書いてあること

  • 主な読者:「スキマバイト」を活用する経営者、人事労務担当者
  • 課題:スキマ時間で働くという感覚がピンと来ず、労務管理のポイントが分かりにくい
  • 解決策:直接雇用か業務委託かを確認して、適切に管理する

1 シフトの穴でも助かる「スキマバイト」だけど……?

スキマバイトとは、

スキマ時間(空き時間)ができたときに単発などで行う仕事のこと

です。スキマ時間に働きたい人(以下「ワーカー」)と、人手が欲しい会社(以下「会社」)が、スキマバイトのマッチング会社(以下「業者」)の運営するスマホアプリなどでつながり、マッチングが成立すればすぐに働けるというのが一般的なシステムです。

スキマバイトの仕組み

履歴書のやり取りや面接は基本的に不要で、働き方も「1日だけ」「週に1回だけ」「がっつり長期」などさまざまなので、ワーカーは面倒な手続きなく、好きなタイミングで働けます。

会社のほうも、通常の労働者(社員)のように採用活動に時間をかける必要がなく、急な人手不足に対応しやすいというメリットがあります。また、会社の仕事を気軽に体験してもらえることから、スキマバイトをインターンシップ代わりに活用するケースもあるようです。

便利なスキマバイトですが、もし御社が活用を検討しているなら、

ワーカーとの契約が「直接雇用」なのか「業務委託」なのかに注意が必要

です。詳細は後述しますが、この点をよく確認しないままスキマバイトを使ったために、ある日突然、ワーカーから

「けがをして休まなければなりません。労災なので休業補償をしてください」

「年次有給休暇は付与されますよね」

など、想定外の申し出を受けることがあるのです。「え? 業務委託じゃなかったの?」などと慌てることがないよう、以降でポイントを確認していきましょう。

2 スキマバイトは直接雇用か業務委託か?

スキマバイトが直接雇用の場合、会社とワーカーは「労働契約」を結び、ワーカーは「労働者」となります。一方、業務委託の場合、会社とワーカーは「業務委託契約」を結び、ワーカーは「フリーランス」となります。直接雇用と業務委託の主な違いは下図の通りです。

直接雇用と業務委託の主な違い

フリーランスは労働者ではないため、「会社が稼働する場所や時間、業務の進め方などについて具体的な指示を出せない」「労働時間でなく、業務の遂行や成果に基づいて報酬を支払う」「労働保険や社会保険の対象にならない」など、労働者とは違った働き方をします。

現状、スキマバイトは直接雇用が主流になりつつありますが、業者によっては直接雇用と業務委託契約、両方を選択できるようにしています。また、なかには契約形態をきちんと説明していない業者もいるので、どちらの契約形態でスキマバイトを活用しようとしているのかを確認する必要があります。

3 業務委託だと思ったのに直接雇用でトラブルに?

本当は直接雇用なのに、業務委託だと思いこんでスキマバイトを御社が活用したとします。労働者でなくフリーランスだからと勘違いしたまま労務管理をしなかった場合、どのようなトラブルが予想されるのかを見ていきましょう。

1)労災で休業が必要になったら、3日間の休業補償が必要

労災(労働災害)とは、「業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」のことです。労災のうち、業務上の事由による労災を「業務災害」、通勤による労災を「通勤災害」といいます。

さて、スキマバイトが直接雇用の契約だった場合、業務災害の場合は原則として会社が責任を負うことになりますが、労働者災害補償保険、いわゆる「労災保険」がカバーしてくれます。労災の認定をするのは労働基準監督署です。

労災保険の給付の中には、労災で働けない間の生活を金銭で補償する「休業(補償)給付」というものがあります。ただし、これが支給されるのは休業から4日目以降です。

休業開始から3日間については、「待機分」として会社が休業補償(平均賃金の60%以上)

をしなければなりません。例えば、1日だけの単発で仕事を頼むつもりだったのに、ワーカーが労災で休業を余儀なくされたために、3日分の休業補償をしなければならなくなるといったことがあるわけです。

