので、「年収480万円(月額給与30万円×12カ月+賞与60万円×2回)」で人材を採用しようと考えています。単純に、
600万円−480万円で120万円のプラスである
ということで、採用を進めてよいでしょうか。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。
2 「見えない人件費」とその正体
人件費には、社員が認識していない「見えない人件費」があります。例えば、法定福利費(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料など)や、法定外福利費(通勤手当や住宅手当など)があります。これらをすべて合計した人件費を総額人件費と呼び、
総額人件費の目安は年間給与の1.5~2倍程度
といわれます。年収480万円の社員の総額人件費は720万円以上です。
3 売上の全てが利益になるわけではない
利益にも注目しましょう。売上高から売上原価(仕入原価など)を差し引いたものが売上総利益、売上総利益から販売費及び一般管理費(以下「販管費」)を差し引いたものが営業利益です。多くの場合、人件費は販管費から支払われるので、
売上総利益が人件費よりも少なければ、営業利益は赤字
となります。仮に総額人件費を720万円、600万円の売上高の40%が仕入原価とした場合、
1200万円=720万円/0.6
の売上高がなければ総額人件費を賄うことはできません。上の数式の「0.6」は、本ケースの売上総利益率です(60%(1-0.4))。
4 ABCで人件費を配賦する
「配賦」についても知っておきましょう。例えば、製品Aの販売を担当する社員の人件費は、全額が製品Aの販売に振り向けられるわけではありません。通常、他の商品の販売や事務作業などもしているからです。
配賦とは、
複数の部門・製品・業務などにまたがって発生する費用を、各部門・製品・業務などに適正に費用配分すること
であり、原価計算ではある基準を持って行われます。いくつかの方法がありますが、知っておいてほしいのはABC(活動基準原価計算)です。
ABCとは、アクティビティ(活動)を基準として原価を計算する手法です。例えば、検品作業にかかる費用は次の算式で算出します。
検品作業の費用=1時間当たりの人件費×製品1個当たりの時間×出荷個数
1時間当たりの人件費を3000円、製品1個当たりの時間では検品作業が15分、その他作業が10分の場合、出荷個数が100個(例1)と50個(例2)の計算は次の通りです。
ここでは話を単純にしていますが、人件費に限らず原価を配賦するためのイメージがつくかと思います。
5 練習問題
(問題1)
年間給与などが500万円の人の総額人件費を賄える売上はどのくらいですか?
なお、総額人件費は年間給与の1.5倍、売上高に対する仕入原価の割合が50%とします。
(問題1の回答)
総額人件費は「500万円×1.5」で計算します。また、総額人件費を賄うことができる売上は、「750万円/50%」で計算します。
問題1の答え:1500万円=750万円/0.5
上の数式の「0.5」は、本ケースの売上総利益率です(50%(1-0.5))。
(問題2)
製品Aの販売にかかる利益を算出するため、ABCに基づいて人件費の配賦を行います。どのような情報が必要ですか?
(問題2の回答)
この記事で紹介してきた内容に基づくと、
- 販売に関するアクティビティ
と、各アクティビティに関する、
- 1時間当たりの人件費
- 製品1個当たりの時間
- 出荷個数
となります。なお、この例では「製品1個当たり」を基準にしていますが、「製品10キログラム当たり」など、費用の発生実態に合わせて基準を変更しましょう。
以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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画像:ESB Professional-shutterstock