2017年1月から加入できる対象が大きく広がった個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)。個人の資産形成手段としてのイメージが強いのですが、企業の福利厚生(退職金・企業年金の代替)や、経営者が老後資金を蓄える手段としても非常に有効です。
iDeCoの最大の特徴は、長期にわたる手厚い税制上の優遇措置です(注)。原則として60歳にならないと給付を受けられないため途中の引き出しはできませんが、この点も他の制度と併用することで解決できます。
(注)課税所得がない方は掛金の所得控除が受けられないなど、税制上の優遇措置が受けられない場合もあります。また、今後の税制改正の動向によっては、税制優遇の内容が変更となる可能性もあります。
なお、経営者や役員、個人事業主がiDeCoに加入する場合の条件やメリットは次の記事でまとめています。
1 iDeCoの基本を確認
iDeCoの概要は、「国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」(以下「公式サイト」)で分かりやすく説明されています。ここでは、iDeCoの特徴を把握するために押さえておきたい、基本的なポイントを簡単に紹介します。
1)「401k」で注目された確定拠出年金の個人版
iDeCoは、2001年に制定された確定拠出年金法に基づく制度で、2002年1月1日から施行されています。確定拠出年金(401k)には、企業が社員を対象に導入する「企業型年金」と、国民年金基金連合会が自営業者などを対象に運営する「個人型年金」があります。iDeCoは、後者の個人型年金の愛称です。
確定拠出年金の特徴は、加入者が自己責任で掛金の運用指図をし、将来の年金額を積み立てる点にあります。この点に加えて、税制優遇を受けながら老後の資金を蓄えられることが注目されています。
2)iDeCoに加入できる人と掛金
2017年1月から、基本的に20歳以上60歳未満の公的年金被保険者は、原則誰でもiDeCoに加入できるようになりました。
なお現在は、60歳を超えると掛金拠出はできませんが、改正により2022年5月からは国民年金被保険者(国民年金任意加入者や会社員など第2号被保険者)であれば加入可能となります。
掛金の上限はその人の状況によって変わるので、公式サイトの掲載情報を確認してみましょう。
なお、現在は企業型DCに加入している場合、労使合意がなければiDeCoに加入することはできませんが、改正により、2022年10月からは原則加入できるようになります。つまり、多くの人が企業型DCとiDeCoとの併用を選べるようになるのです。
改正後は、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の合計限度額は、次の通り変わる予定です。
- 企業型DCのみ加入:5万5000円
- 企業型DCと確定給付型年金に加入:2万7500円
ただし、企業型DCにおいて加入者掛金を拠出(マッチング拠出)している場合は、2022年10月以降も現在と同様、iDeCoに加入はできません。
3)手厚い税制優遇
iDeCoでは、掛金の拠出時、運用時、給付時全ての局面で、税制上の優遇措置が受けられます。簡単にまとめると、次のようになります。基本的な仕組みは、拠出時は非課税、運用時は課税の繰り延べ、給付時は課税されるが優遇措置が受けられるというものです。
- 拠出時:掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象となる。ただし、他の社会保険料と異なり、掛金は配偶者の所得から控除することはできない(加入者本人の所得からしか控除することができない)点に留意。
- 運用時:運用期間中、運用益が非課税となる(課税の繰り延べで、いわゆる「複利効果」が得られる。退職年金等積立金に対して課される「特別法人税」は2020年3月31日まで課税凍結中。なお、「令和2年度税制改正大綱」において2023年3月31日まで延長することが盛り込まれている)。
- 給付時:老齢給付金を一時金で受け取るときは「退職所得控除」、年金で受け取るときは「公的年金等控除」の対象になる。
4)給付の種類
iDeCoの給付は、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金の3つです(脱退一時金を考慮しない場合)。中心は老齢給付金で、原則として60歳以降に受け取ることができます。障害給付金や死亡一時金は60歳未満でも受け取れます。
