書いてあること

  • 主な読者:管理職に対して、納得感のある人事評価を実施したい経営者
  • 課題:所属部門の業績や、部下指導力など本人の職務遂行能力以外の要素も考慮しなければならず、人事評価が難しい
  • 解決策:業績や部下指導力を評価項目に組み込んだ人事評価表を用意する

1 人事評価制度の目的

「人事評価(人事考課)制度」(以下「人事評価」)とは、評価期間(通期や半期など)における従業員の活動(業績など)を一定のルールに基づいて評価し、その結果を昇進・昇格、賃金・賞与査定などの人事処遇に反映させる仕組みです。

人事評価の目的は、従業員のモチベーションの維持・向上や、経営戦略などの企業の方針に連動した従業員の能力開発にあります。しかし、評価が適正に行われないと、従業員のモチベーションの低下や、経営戦略の実行に支障を来す恐れがあります。

特に管理職の人事評価は複雑です。本人の職務遂行能力だけでなく、所属部門の業績や、部下指導力などを総合的に判断して評価を下さなければなりません。そこで、本稿では、管理職向けの評価に焦点を当てた人事評価表の基本的な作成手順や運用上の留意点を中心に紹介します。

2 人事評価制度の基本

企業によって運用が異なりますが、一般的な人事評価の位置付けは次の通りです。

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期首に、従業員は「1.企業の方針」に基づいて「2.目標設定」を行います。期中(評価期間)に、従業員は目標を達成するための活動をします。期末に、「3.人事評価」として従業員の活動(業績など)を評価し、その結果を「4.人事処遇」に反映させます。 人事評価の実施方法や評価期間などの主なルールは、就業規則などの社内規程に定められています。人事評価で利用される代表的なツールは次の通りです。

  • 職種・等級表:職種と職階(等級)をまとめたもの
  • 等級要件書:部長や課長など職階ごとに求められる要件をまとめたもの
  • 人事評価表:人事評価の項目や要件をまとめたもの

また、評価区分には、業績評価・役割評価・能力評価・コンピテンシー(高業績者の行動特性)評価・勤怠評価などがあり、人事評価表にはこれらの評価基準がまとめられています。最近は、「人望」を評価基準に加える企業もあります。

3 人事評価表を作成する前の準備

1)理由の明確化

人事評価の新規導入や既存制度の見直しをする場合は、その理由を明確にする必要があります。例えば次のような理由が考えられ、その内容に応じて評価区分(業績評価など)やウエート付けが決まってきます。

  • 企業が成長期に入り、社長一人で評価するのが難しくなったため
  • 事業領域が拡大し、既存の人事評価の内容を見直す必要が出てきたため
  • 従業員の高齢化に伴い、人事ポストを整備・再構築する必要が出てきたため

例えば、企業が成長期に入り、社長一人で評価するのが難しくなったことに対応する場合、業績評価を重視して従業員の数字に対する意識を高め、さらなる成長のエンジンにするという考え方があります。評価方針は相対評価とし、従業員の競争意識を高めるのも効果的でしょう。また、全体的にシンプルな仕組みにして、人事担当者が運用しやすいようにすることも重要です。

2)職種・等級表の作成

人事評価の新規導入や既存制度の見直しを進める理由を明確にするのと並行して、企業の現状を把握するために職種・等級表を作成します。これは、企業内の職種や職階を整理したものです。企業の規模や組織形態(機能別組織、事業部制など)によって異なりますが、例えば、横方向に営業・製造・研究などの職種、縦方向に本部長・副本部長・部長などの職階を記載して整理します。

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このような職種・等級表を作成したら、それぞれのマス目に該当するポジション(「営業部門の本部長」など)がどのような仕事をしているのか、職務分析(企業にある各職務の内容、難易度、所要時間、他職務とのつながりなどを分析すること)によって職務内容を明らかにします。

その結果、必要に応じて職種や職階の一部を統廃合し、組織をシンプルにします。なお、企業によって異なるものの、等級は5~10等級とするケースが多いようです。

3)等級要件書の作成

職種・等級表が確定したら、各等級(各職階)の要件を明確にするための等級要件書を作成します。これは、人事評価の際に従業員の昇格などを判断する重要な指標です。

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一般的には、部長職以上の職階(図表3では5等級以上)になると、職務を確実に遂行する能力は前提条件となっており、それよりも新しい事業の立案など、組織を変革するリーダーとしての役割が強く求められるようになります。

同様に課長の職階(図表3では4等級)になると、より高度な職務を担当しつつ自身の研さんに努めるとともに、部下育成の役割も強く求められるようになります。

4 人事評価表の基本的な作成手順

1)基本的な考え方

前章で紹介してきた取り組み(理由の明確化など)との一貫性を保ちながら、人事評価表を作成します。その際に意識するポイントは次の通りです。

  • 評価区分(業績評価・能力評価など)やそれぞれの評価項目は、人事評価の新規導入や見直しの理由と、ある程度一貫性を持たせる必要がある
  • 職種・等級表に応じて人事評価表の種類を検討する。例えば、職種ごと(事業部ごと)・等級ごと・評価期間ごとなどの区分で複数の人事評価表を作成する
  • 等級ごと(管理職用・一般従業員用など)の人事評価表を作成する場合は、等級要件書の内容を参考にしながら評価項目を検討する

