1 美術に触れる福利厚生を検討してみよう

近年、企業が提供する福利厚生の在り方が大きく変化しています。住宅手当や社宅、食堂などの「物」に関するモノ・福利厚生や、旅行・レクリエーションといった「事(コト)」を提供するコト・福利厚生を超えて、現代では、

従業員一人ひとりが「意味 (イミ)」を感じられるような、新しい福利厚生

が注目されています。従業員が自己実現を図ったり、社会的な意義を感じたりできるような体験を提供するというものです。この記事では便宜上、「イミ・福利厚生」と呼ぶことにします。

さて、イミ・福利厚生には様々な形がありますが、この記事では、

美術鑑賞や芸術活動への参加を通じて、従業員の創造性や感受性を高めることを目的とした「美術系福利厚生」

をご紹介します。感性に訴える体験は、ストレス軽減やメンタルヘルスの向上、コミュニケーションの活性化といった副次的な効果も期待できます。具体的な効果としては、

  • 従業員の創造性や発想力が高まり、業務への応用力が向上する
  • ストレスの緩和や情緒の安定など、メンタルヘルスの維持・改善に寄与する
  • 美術体験を通じた新たな気づきや視点の獲得により、多様性への理解が深まる
  • ワークショップや共同鑑賞を通じて、部門間のコミュニケーションが活性化する
  • 企業が文化支援を行う姿勢が明確になり、採用広報やブランディングにも寄与する

などが挙げられます。

2 美術系福利厚生の種類

美術系福利厚生には様々な形があり、企業の規模や目的に応じて、柔軟に取り入れることができます。ここでは代表的な支援の種類を、より具体的に紹介します。

1)経済的支援

従業員が美術館などの施設に行くのを奨励するために、経済的な支援を行う方法が考えられ ます。具体的には、

  • 入館料の補助・・・美術館・博物館の入館料を一部または全額補助することで、従業員のアート体験のハードルを下げる
  • 入館料の無料化(法人契約)・・・企業が美術館と法人契約を結び、従業員やその家族が無料で展示を鑑賞できる仕組みを導入する
  • アート手当の支給・・・映画・演劇・展示会など、美的な体験を対象に、月ごとや年ごとに一定額を「アート手当」として支給する
  • 交通費の補助・・・美術館・博物館への移動にかかる費用を補助し、地理的な制約を軽減する

などが挙げられます。

2)体験・学習機会の提供

企業が従業員に、美術館における体験・学習の機会を提供する方法もあります。具体的には、

  • 貸し切り鑑賞会の実施・・・美術館と連携し、企業専用の鑑賞時間を設けることで、静かな環境でアートを楽しめる機会を提供する
  • ガイド付きツアーの開催・・・学芸員や専門家の解説を通じて、アートの背景や技法への理解を深めるプログラムを組む
  • アーティストとの交流イベント・・・アーティストを招き、創作の裏側や人生観を聞くトークイベントを開催する

などが挙げられます。

3)企業としての芸術活動奨励

また、従業員自らの芸術活動を支援することも考えられます。具体的には、

  • オフィス内でのアート展示・・・職場にアートを展示し、日々芸術に触れられるようにする
  • 従業員の芸術活動支援・・・趣味で創作活動を行う従業員に作品発表の場を提供する
  • 社内アートコンペの開催・・・従業員から作品を募り、展示・投票・表彰を行う
  • アート副業の推奨・容認・・・従業員がアーティストとして活動することを企業が応援し、活動がしやすい勤務体系をつくる(週休3日、長期休暇など)

などが挙げられます。

3 中小企業における実践事例

ここでは、補助だけでなく、体験型・参加型のアート施策も取り入れている中小企業の事例を紹介します。大企業に限らず、柔軟な発想でアートを取り入れている企業は数多く存在します。

1)「自己啓発補助金」制度導入企業

とある中小企業では、従業員の感性や創造性、生産性の向上を目指し、「自己啓発補助金」制度を導入しました。

この制度は、映画や美術の鑑賞、書籍購入、スクール・語学教室の費用、オンライン学習、ニュース購読など、幅広い自己啓発活動に対して、年間最大10万円まで、企業が実費を補助するものです(申請はクラウド型経費精算システムを通じて、いつでも行うことができます)。

従業員が継続的に制度を活用できるよう、活用事例の社内共有や利用を促す働きかけも行っており、この福利厚生制度のリリース後、従業員数は約4倍に増加したそうです。

2)美術館での研修導入企業

とある中小企業では、地元の美術館で行う「対話型鑑賞」を活用したビジネス研修を導入しました。

対話型鑑賞は、参加者が作品を鑑賞しながら、「何を感じたのか?」「どう見えたのか?」などを話し合うというものです。例えば、グループの全員が同じ絵を鑑賞したとしても、その絵をどう見ているか、何を感じ取っているかはそれぞれ異なるため、社内のコミュニケーションが活性化するだけでなく、発想力や共感力を育てることにもつながります。

この美術館では、ファシリテーター (ワークショップや研修などの場で、参加者同士の対話や意見交換がスムーズに進むように支援する役割の人)を育成しており、参加者が気軽に意見を述べられるようになっています。

3)従業員のアート展示導入企業

とある中小企業では、社内にて従業員のアート作品を展示する取り組みを行っています。

展示される作品は、絵画や写真、立体作品、デジタル作品など幅広く、立ち止まって鑑賞する従業員も多く、社内コミュニケーションの活性化につながっています。もともと外部アーティストの作品展示を行っていたプロジェクトでしたが、社内にクリエーティブな趣味を持つ従業員が多いことが判明し、現在では従業員自身の作品展示に切り替えたそうです。

「私の作品も展示してほしい!」といった声も上がっており、今後も定期的に入れ替えられる予定です。この取り組みは外部にも開かれており、オフィス見学の受け付けも随時行われてい ます。

以上(2026年1月作成)

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