書いてあること
- 主な読者:部下のモチベーションを高めたい上司
- 課題:各人によってモチベーションの要因が異なる
- 解決策:2要因理論と欲求段階説を意識して意見を出させる環境づくりや、普段のコミュニケーションを充実させるなどを、いま一度見直す
1 モチベーションは人それぞれ。理論で考え多数派を取る
いつの時代も、社員のやる気を引き出すのは難しい問題です。一昔前なら臨時ボーナスやインセンティブの提供、新しいポストへの抜てきなどがモチベーションにつながりましたが、今は必ずしもそうではありません。「自身の成長」や「ワークライフバランスの重視」など、給与や昇進とはまた違うものをモチベーションにしている人も多いです。
問題は、価値観が多様化しすぎて、社員一人一人の異なる欲求を全部満たすことはできないという点です。だからこそ、この記事では、
人間の欲求を理論で考え、多数派の欲求を押さえること
をご提案します。具体的には、人間の欲求に関する理論として有名な、
- 2要因理論:職場での特定の要素によって社員が不満や満足感を持つ
- 欲求段階説:人間はより高い次元の欲求の達成に向けて行動する
の2つのセオリーと、これらのセオリーを実際の職場で活かしていくポイントをご紹介します。
2 給与は実はモチベーションにつながりにくい?
1)まずは2つのセオリーを押さえよう
1.ハーズバーグの「2要因理論」
心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した、仕事に対する不満の要因となる「衛生要因」と、満足をもたらす「動機付け要因」に注目する理論です。
衛生要因には、満たされないと不満につながるが、満たされても満足しにくいという特徴があり、動機付け要因には、満たされると満足しやすくなるが、満たされなくても不満にはつながりにくいという特徴があります。
2.マズローの「欲求段階説」
アブラハム・マズローが提唱した、人間の持つ内面的欲求を5段階に分けて考える理論です。
第1段階「生理的欲求」が最も低位、第5段階「自己実現の欲求」が最も高位で、人間は低位の欲求が満たされると、より高位の欲求が生じるようになるという考え方に立っています。
2)給与を上げるだけでは限界がある
この2つのセオリーを通して、まず皆さんにお伝えしたいのは、
給与は、意外とモチベーションにつながりにくい
ということです。
2要因理論で考えると、給与は「衛生要因」に当たります。衛生要因には前述した通り、満たされないと不満につながるものの、満たされても満足しにくいという特徴があります。つまり、
不満が出ないレベルの給与は払わないといけないが、多く払ったからといって、モチベーションにつながるわけでもない
ということです。
また、欲求段階説に立った場合、給与は主に第1段階から第3段階までの欲求を満たすことはできますが、第4段階や第5段階の欲求とは直接の関わりを持ちません。
3)結論:達成感や承認欲求に着目する
給与がモチベーションにつながりにくい一方、
達成感や承認欲求が満たされる組織風土は、モチベーションにつながりやすい傾向
があります。2要因理論でいえば「動機付け要因」、欲求段階説でいえば第4段階「尊厳の欲求」や第5段階「自己実現の欲求」といった高位の欲求です。
動機付け要因は、前述した通り満たされると満足しやすくなるが、満たされなくても不満にはつながりにくいという特徴があります。また、欲求段階説で、高位の欲求が満たされる状態というのも満足感が高い状態です。
ですから、会社は、
- 社員の人間的成長や満足の向上など、強い動機付け要因を満たすこと
- より高位の欲求である第4段階「尊厳の欲求」や第5段階「自己実現の欲求」を、普段の仕事の中で満たす方策を考えること
です。以降で、そのための方策を紹介します。
3 達成感や承認欲求が満たされる組織にするには?
