書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と会社や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 社長の口癖「“経営的視点”を持て!」

今回から新シリーズ、『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』をスタートします。

私は普段から一般企業様や各種団体様より講演の依頼をいただくのですが、最も多くご指名をいただくテーマの1つが、この「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」です。

読者の皆さんの仕事上の立場はさまざまでしょう。一般社員、管理職、専門職、経営者…。

社長であれば“経営的視点”は当然身に付けておくべきであり、役員を含めた幹部クラスまでは求められても致し方ないと思えるでしょうが、それ以外の立場の方も「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。

「“経営的視点”を持て!」が、社長の口癖になっている会社もあるようです。

求められた側はその場でうなずきはするものの、「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」といった疑問が沸々と湧いていることでしょう。

上から求められるたびに、何か行動しないと怒られるのではないかとひやひやしつつ、疑問符が次々と浮かんで心はモヤモヤするばかりです。

片や社長の皆さんも、幹部をはじめ広く社員に自分と同じような“経営的視点”を持って仕事に取り組んでもらいたいと願いながらも、事あるごとに全く分かっていないと感じてイライラしたり、期待しても無理なのかと逡巡(しゅんじゅん)したりしているのではないでしょうか。

今シリーズでは、社員の皆さんが「“経営的視点”を持て!」と上から言われて抱く疑問にお答えしながら、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを事例も交えながらご紹介していきます。

“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることがわかっていただけるはずです。

2 社長が“経営者の視点”を求めているとしたら無理な話

先ほど「社長の皆さんも、幹部をはじめ広く社員に自分と同じような“経営的視点”を持って仕事に取り組んでもらいたいと願い」と書きましたが、ここでいう社長の求める“経営的視点”は、往々にして“経営者の視点”のようなのです。

もしも社長が社員に対して、“経営者の視点”を求めているとしたらそれは無理な話だと私は知っています。たとえ相手が一般社員でなく、役員を含めた幹部クラスであってもです。

なぜなら“経営者の視点”は、基本的に会社のトップとしての経営者になってこそ身に付けられるものだからです。
あるエピソードをご紹介しましょう。私がクライアントである社長と2人で軽く飲んだときの話です。

彼は大学を卒業後、他人の飯を食うため数年間大手企業に勤めた後に父親の会社に入社。現場を経験しながら上り詰め、5年くらい前からナンバー2の専務として、社長である父親を支えてきました。そして約1年前、歴史ある会社のバトンを完全に渡され、代表取締役として社長に就任しました。

「○○さんは社長になられて1年ですが、一番変わったことは何ですか?」
彼は即答しました。
「ポジション、つまり立ち位置ですかね。それまで務めていたナンバー2である専務と社長のポジションがこんなにも違うとは。社長になって初めて分かりましたよ」
「専務時代は社長が決めたことを具体化するのが私の仕事でした。社長は指示を出しては文句を言うだけで、自分では何もやらない。結局は専務の自分が全部やっている、自分が社長みたいなものだと思い込んでいたのですよ。でも社長になってみると、それはただの思い込みだったことがよく分かりました(笑)」

3 “経営者の視点”は社長にならないと分からない

「ちなみにそのことは、社長になった瞬間に分かったのではないですか?」と私が聞くと、大きくうなずかれて「いや、その通りです。なった瞬間ですね、不思議なものです」と答えました。

そうなのです。

“経営者の視点”は、基本的に会社のトップとしての経営者になればおのずと身に付くものなのです。

先代が代表権のある会長として背後に君臨している間はまだダメで、後ろにもう誰もいないトップになった瞬間に、目の前に突如表れるのが“経営者の視点”です。

簡単に言ってしまえば、社長は経営に関わるヒト・モノ・カネ全ての最終責任を負っているということなのですが、それは新入社員でも何となく理解できることでしょう。しかしながら