また、老齢給付金については、加入者等であった期間(通算加入者等期間)に応じて、受給開始年齢が異なります。60歳到達時点での通算加入者等期間が1年間だけのケースでは、受給開始年齢は65歳から70歳になるまでの間となります。
前述の通り、2022年5月からは国民年金被保険者(国民年金任意加入者や会社員など第2号被保険者)であれば60歳以降も掛金拠出が可能となるため、通算加入者等期間が短い場合でも該当する人は延ばすことが可能です。
また2022年4月から、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)における老齢給付金の受給開始の上限年齢は70歳から75歳に引き上げられます。
なお、下記図表2で「引き出せない期間」とありますが、この期間内は掛金を拠出できないため、掛金の所得控除を受けることはできません。
受け取り方は、分割払い(年金)だけでなく一括払い(一時金)を選択することができます(一時金と年金の併用もあります)。しかし、詳細は口座を開設する運営管理機関(金融機関)によって異なる場合があるので、運営管理機関をどこにするのかを検討する際に確認しておきましょう。
なお、途中でiDeCoから脱退した場合、脱退一時金を受け取れることがあります。ただし、脱退一時金の支給要件は2017年から厳格化され、現在は実質的にこれを受け取る人はかなり限られますが、改正により2021年4月から段階的に受給要件が緩やかになります(ここでは詳細は割愛します)。
2 中小企業の経営者が利用しやすいiDeCo
1)小規模企業共済との併用
中小企業の経営者がiDeCoを利用するケースを考えてみます。
現在、中小企業の経営者が老後の資産形成のために利用することが多い制度は、小規模企業共済です。掛金は、月額1000円から7万円までの範囲で選択でき、全額所得控除の対象になります。
経営者にとって心強いのは、任意解約が可能(掛金を12カ月以上払い込んでいる場合から解約金あり。20年未満は元本割れ)なことです。加えて、万一のときは貸付も受けられます(定められた掛金を納付している場合。掛金の納付月数に応じて貸付限度額は異なる。一般貸付利息は年利1.5%)。掛金を事業資金に回せる柔軟性は注目すべきメリットです。
さらに、iDeCoを小規模企業共済と併用することでメリットが大きくなります。具体的には、手厚い税制上の優遇措置が受けられ(例えば、iDeCoと小規模企業共済との掛金の合計が全額所得控除)、万一のときは掛金を事業資金に回すことができ(小規模企業共済の一般貸付)、じっくりと老後資金を蓄えられる(iDeCoの老齢給付金は原則として60歳まで受け取れない。また、税制上の優遇措置も手厚い)からです。
掛金の税制上の優遇措置について、簡単な例を挙げてみます。iDeCoで月2万3000円(企業年金がない場合)、小規模企業共済で月7万円の掛金を拠出した場合、年間111万6000円((2万3000円+7万円)×12カ月)が所得控除の対象となります。
仮に所得税率を20%、住民税率を10%とした場合、掛金の33万4800円が年間の節税額となります。同条件で20年間加入すれば節税額は約670万円、30年では約1004万円となります(将来の税制改正などを考慮していない単純な計算例です)。
2)倒産・破産しても守られる年金資産
経営者が常に考えているのが、自社の倒産リスクです。万一、経営する会社が倒産して経営者が負債を背負うことになったとしても、公的年金(国民年金や厚生年金保険)と同様に、iDeCoも“没収”されません。
ただし、国税滞納処分による場合は、iDeCoの受給権、小規模企業共済の共済金・解約手当金の受給権差押から逃れることはできません。
3 受取時のタイミングに注意が必要
前述した通り、iDeCoの老齢給付金は、一括払い(一時金)で受け取ると退職所得控除、分割払い(年金)で受け取ると公的年金等控除の対象になります。
退職所得控除は、iDeCo・企業型確定拠出年金の掛金拠出期間に応じて控除額が大きくなり(勤務年数のほうが長い場合は勤務年数が優先となる)、掛金拠出期間が20年までは1年当たり40万円、21年目から1年当たり70万円に増額されます。例えば、掛金拠出期間が25年の場合、退職所得控除額は1150万円(40万円×20年+70万円×5年)になります。従って、iDeCoで受け取る一時金が1150万円以下であれば、全額非課税となります。
ただし、会社から別に役員退職慰労金が支給される場合は、注意が必要です。iDeCoと役員退職慰労金を同じタイミングで受け取る場合に合算され、総額が退職所得控除額を上回るケースが出てきます。この場合、原則、総額から退職所得控除額を差し引いた金額の1/2に所得税等がかかります(注)。なお、所得税率は累進課税のため受け取る金額により税率が変わります。
