書いてあること
- 主な読者:肩こりに悩むビジネスパーソン
- 課題:そもそも、なぜ肩こりになるのか? どうすれば改善できるのか?
- 解決策:主な原因は「筋肉の過度な緊張」。机や椅子の高さなどオフィス環境の改善を図ったり、こりをほぐすマッサージなどを行ったりすることで改善できる
1 軽く見てはいけない「肩こり」
ずしりと何かが乗っかるような不快感に、鈍い痛み……。「肩こり」はいつの時代も、多くのビジネスパーソンを悩ませます。有訴者率の上位5症状(2022年)を見ても、男女ともに、肩こりは「腰痛」に次いで第2位にランクインしています(厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」)。
「肩こりや腰痛がもたらす経済損失は約3兆円」と試算した研究結果もあるほどで、会社の生産性を考える上でも、実は肩こりはとても重要な問題です。
「肩こりはあって当たり前、一生付き合うもの」と考えている人が多いでしょうが、
実は「オフィス環境」「マッサージやストレッチ」「生活習慣」を少し見直すだけで、肩こりを和らげられる可能性
があります。産業医監修のもと、肩こり解消のポイントをまとめましたので、気になる人はぜひこのコンテンツをご確認ください。
2 なぜ、肩こりになるの?
肩こりの主な原因は、「筋肉の過度な緊張」です。
人間は、首の骨を支柱として重い頭や腕を支えていて、その周りの首や肩の筋肉には常に大きな負担がかかっています。これらの筋肉が過度に緊張すると、血行不良が生じて酸素や栄養分が末端まで行き届かなくなり、筋肉は酸欠状態になります。
そして、酸欠状態でエネルギーを発生させると、乳酸などの老廃物が生み出されます。
血行が悪いと、老廃物は十分に排せつされず筋肉内に蓄積され、それが神経を刺激することで痛みや不快感が発生します。これが「肩こり」の正体
です。筋肉が過度に緊張する理由は、主に3つあります。
1)姿勢
人間の背骨は横から見ると緩やかなS字形に湾曲していて、全身のバランスを取ることにより、重心が偏らないようになっています。ですが、不自然な姿勢を取り続けると、全身のバランスが崩れてしまい、一部の筋肉が過度に緊張して、肩こりが起こります。うつぶせや腕枕などの不自然な姿勢で寝ている場合なども、肩こりになりやすいです。
2)運動不足
運動不足が続くと、筋肉の柔軟性が低下して次第に硬くなり、血管が圧迫されて血行が悪くなります。全身の筋力が弱ることにより、首や肩の筋肉に大きな負担がかかり、肩こりが起こります。
3)ストレス
ストレスがたまると、自律神経のうちの交感神経が刺激され、筋肉が緊張して血管が収縮し、肩こりが起こります。ストレスの原因は、多忙や人間関係、性格などさまざまですが、急激な環境の変化(「部署異動や転勤」など)があったときなどは、特に注意が必要です。
以上が、筋肉が過度に緊張する理由ですが、この他に、
内臓疾患(狭心症などの心疾患、肝炎・胆のう炎など)の症状で、肩こりが起こるケース
もあります。ですから、「頭痛や目まいなどを伴う」「肩以外の部分にも痛みがある」といった場合は、できるだけ早く医師に相談することをお勧めします。
3 オフィス環境を整えよう
デスクワークで長時間同じ姿勢を取ったり、パソコンを使用したりすることが多い職種では、特に肩こりに悩む人が多くいます。ここでは、肩こり対策としてのオフィス環境の改善法を紹介します。
1)机や椅子
机や椅子の高さが自分に合っていないと、首や肩、腕に力が入りすぎて肩こりが起こりやすくなるため、デスクワークでは机や椅子の高さの調節が重要になります。
理想的な椅子の高さは、座ったときに「膝と腰の角度が90度」になるのがよいといわれます。また、机の高さは椅子に座った際に「肘と同じくらい」が理想です。
2)デスクワークの姿勢
パソコンで作業をしていると、気付かないうちにディスプレーに近づいてしまうことがありますが、そのような場合、下を向く時間が長くなり、首の筋肉を過度に使ってしまいます。また、考え事をしているときなどは、足を組んだり、頬杖をついたりしがちですが、こうした姿勢も、首や背中の一部の筋肉に大きな負担がかかります。
デスクワークの姿勢は、
- ディスプレーから40センチメートル以上目を離す
- 視線を水平よりも少し下くらいに保つ
のが理想です。背筋をしっかりと伸ばして座り、体重は左右均等に配分するよう意識しましょう。また、机の周りが暗いと前かがみの姿勢になりやすく、これも肩こりの原因になります。ですから、スタンドライトなどを利用して十分な明るさを確保するようにしましょう。
なお、長時間パソコンに向かっていると、疲れ目による肩こりが起こりやすくなります。適宜休憩を取り、遠くの景色を眺めたり目薬を差したりして、目を休めることを心掛けましょう。
4 その場でできる簡単なマッサージやストレッチ