1)動機付けはまず「意見を出せる」環境づくりから
組織のモチベーションを高めるには、まず仕事に関する意見を自由に言える環境を整えましょう。「風通しの良い環境」は前向きになりやすく、一丸となって目標に向かおうという雰囲気が生まれます。管理者(経営者や管理職)に求められる役割は次の通りです。
1.普段のコミュニケーションを充実させる
管理者から元気にあいさつをするのはもちろん、毎日、社員に何気なく声を掛けるようにしましょう。話題は、堅苦しくないカジュアルなもので、社員が答えやすいものにします。コンサートに行った、飲み会があったなど前日の社員の予定を聞いておけば、「楽しかった?」というように気軽に声が掛けられます。
また、会話の“蚊帳の外”にいる社員に気を配るのも大切です。特定の社員同士がいつも盛り上がっていて、他の社員があまりよく思っていないようなときは、話を少し抑えます。また、できればよく思っていない社員も、話の輪に入れるように管理者が導くことも大切です。
2.社員に意見を出させる
管理者は、会議はもちろん、ちょっとした打ち合わせでも、できるだけ多くの社員に意見を出してもらうようにしましょう。ほとんど意見を出さない社員には、直接問い掛けます。その際は、次のような工夫をしましょう。
- いきなり具体的な案を求めるのではなく、先に出ている意見をどう思うかなど、答えやすい質問から誘導する
- 社員が出した意見は聞き流すことなく、まず肯定的に受け止める
2)挑戦しやすい環境をつくる
モチベーションが高い社員には、希望する仕事や新しい仕事にどんどん挑戦してもらいましょう。もちろん、投げっ放しではなく、必要に応じて管理者が仕事の方向性を示したり、相談に乗ったりします。
また、挑戦させた仕事が成功したら、きちんとその社員を褒め、その成功を喜び合いましょう。逆に失敗しても決して頭ごなしに怒鳴ったりせず、共に失敗した原因や対策を考えましょう。組織全体に仕事に対する挑戦意欲が広がれば、モチベーションも高まります。
3)組織の目標・行動指針の明確化と落とし込み
組織の雰囲気が良くなってきたら、組織の向かうべき方向性(組織の目標、目標達成のための行動指針)を提示して、全体の意識を統一していきます。これをはっきり提示しないと、社員が組織の方向性からずれた努力をしてしまう恐れがあります。せっかく組織のために頑張っても評価されなければ、達成感は満たされず、モチベーションの向上も見込めません。
ですから、管理者は組織の方向性をいかに分かりやすく伝えるかが重要です。目標や行動指針が抽象的な場合、具体的な数値を使って「見える化」するなどの工夫をしてみましょう。
4)組織の役割と責任範囲の明確化
前向きで積極的な組織には仕事が集まります。ただ、仕事が集まりすぎる状態が長く続くと、社員の間に、「なぜ私たちがここまでしなければならないんだ」という不満が広がります。
こうならないよう、管理者は組織の役割と責任範囲を明確にします。決められた範囲を超える仕事が他の組織から集まってきて負荷が掛かりすぎるようなら、他の管理者とも相談して、仕事の量を調整しましょう。
5)必要な権限の付与
組織の役割と責任範囲を決めたら、次は組織(実際は社員ベース)に対して権限を委譲します。権限の委譲は信頼と期待の証し、組織のモチベーションを高めるきっかけになります。
一方、権限の委譲はプレッシャーになることもあります。そのため、権限を委譲するのは、その職務を遂行する能力があり、それを任せても業務過多にならない社員ということになります。
6)組織間の良好な関係の構築によるモチベーション低下の防止
権限の範囲内の行動であっても、例えば一方の組織がもう一方の組織に無理をさせ続けると、無理をさせられた組織に不満がたまります。典型的なのは、営業と現場(製造あるいはサービス提供部門)の対立です。
営業担当者が顧客からの急な依頼を受け、現場に短い納期で製造を依頼することはよくありますが、現場にとっては負担です。モチベーションが高い現場でも、急な依頼が続く場合や、営業担当者が「顧客からの依頼なのだからやってもらわないと困る!」といった態度を取ると、組織間でギクシャクした雰囲気になります。
別の組織に負荷を掛ける場合は、無理をお願いしていることを忘れず、負荷を掛けることになった経緯と理由をしっかりと説明しなければなりません。さらに、組織間で普段から互いに労をねぎらう、コミュニケーションを取るなどして良好な関係を保っておくことが必要です。
このように、小さな配慮を積み重ね、関連する組織同士が良好な関係を保っておくことで、それぞれの組織は気持ち良く仕事ができます。管理者は、他の管理者と良い関係を築くのはもちろん、大きな仕事がひと山越えたときには、関連する組織の社員の労をねぎらったり、組織間で社員同士が交流する場を設けたりするとよいでしょう。
以上(2022年5月)
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画像:Studio Romantic-Adobe Stock