(注)役員としての勤続年数が5年以下の場合は、この計算式が適用されません。詳細については国税庁ウェブサイトでご確認ください。
一方、年金で受け取る場合も収入金額によって控除額が変わります。iDeCoに加え国民年金や厚生年金保険、さらに企業年金等がある場合は、それらの年金も含めた金額が収入金額として計算されます。65歳未満では年間60万円、65歳以上では年間110万円を超える(注)と、超えた分に所得税等がかかります。
(注)2020年分以後の公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1000万円以下の場合。なお、1000万円を超える場合には、所得税等が係る収入金額が異なります。詳細については、国税庁ウェブサイトでご確認ください。
4 運営管理機関(金融機関)の選び方
最後に、運営管理機関の選び方について簡単に触れておきます。iDeCoに加入すると、運営機関に口座を開設します。iDeCoは、原則として60歳にならないと給付を受け取れません。また、途中で別の運営管理機関に資産を移すと不利になることもあるので、最初の運営管理機関とは長い付き合いになります。そのため、慎重に選択することが大切です。
1)手数料
運営管理機関を選ぶ際の最も基本的なポイントは、各種の手数料です。手数料には「加入時(初回のみ)」「運用期間中かかる費用(毎月)」「受取時(振込の都度)」の3つがありますが、加入時と受取時のものは基本的にどこも同じなので、あまり意識しなくてよいでしょう。
これに対して、運用期間中にかかる費用は毎月かかるものであることに加え、運営管理機関によって数倍の差があるので、慎重に確認しなければなりません。中には、一定期間、管理手数料が無料の運営管理機関もあるので、長期的に見て手数料が低い運営管理機関を選択するのが基本です。また、他の運営管理機関に資産を移す際の手数料も運営管理機関によって違うので確認しておきましょう。
運営管理機関ごとの手数料などの違いは、確定拠出年金教育協会「iDeCoナビ(個人型確定拠出年金ナビ)」などで比較することができます。
2)信託報酬
上記の手数料に加えて、信託報酬も確認しましょう。信託報酬とは、資産運用を運用会社に任せるための費用であり、運営管理機関によって異なります。なお、一概には言えませんが、一般に販売されている投資信託の場合よりも、iDeCoの信託報酬のほうが有利なことが多くなっています。
iDeCoのような長期の積立投資では、加入年数が長くなればなるほど、また積立金が多くなればなるほど、手数料よりも信託報酬の影響のほうが大きくなるので、運営管理機関選びにおいては、信託報酬の低い運用商品ラインアップを取りそろえた運営管理機関を選ぶのがベターです。
(注)iDeCoにおいて定期預金や保険で運用する場合、信託報酬はかかりません。
3)商品ラインアップ
iDeCoでは、運営管理機関が用意している商品ラインアップの範囲内でしか運用商品を選ぶことができません。運営管理機関が取り扱っている運用商品を事前に確認し、自分が想定している運用商品が取り扱われているかを確認しましょう。
また、途中で運用商品の配分変更やスイッチングをすることも考えられるため、投資信託(バランス型、債券・株式型など)の他に元本確保型商品(預金・保険)なども含め、商品ラインアップを確認しておくことが大切です。
4)サービスの使いやすさ
手数料と商品ラインアップのバランスを前提に、後は相談やシミュレーションなどのサービスが充実している先を運営管理機関とするのがよいでしょう。手軽に相談できることは、特に投資に不慣れな人にとっては心強いものです。
(注)法令上の規制により、iDeCo加入後の資産運用の相談などは、運営管理機関の一般の店頭窓口では対応できない場合があります(運営管理機関のコールセンターでは受け付けできます)。りそな銀行では全店の窓口で運用相談や商品変更手続きなどにも対応しており、土日・祝日に営業しているセブンデイズプラザもあります。
なお、iDeCoに加入している従業員の掛金に、企業が掛金を上乗せできる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度もあります。詳細は、iDeCo+(イデコプラス)ハンドブックで、ご確認ください。
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。
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