実際社長になってみると、最終責任を負うということの重みのリアリティーが全然違ってのしかかってくるのです。

それは会社の規模には必ずしもよりません。大手でも限られた数年だけ社長のバトンを受け取って次の人に渡せば上がりになる会社や、最終責任者としてオーナーが別にいる会社の社長になったとしても実感できないことでしょう。

逆にあなたが今のポジションをなげうって、自ら会社を設立登記し、1人でもいいので他人を雇った瞬間に“経営者の視点”を体験できるだろうと想像します。

従業員1人と1000人ではもちろん重みは違うでしょうが、最終責任を負っているという点では同じだからです。

「社長と副社長の距離は、副社長と新入社員との距離より大きい」

ナンバーワンで最終責任者としての社長の“経営者の視点”は、ナンバー2の副社長や専務の視点とは比べものにならないくらい違うという意味です。

社長の身近にいるナンバー2たちは、本当はうすうす社長が見ている“経営者の視点”に気付いているのかもしれません。けれど、一緒に負うと心底しんどそうだし、自分は所詮ナンバー2なのだからまだいいやと逃げて見て見ぬふりをしているのです。

ナンバー2だとなぜそう思えるかというと、まさに後ろに社長がいるからです。後ろに誰もいない社長は、最後は自分で決断を下さなければいけないし、最終責任を負わなければならない。でも副社長や専務は会社の一大事に1人で決断を下せないし、責任も負えないのが現実なのです。この違いは一言で言えたとしても、ものすごく大きい。

4 あえて区別するべき、“経営者の視点”と“経営的視点”

私が以前勤めていた会社では、マネジメント研修事業も扱っていて、この「“経営者の視点”を身に付ける研修」を開発していました。現場の営業担当者が経営者に直接会って交渉することが多く、社長と同じ“経営者の視点”を持てれば武器になると考えたのです。

プログラムを開発すると、すぐに自社の社員向けに研修を実施することになり、社内で選抜されて、その研修の講師の訓練を受けることになりました。私も突然その1人に呼ばれて青天のへきれき、初めて研修講師としてのいろはから教わり、同時にまず私自身が“経営者の視点”を身に付けることを求められたのです。

ナンバー2のように毎日そばで社長を見ているわけでもなく、私自身が社外の社長と直接お話しした経験も十分にはありません。ヒト・モノ・カネなど経営に関する基本的な知識も当時あまり身に付いてはいませんでした。

異動扱いで業務の現場を離れて終日訓練を繰り返すこと数カ月、苦労して苦労して、ようやく“経営者の視点”がうっすらと分かってきました。トレーニング期間の後半では、実際に社内を巡り、講師として1、2日コースの研修を実施して、受講者に“経営者の視点”を身に付けてもらうことになりました。

研修のノウハウを詰め込んでトレーニングを重ねたところで、私が苦しみ抜いてようやく手に入れた“経営者の視点”を、初めて会う受講者に1日や2日で伝えられるものでしょうか。

終了時には毎回反応が気になりました。一番多かったのは「何となく分かったような気がする」という感想でした。

私が出した結論は、一般の人に“経営者の視点”を求めるには無理があるということでした。

“経営者の視点”を身に付けるためのプロセスは、時に胸が急に締め付けられるような苦しさがあったり、無意識に冷や汗をいっぱいかいていたりするものです。そんな体験をわざわざしないと得られない“経営者の視点”が使える場面といえば、社長と直接経営レベルの話をするときくらいのもの。そうした場面が多くの人の日常にあるでしょうか?

“経営者の視点”と“経営的視点”とは言葉は似ていますが、あえて区別するべきです。

“経営者の視点”は最終責任者としての社長の視点であり、起業を含めて社長になる機会があれば誰でも身に付けられますが、そうでなければ無理に身に付ける必要はありません。翻って “経営的視点”なら、ナンバー2といわず、中間管理職や一般社員、新入社員にも比較的簡単に身に付けられます。

第1回のタイトル「“経営的視点”って何ですか?」への答えは、次回以降で順にご紹介していきましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。

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以上(2022年8月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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画像:NicoElNino-shutterstock

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