こり固まった筋肉をほぐすには、マッサージやストレッチを行うとよいです。首筋や肩の筋肉をもむ、軽くたたく、さらには肩こりに効くツボを指圧すると効果的です。ただ、その日の体調などによりマッサージやストレッチが逆効果になる恐れもあるので、自己判断はせず、医師・専門家の指示に従い、自分に合ったものを取り入れましょう。
1)マッサージ
人間の体には、内臓の働きや血行に大きく関係するツボ(経絡)があり、これらのツボを指圧することによって血行が良くなります。肩こりに効くツボは次の通りです。
- 風池(ふうち):後頭部、髪の毛の生え際のくぼんだ部分
- 天柱(てんちゅう):後頭部、髪の毛の生え際にある太い2本の筋肉の外側の部分
- 肩井(けんせい):肩のほぼ中央。肩先の中心点と首の付け根を結んだ真ん中部分
- 肩髃(けんぐう):肩の前側にある腕との境目のくぼんだ部分
- 曲垣(きょくえん):肩甲骨の内端のすぐ上にあるくぼんだ部分
- 膏肓(こうこう):背骨の中心部分から指4本分外側に行った部分
これらのツボを、親指・人さし指・中指などで、体の中心に向かって押し込むように、ゆっくりと指圧します。その際、一定のリズムで繰り返し指圧して刺激を与えるとよいでしょう。なお、首・肩周り以外にも、次のような肩こりに効くとされるツボがあります。
- 曲池(きょくち):肘を曲げた際にできるしわの外側の部分
- 手三里(てさんり):肘を曲げるとできるしわから、指3本分手首寄りの親指側の部分
- 外関(がいかん):手首の中央から指3本分肘寄りの部分
- 合谷(ごうこく):手の甲。親指と人さし指の付け根の骨に近い部分
- 頸頂点(けいちょうてん):人さし指と中指の付け根の間の部分
2)ストレッチ
筋肉をゆっくりと引っ張ったり伸ばしたりするストレッチも、肩こり解消に有効です。 ストレッチの基本は、首と肩の筋肉をほぐすことです。
- 両手の指を組んで大きく背伸びをする
- 手を伸ばして後ろで交差させて、ゆっくりと前屈する
- 30秒ほど時間をかけて、首を大きくゆっくりと回す
などをしてみましょう。
なお、ストレッチを行う際は、深く息を吸い込んで、吐き出すようにすることで、さらに血行が良くなります。腹式呼吸(おなかを膨らませながら息を吸い、おなかをへこませながら息を吐く呼吸法)を取り入れると、より効果的です。
5 生活習慣(食生活、歩き方や立ち方、服装など)に注目
肩こりの症状は、日ごろの生活習慣でも、ある程度改善されます。日常生活の中での見直しのポイントを紹介します。
1)食生活
肩こりの主な原因は筋肉の過度な緊張による疲労や血行不良なので、「筋肉の疲労を解消する」「血行を良くする」などの効果がある食べ物を取るのも効果的です。肩こりに効くとされる主な栄養素は次の通りです。
これらの栄養素が含まれる食べ物をバランスよく取ることが重要です。なお、表中の栄養素は食事の他、サプリメントで補ってもよいでしょう。
2)歩き方や立ち方
歩くときは背筋を伸ばして顎を引き、腕を歩く速度に合わせて軽く振るようにすると、正しい姿勢を保つことができます。通勤途中の電車などでも、「かばんなどを持つ手を時々左右で替える」「片側だけに体重をかけない」など、体のバランスを取ることを意識しましょう。
寝るときも、枕のサイズや柔らかさなど、自分に合ったものを選ぶなどして、バランスの良い姿勢で眠ることが大切です。
3)服装など
重い洋服は肩こりにつながりやすくなります。特に、冬場は厚着をすることが多いため、コートなどの防寒具はなるべく軽めのものを選びましょう。
また、靴選びも肩こり対策として重要です。足に合わない靴やヒールの高い靴を履いていると、歩き方に無理が生じて全身のバランスが崩れてしまい、一部の筋肉に負担をかけることになります。靴を買う際には、店で専門家の意見を聞きながら、自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。
4)運動
運動不足は筋肉の硬化による血行不良を招きます。「休憩時間に簡単な体操をする」「エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を利用する」「休日にウオーキングや水泳など、全身を動かすスポーツをする」など、日常から意識して運動を行うことが重要です。
5)ストレス対策
ストレスは、仕事や日ごろの生活の中で少しずつ蓄積され、やがて大きくなると肩こりを引き起こします。「小まめにストレッチをする」「一日のうちでゆっくりできる時間を持つ」「趣味に没頭する」などで、ストレス解消を心掛けましょう。
6)その他
肩こりは血行不良によって起こるため、こっている部分を温めて血行を良くすることが解消につながります。例えば、「入浴時に温かいシャワーを当てて刺激する」「乾いたタオルをのせ、その上から温めた蒸しタオルを当てる」「ドライヤーの温風やカイロを当てる」などの方法が効果的です。
以上(2024年3月更新)
(監修 株式会社フェアワーク 吉田健一)
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