書いてあること
- 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
- 課題:事前対策を講じたいが、何をチェックすればいいのか分からない
- 解決策:まずは2024年4月法改正に関連する「36協定」「労働条件通知書」を確認、その他「就業規則」「法定四帳簿」「健康診断結果」などもチェック
1 2024年4月法改正で、労働基準監督署の動きが活発に?
会社が労働基準関係法令に違反していないかをチェックする
労働基準監督署(以下「労基署」)の臨検監督(以下「臨検」)
は、年に17万1528件実施されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。そして2024年度は、次の2つの法改正の関係で、労基署の動きがさらに活発になる可能性があります。
- 2024年4月から、建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用(いわゆる「2024年問題」)
- 2024年4月から、労働契約の締結時に、労働条件として明示する事項が追加
臨検では、労働基準監督官(以下「監督官」)が会社を訪問するなどして、36協定、出勤簿、賃金台帳、就業規則などさまざまな書類をチェックします。できれば、臨検が入る前にセルフチェックをしておきたいところですが、
監督官が書類のどこを見るか分からないので、対応ができない
という会社がほとんどでしょう。そこで、この記事では社会保険労務士監修のもと、労基署の臨検で指摘を受けやすい書類と、そのチェックポイントを紹介します
2 労基署の臨検で指摘を受けやすい書類は?
2022年に実施された臨検(17万1528件)のうち、大部分を占めるのは定期監督等(14万2611件)で、主に次のような違反が指摘されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。なお、赤字部分は、前述した2024年4月からの法改正に関連する項目です。
これらの違反は、主に監督官が次のような書類をチェックする過程で見つかります。まずは、2024年4月法改正に関係する「36協定」「労働条件通知書」から始め、順番に書類のチェックポイントを見ていきましょう。
- 36協定(社員に時間外・休日労働を命じる場合に必要な労使協定)
- 労働条件通知書(社員と労働契約を締結する際、労働条件を明示するための書類)
- 就業規則(社員数10人以上の場合、作成が義務付けられている職場のルールブック)
- 法定四帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、年次有給休暇管理簿)
- 健康診断関連の書類(健康診断結果、医師の意見書など)
3 36協定のチェックポイントは?
36協定は、会社と社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)が締結し、労基署に届け出ることで初めて効力を生じます。この社員側の代表についてですが、労基署の臨検では
監督官が一般の社員に対し、「誰が社員側の代表ですか?」「どうやって代表を選出しましたか?(例:多数決)」などと、抜き打ちで質問をするケース
があります。ですから、自社の36協定について正しい情報を社内に周知徹底しておきましょう。また、協定の有効期間は1年間ですので、更新を忘れていないかも要チェックです。
さらに前述した通り、2024年4月から、建設業などにも時間外労働の上限規制が適用されています。上限規制に違反する36協定の締結や残業命令は認められないので注意が必要です(図表2)。
4 労働条件通知書のチェックポイントは?
労働条件通知書は、社員を雇い入れる際などに必ず書面で交付する必要があります(ただし、社員が希望した場合はメールも可)。また、前述した通り、2024年4月からこれまでの労働条件と併せて、次の内容を明示することが義務付けられています。
- 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
- 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
- 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する
古い労働条件通知書のフォーマットを使い回している場合、早期に修正が必要です。なお、フォーマットを見直す際は、念のため次のような内容についても確認しておきましょう。
- 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率が正しいか(2023年4月から、中小企業も「25%以上」から「50%以上」に引き上げられている)
- パート等の場合、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」も明示しているか(労働基準法ではなく、パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示)
5 就業規則のチェックポイントは?
まず、社員が10人以上の会社なのに、就業規則がない(または作成しているが、労基署に届け出ていない)のは違法です。また、就業規則は社内に周知して初めて効力を生じるので、
テレワークの社員がいるのに、就業規則はオフィスに紙の状態でしか置いていない
というのもNGです。
加えて、労基署の臨検では、
法改正があったタイミングで、就業規則の変更と届け出がちゃんと行われているか
が厳しくチェックされます。ここ数年の法改正であれば、例えば次のような内容について、適正なタイミングで変更と届け出がちゃんとなされているかを確認しておきましょう。
- パワハラがあった場合の相談窓口について(2020年6月から)
- 育児休業の分割取得や出生時育児休業の取得について(2022年10月から)
- 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率について(2023年4月から)
なお、就業規則を変更する際は、「就業規則本体」に加えて、「変更届」「社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)の意見書」を労基署に届け出ます。これらについても労基署が受理の押印をした会社控えがあるか、確認しておきましょう。
6 法定四帳簿のチェックポイントは?
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つは「法定三帳簿」と呼ばれており、最近はこれに年次有給休暇管理簿を加え、「法定四帳簿」と呼ぶことがあります。いずれも、法令で定められた項目を記載の上、3年間保存することが義務付けられています。労基署の臨検では、
ほぼ必ず提出を求められる重要書類で、法令上必須の項目が記載されていないと、是正勧告の対象になる可能性が高い
ので注意が必要です(図表3)。
加えて、賃金台帳と出勤簿については、次のような点にも要注意です。
(賃金台帳)
- 長時間労働が続いているのに、「固定残業代だから」と残業代を一律支給にしているなど、違和感がある賃金台帳が提出されると、監督官から指摘が入ることがある
- 賃金から「積立金」「社宅料」などを控除している場合、労使協定の締結について指摘が入ることがある
- パート等を含め、時給が最低賃金を下回る社員がいないか確認されることがある(都道府県ごとの「地域別最低賃金」は、2023年10月から全国加重平均額で1004円)
(出勤簿)
- 「始業・終業時刻や休憩時間が一律」など、違和感がある出勤簿が提出されると、監督官から指摘が入ることがある(パソコンのログとの照合を求められることも)
- 始業前などに「清掃」や「制服への着替え」が必要な場合、その時間が労働時間に含まれているか確認されることがある
7 健康診断関連の書類のチェックポイントは?
会社は、社員を雇用した際の雇入時健康診断や、年1回の定期健康診断などを実施しなければなりません。労基署の臨検では、
- 各社員の健康診断結果を作成し、一定期間保存しているか(原則5年間)
- 「異常の所見」があった場合、健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置(時間外労働の制限など)について医師等の意見を聴取しているか
- 社員数が50人以上の場合、定期健康診断結果報告書を提出しているか
などをチェックされる可能性があります。
ちなみに、社員数が50人以上になってくると、健康診断以外にも「ストレスチェックの実施」「産業医や衛生管理者の選任」「衛生委員会の設置」など、安全衛生関連の実務が増えていきます。これらの実務もチェック対象になり得るので注意が必要です。
8 書類以外も何かチェックされる?
ここまで、労基署の臨検でチェックされる可能性のある書類についてお話ししてきましたが、実際の臨検では、書類以外についても監督官のチェックが入る可能性があります。
例えば、建設業や製造業などの場合、工事現場や工場などの現場確認が行われることがあります。現場確認では、重機や手すりといった各種設備が労働安全衛生法の基準にのっとったものであるかなどについて確認されます。
また、サービス業のようなホワイトカラーでも、申告監督などの場合は、会社の提出した書類と従業員の実態に乖離(かいり)がないかを確かめるため、監督官から社員に対してヒアリングが行われるケースもあるようです。例えば、「1カ月のうち時間外労働がどの程度あるか?」「最近、労働災害に遭った人はいないか?」といった質問が考えられます。
以上(2024年6月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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