2)評価区分と評価項目

一般的に評価区分には、業績評価・役割評価・能力評価・コンピテンシー評価・勤怠評価などがあります。採用する評価区分を決めて、人事評価表にまとめます。

まずは、人事評価表のイメージを確認してみましょう。

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このイメージでは、評価区分を業績評価と能力評価にしています。実際に採用する評価区分は企業によって異なりますが、一般的には次の3つが中心になります(名称は企業によって異なります)。

  • 業績評価:部門目標や個人目標の達成度合いによって評価
  • 能力評価:発揮した能力、潜在的な能力を評価
  • 行動評価:仕事に対する姿勢、情意などを評価

評価区分・評価項目・評価基準の一例は次の通りです。

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評価項目は各企業の意向によって大きく異なります。人事評価表の事例を紹介した書籍などがあるので、そうしたものを参考にしながら決めていくとよいでしょう。

3)ウエート付け

ウエートとは、評価区分や評価項目の中で企業が何を重視するのかを示す数値です。同じA評価でも、ウエートの大きい評価区分や評価項目のほうが高い点数になります。

ウエートは、評価項目と同様、各企業の意向によって異なる他、評価の目的などによっても変わります。

例えば、昇給評価では、業績評価、能力評価、行動評価の結果を総合的に判断して決定することがあります。理由としては、短期的な業績のみならず、中長期的な視点からも従業員の能力や仕事に取り組む姿勢をバランス良く評価する必要があることなどが挙げられます。

一方、賞与評価では、業績評価のみを評価の基準とすることがあります。理由としては、「賞与は業績の良いときには多く、悪いときは少なく支給する」という、いわゆる業績連動方式の賞与支給を行っている企業が多いことなどが挙げられます。

ただし、業績連動方式の賞与は、支給額の変動幅が大きくなりがちで、従業員に不安を与えやすい側面もあります。そのため、近年は従業員の定着率向上のため、業績のウエートを見直す企業も少なくありません。

実際にウエート付けを行う際は、職種・等級表や等級要件書を確認しながら等級ごとの役割を明確にし、それと矛盾のないようにする必要があります。

5 人事評価の運用上の留意点

1)評価方針の決定

人が人を評価する人事評価では、不公平感を完全に払拭するのは困難です。しかし、企業ができるだけ透明・公平な制度を目指していくことは重要です。そのために必要な取り組みの1つが、評価方針の決定です。

人事評価の方針には、絶対評価と相対評価があります。絶対評価は、評価基準に照らし、他者を考慮せずに被評価者を評価する方法です。相対評価は、評価基準に照らし、被評価者と他者を比較しながら序列を付ける方法です。絶対評価は、評価基準を厳密に定義する必要がありますが、客観的な評価が可能です。相対評価は、絶対評価ほど手間は掛かりませんが、主観的な評価に陥ることがあります。

一般的に、一次評価(考課)では絶対評価が実施されるケースが多いといわれています。これは、絶対評価では他者に関係なく被評価者を純粋に評価することができるため、評価結果から被評価者の強み・弱みを明らかにして、人材育成につなげようとする企業が多いからだと考えられます。

一方、最終評価では相対評価が高くなる傾向にあります。これは、企業の中には、次のような人事評価結果の分布をあらかじめ決めているところが少なくなく、その分布通りに収めるために相対評価で序列を付ける必要があるためと考えられます。

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2)評価者が陥りやすい傾向

人事評価においては、次のように評価者が陥りやすい代表的な問題傾向があります。企業は評価者訓練を実施して、こうした問題傾向を防止する必要があります。

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3)厳格な運用

人事評価は、ルールに従って厳格に運用する必要があります。特に、部課長クラスの従業員は業績評価が中心となるため、期首の目標設定の段階で企業の方針を十分に説明し、それに合った目標を設定します。

また、人事評価の結果についても、ある程度は被評価者にフィードバックし、来期に向けてモチベーションの維持・向上を図る必要があります。特に、昇格人事の取り扱いは重要です。部課長ともなれば、その企業における自身のキャリアを本気で考えています。「何をすれば昇格できるのか」を明確にして、可能な範囲でその基準を公開することは、部課長のやる気を高めるとともに、透明な人事評価を実現する上で重要です。

ただし、一度基準を公開すれば、以降は原則としてその基準通りの運用をしなければならなくなります。そのため、公開する範囲は慎重に検討する必要があります。

4)早期定着

人事評価の新規導入や見直しによって新しい人事評価をスタートさせると、結果として、人事処遇でそれまでとは異なる格差が生じてきます。企業は、新しい人事評価をスタートする目的や、その設計について、繰り返し部課長を含めた従業員に対する説明会を開き、企業への早期定着を図っていくことが重要です。

以上(2018年12月)

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画像:unsplash

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