2)「日雇い労働者」扱いになる場合、1カ月を超えると解雇制限がかかってくる

「1日だけの直接雇用」でスキマバイトを活用する場合、そのワーカーは「日雇い労働者」扱いになります。その場合、注意が必要なのが「解雇」です。

日雇い労働者は法律上、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ず解雇することが可能ですが、

1カ月を超えて使用された日雇い労働者については、「解雇制限」がかかり、解雇予告や解雇予告手当の支払いが必要になる

のです。例えば、「1日だけの直接雇用」を1カ月続けてきた会社が、もうワーカーとの契約を打ち切りたいと思っても即時解雇は認められません。解雇予告をして30日後に解雇するか、最大30日分の解雇予告手当(平均賃金)を支払って解雇までの日数を短縮するしかありません。

もっとも、業者によっては、会社が不利にならないように、

スキマバイトに応募できる日数に制限をかけていたり、求人に応募した段階で労働条件通知書に月に上限○日などと規定したりして、解雇制限に触れないようにしているケース

があるので、不安な場合はこうした業者を活用するとよいかもしれません。

3)割増賃金や年次有給休暇の賃金支払いが必要になるケースがある

業務委託の場合、会社はワーカーに対し、業務の遂行や成果物の納品に応じて報酬を支払います。しかし、直接雇用の場合は、労務の提供(労働時間)に応じて賃金を支払わなければなりません。つまり、

仮にワーカーが時間外労働や休日労働をした場合、通常の賃金に法定以上の割増賃金を上乗せして支払う義務

があります。

また、年次有給休暇の賃金などについても注意が必要です。年次有給休暇は入社後6カ月が経過し、労働日の8割以上を出勤すると付与されますが、最近は福利厚生の一環で、入社当時から取得を認める会社もあります。いずれにせよ、直接雇用のワーカーが取得要件を満たす場合、

ワーカーの請求に応じて年次有給休暇を付与し、その分の賃金を支払う義務

があります。

なお、スキマバイトの場合、

業者が会社に代わり、ワーカーへの賃金をいったん立て替えてくれることが多い

です。これは、すぐに報酬が欲しいワーカーに即日で支払いができるようにするための仕組みです。賃金の「直接払いの原則(会社が労働者に直接賃金を支払う)」に違反しているように思うかもしれませんが、厚生労働省の「グレーゾーン解消制度」で適法との回答を得て、サービスを運用している業者もあります。ただし、業者はあくまで一時的に立て替えをしているだけで、

給与明細書の発行や賃金台帳の調製、年末調整の計算や給与支払報告書の提出など

は会社で行わなければならないので、業者や税務署などに確認して正しく運用しましょう。

4 2024年施行のフリーランス保護新法にも注意

ここまでの説明を聞いて、「業務委託なら労務管理の手間が減って、直接雇用よりも楽なのでは?」と思われた方もいるかもしれませんが、業務委託は業務委託で注意が必要です。

目下注目すべきは、2024年秋ごろに施行が予定されている「フリーランス保護新法」(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)です。この法律は、特定の会社に所属せず業務委託で働くフリーランスを保護するためのもので、

  • 会社がフリーランスに委託する仕事内容と報酬額を明示することを義務付ける
  • 正当な理由がない報酬の減額や一方的な発注取消を禁じる
  • ハラスメントの防止や出産・育児・介護への配慮といった「就業環境の整備」を求める

など、フリーランスを不利な取引から守るための規定が定められています。

また、2023年には、業務委託の運転手に「労働者性」が認められ、労働基準監督署で労災認定された事案があります。ワーカーに依頼する業務や指揮命令系統は確認しておきましょう。もし、業務委託のワーカーが「労働者」と認定されて労災補償を受けた場合、

同じ働き方のワーカーが他にもいると、まとめて労働保険料を徴収される可能性もある

ので注意が必要です。

5 ワーカーの契約形態に関係なく常に誠実な対応を!

スキマバイトの多くは、

仕事を終えたワーカーが会社の評価やレビューをアプリなどに書き込めるシステム

になっています。ワーカーの契約形態に関係なく、1人のビジネスパーソンとして誠実な対応をしないと、不名誉な書き込みをされることもありますので、注意しましょう。一方で、

コンプライアンス意識の低いワーカーには、毅然と対応することも大切

です。例えば、ドライバー業務を頼んだワーカーが、会社名の入った車両で道路交通法などに違反すれば、当然会社の評判にも影響します。人手不足を補填するためにスキマバイトを使ったはずが、さらなる人手不足を招くといったこともあり得ます。

以上
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年5月10日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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